最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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番外編~成長後~

11. プレゼント

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 グビッ
 私はグラスを手に持って中身のお酒を一気に飲み干した。

「オ~~ホッホッホッ! やっぱり今日もお酒は美味しいわね! ……さて」

(ジョルジュが戻ってくるまであと、三十分くらいはかかるかしら~)

 ジョルジュがお花摘み(御手洗)に行くと部屋を出て行ってから約三十分。
 慣れ親しんだ自分の邸内で迷子になれる夫、ジョルジュ。
 ただぼんやりと戻ってる来るのを待っているのも時間の無駄なので、夕食前だけど軽~くお酒を飲みながら待つことにした。

「ホホホ、ジョルジュの場合、比喩ではなく本当に外に出てお花摘んでそうよね~~」

 ───俺はなぜ外にいる……? 分からんがとりあえず、花は摘んでおくか……

 そんなことを言って土いじりをおっ始めるジョルジュの姿を想像するだけでも笑いが込み上げてくる。
 そうしていい感じに酔い始めた私が一人でケラケラ笑っていると、コンッと小さなノック音がしたと同時に部屋の扉がバーンッと開いた。

「……あ?」

(今のはノック? ノックなの?)

 この開け方はジョルジュではない……
 部屋を訪ねてくるのにノックをしないよりはマシ───だとしても。
 入室の許可の声を与える前に先に扉を開けられては意味がない。

「ホーホッホッホッ……」

(この私に、そんな半非常識なことを平気でするのは───……)

「────おばあ様、見てください!」
「ジョシュア……」

(やっぱり!!)

 ニパッと笑った孫のジョシュアが開いた扉から入って来た……のだけど。
 ブフォッ!
 その姿を見て私は盛大にむせた。

「……っ、ゲホゲホ」
「おばあ様!?  どうしました、大丈夫ですか!?」

 ジョシュアが慌てて駆け寄って来ると私の背中をさすってくれる。
 純粋に私を心配してくれるその姿は本当にいい子でよく出来た孫だと思う。  
 しかし……

(そ  の  格  好  は  な  に  ご  と  !?)

「ちょっ、ジョシュ……ケホッケホケホ……」
「大変だ、おばあ様が突然むせちゃった……お酒の飲みすぎで天に召されてしまうかもしれない……」
「!?」

(な  ん  で  よ  !?)

 ケホケホッ……
 文句を言いたかったけれど、更にむせてしまう。

「くっ……」
「おばあ様! しっかりして下さい!」
「……っっ」
「あう、あ……」
「…………っっっ」
「おばあ様! おばあ様はなんだかんだでまだ僕のことを踏んでくれていません、だから……まだ早すぎます!」

(コイツ……!)

 ケホケホッ、ケホケホ……
 ダメ、むせすぎて声が出ない。
 どうしてこの子の思考はいつも変な方向に全力で走っていくの!?
 そして私が突然むせたのは“自分のせいかも”なんて一欠片も考えないのは何故なのよ……
 そこへ、今度は遠くからトトトトトッと廊下を駆けてくる足音が聞こえた。

(この足音……嫌な予感───)

「───お兄様、これはなんの騒ぎですの!?」
「アイラ!」

 思った通り、廊下を駆け抜けて部屋に入って来たのはもう一人の孫、アイラ。
 しかし、その手には最近のアイラのお気に入り。愛用の鞭。
 こっちはこっちで、何をしていたわけ!?

「廊下を歩きながら鞭をさばく練習をしていたら、お兄様の“あうあ”が聞こえましたわ!」
「アイラ……!」

(だ  か  ら、  な  ん  で  よ  !?)

 廊下を歩きながら鞭をさばいてるのも意味が分からないし、ジョシュアの“あうあ”を聞き取ったアイラの地獄耳も意味が分からない。

「アイラ、大変なんだ! おばあ様が突然苦しそうにむせちゃって……今にも天に召されちゃいそうなんだ!」
「!」

 ジョシュアの言葉にアイラがハッと息を呑む。  

「おばあ様……!」

 アイラも私に駆け寄るとジョシュアと一緒に背中をさすり始めた。
 この子もいい子。いい子なんだけど……

「そんなのまだ早すぎますわ、おばあ様はまだまだこれからも長生きして、遠慮なく殿方を踏みつける術をわたくしに伝授してくださらなくては!」

(……あ?)

 兄は、まだ踏んでくれてないと嘆き、妹は踏みつける方法を教わってないと嘆く……
 相変わらずな二人に私は思いっきり脱力した。
 ……どうしてかしら。
 こんなにもへんてこりんな二人なのに、社交界では絶大な人気を誇っている。
 この国の貴族たちの頭と目が心配になるほど。

「……ま」
「「ま!?」」

 何とか力を振り絞って言葉を発しようとしたら、ジョシュアとアイラが顔を覗き込んでくる。
 私はキッと二人を睨みつけた。

「まだ、召される気なんて無いわよーー! 勝手なことを言うんじゃありません!!」
「あ、うあ~」
「ぅぁっ」

 私の勢いに圧倒された二人がペタンッと尻もちをつく。
 そのまま私はゼーハーゼーハーと息を切らしているとジョシュアがへたり込んだままニパッと笑った。

「アイラ! やったよ、おばあ様が生き返ったよ!」
「ええ。やりましたわね、お兄様! やはりおばあ様は不死身ですわ!」
「不死身じゃないから! ────それから、ジョシュア!」

 私はむせる原因にもなったジョシュアをビシッと指さす。

「うん?」

 キョトンとしたジョシュアが首を傾げる。

「その、まるで“エドゥアルト”を踏襲したような珍妙な格好は何事なの!?」

 ───そう。
 なぜか今、ジョシュアはエドゥアルトが好みそうな珍妙なカツラを被り、これまたエドゥアルト愛用の物とそっくりな髭付きのメガネを装着している。
 そんな格好で突然部屋に侵入されたら、さすがの私だって動揺する……

「はい! だから、僕はこの姿を一刻も早くおばあ様に見せたいと思い、急いでやって来ました!」
「……」

 ニパッと笑いかけてくるジョシュア。
 その横でアイラが眉をひそめた。

「え? お兄様、その格好に着替えられたのは昼食の後でしたわよね?」
「うん! お昼ご飯の後に届いたからね!」
「すぐに着替えて、これはおばあ様に見せなくちゃってルンルンでお部屋を出ていきましたわよね?」
「うん!」

 話の雲行きがどんどん怪しくなっていく。
 私はチラッと部屋の時計を見上げた。
 ジョシュアが部屋を出たのは昼食後らしい。
 しかし、今の時刻はもう夕食の前────……

「でも、もう空が暗いんだ。どうしてかなぁ、不思議だよね?」

 そう言ってニパッとジョシュアは笑った。

「ホホ、ホホホホホ……」
「「おばあ様?」」

 確かにギルモア家は広い、広いけど!
 ジョルジュだって戻って来る気配が無いけど!

「恐ろしいわぁ、ジョルジュの血……」

 私がポソッと呟くとジョシュアがハッとした。

「そういえば、おばあ様の一大事なのにおじい様がいません!」
「…………その辺で花でも摘んでるんじゃない?」
「お花を? おじい様は呑気ですね?」
「のん! …………ジョシュアに言われたくない言葉ねぇ、コホンッ、それで? どうしてジョシュアはエドゥアルトみたいになったわけ?」

 ジョシュアと話していると流されてすぐに話が脱線してしまう。
 なので、私は慌てて話を戻した。

「はい! これは、ナターシャから貰いました!」
「は?」
「最高のプレゼントです!!」

 ジョシュアはとても嬉しそうにニパッと笑った。

(ナターシャですって?)

「……えっと、“ほっほっほ! そこまで言うのなら『お父さまセット』を差し上げるからジョシュアもお父さまみたいな格好をしてごらんなさい!”って言われて贈られました!」
「…………話が見えない」

 ナターシャが“エドゥアルトセット”なるものを送ってきたことしか分からない。
 私が聞きたいのは、なぜそうなったか、なのに!
 私はニッコリ笑ってパンッパンと手を叩く。

「はいはーい───ジョシュア、説明!」
「あ、はい! えっと、先日、僕がナターシャに“エドゥアルトおにいさんはいつもどんな時もかっこいいよね”と言ったら、ナターシャが元気にほっほっほと笑い出して……」
「……」  

(なるほど……)

 この珍妙な被り物をして人前に出たら周囲にどんな反応されるかを実際その目で体験してみろとナターシャはセットを寄越したわけね?
 これが普通の子・・・・ならそこで、このグッズを見てたじろぐのでしょうけど、ベビーの頃からエドゥアルトのこの姿を見てきてキャッキャしてたジョシュアにとっては……

(そりゃ、ご褒美よねぇ……)

 ここで、アイラが小さく頷いた。

「さすがナターシャ。こんなに素敵なプレゼント……お兄様のことをよく理解していますわ」
「だよね!」

(やめてあげて……)

 この場にナターシャがいなくて良かった。
 本当に良かった。

「まだまだお兄様の理解が足りない、その辺の小娘が“愛でる会”の会長になるのは我慢なりませんが、ナターシャなら文句はありませんわ」
「だよね!」

(やめてあげてぇぇ……)

 この会話を聞いたらナターシャ、絶対に発狂しちゃうから!  
 ナターシャは私にとっても孫同然の子。
 あまり追い詰めたくはない。

「あなたたち……別に会長はナターシャでなくてもいいでしょう? 小娘が嫌なら会員には男だっているわけだしその中から選出してもいいんじゃない?」

 だって、微笑みの貴公子───ジョシュアの人気は老若男女問わずなのだから。
 しかし、私のその言葉にアイラがまるでジョエルのように眉をピクリとさせた。
 顔はセアラさんに似てるはずなのになんてそっくり……

「いいえ、おばあ様! ダメですわ!」
「なんでよ?」
「男でもお兄様の微笑みにデレデレするような方では、会の統率なんてとても出来ませんわ。すぐに崩壊するに決まっています!」
「うっ」

 それは一理ある……
 だってジョシュアの微笑みは男にも有効。
 ベビーの頃から“可愛い”を武器にしてきた男の微笑みは伊達じゃない。

「それにナターシャのあの鋭い目は最高ですわ!」
「痺れるよね!」

 ニパッ!

「ええ。背筋をピンッと正して言うこと聞かなくてはという気持ちにさせられますから」
「凄いよね!」

 ニパッ!

「そう、まるでおばあ様!」
「おばあ様だ!」

 ニパッ!

(おいっ!)

「ですから、ナターシャが全てにおいて会長にピッタリですわ!」
「……」

(ダメだわ、アイラが興奮している……)

 普段、静かなアイラはジョシュアのことになると急に目を輝かせて口達者になる。
 そして、一旦こうなると目的を達成するまで止まらない。

 ────ナターシャ……お願い、どうか強く生きて?

 残念ながら、私にはそう願うことしか出来なかった。
 
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