最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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番外編~成長後~

12. 変人

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 後日。 
 ナターシャが我が家に訪ねて来た。
 ジョシュアに送り付けた『お父さまセット』の成果を確かめに来たようだけど────


「────どういうことですの? ジョシュアが喜んでいる……?」
「ええ、大喜びよ。あれから毎日、アレを着用しては浮かれまくっているわ」 
「そ、そんなバカな……」

 私の目の前に座っているナターシャが目をまん丸にして絶句している。
 信じられなかったのか、下を向いて暫く沈黙。
 その後、ナターシャはブンブンと勢いよく首を左右に振ってから顔を上げた。

「……アレを装着して喜ぶ人なんて、わたくしのお父さまくらいのはずですわ!」
「ナターシャ。あなたがそう思いたい気持ちは分かるわ。でもね? うちのジョシュアは───」

 私がそこまで言いかけた時だった。
 コンッと小さなノックの音がしてバーンと部屋の扉が開けられた。
   
「おばあ様、おばあ様! ナターシャの匂いがしました!」
「ひ! ひぃぃいっ、化け物!?」 

 突然、勢いよく現れた人物の姿を見てナターシャが悲鳴を上げる。
 そのまま思いっきり顔を引き攣らせながら“化け物”と叫んだ。

(ホーホッホッホッ…………化け物……ね)

「ちょっ、もしかして、あ、あなた、ジョ……ジョジョジョジョシュア、ですの!?」
「えっ? ジョジョジョジョジョジョシュア? そうじゃなくて、僕はジョシュアだよ」

 現れた人物───私のやべぇ孫、ジョシュアはニパッと笑った。

「と、とにかく! あなた、ジョジョジョジョジョジョジョシュアなんですの、よね!?」
「だから、ジョジョジョジョジョジョジョジョジョシュアじゃなくて、ジョシュアだよ?」

(どんどん増えてない?)

「も、ももももう! い、今はそ、そんなこと、どうでもいいですわ……! ジョ……あなた、いったい何してますの!」
「え? もちろん、エドゥアルトおにいさんの真似だよ?」

 ニパッ!

 気のせいかしら───こんなやり取り、ジョエルとエドゥアルト……
 この子たちの父親同士が出会った頃にやってなかったかしら?

(ホーホッホッホッ、改めてナターシャってやっぱりエドゥアルトの子だわぁ……) 

 それより、ナターシャのこの動揺っぷり。

(分っかるわーー……) 

 私は目の前で怯えた目でジョシュアを凝視しているナターシャに深く深く同情した。


 先日、ナターシャからの贈られたという“お父さまセット”
 エドゥアルトみたいな格好になれるセットを貰ってそれはそれは大喜びしていたジョシュア。

 ───アイラ! これは楽しいね。それに、もっと色々な工夫が出来るかもしれないよ!
 ───ええ、お兄様! やってみましょう!

 そうして、やべぇ感性を持った兄妹は楽しそうにアレンジを開始。
 ジョシュアは積極的にアイラのアドバイスを取り入れ、本家のエドゥアルトですらやらないような工夫をせっせと付け加え始めた。

(それが───これ)

 ただでさえ愉快な髭付き鼻メガネには、極太の眉毛をくっつけて、クルックルにカールした髪のカツラには、ベビー時代にこれでもかと沢山集めてコレクションにしていたどデカいおリボンを付け、これまたベビー時代に使っていた小さなサイズの麦わらで編まれた帽子をちょこんと頭に乗せて……
 おまけにエドゥアルトも大好きでよく使う“本日の主役”の襷を肩から斜めにかければ───

(立派な不審者の出来上がりよーー!)

 オ~~ホッホッホッホッホッホッホッホ……私は心の中だけで盛大に高笑いする。

「ジョ、ジョジョシュア……そ、れがお父さま、の……」

 ナターシャがおそるおそる口を開く。

「かっこいいでしょ! アイラと一生懸命考えて工夫したんだ~」
「ア、アイラお姉さま、と……?」
「そうだよ~アイラはおばあ様に似て“センスの塊”だからね」
「セ、センス……そ、それが!?」

 明らかにナターシャの声は震えているのに、当のジョシュアは気にする様子もなく満面の笑顔。

「えっと、ジョ、ジョシュア……」
「うん?」
「あ、あなたのこと……わたくし、ずっとずっとずっとずっと阿呆だと思ってましたの」
「うん、ありがとう!」

 ニパッ!

(……おかしいわね? ここはお礼を言うところかしら)

 明らかに暴言を吐かれてるんだけど?
 やっぱりうちの孫、感性がおかしい……
 このズレた感性はジョルジュに強く似ちゃったのね、と感じる。

「ですが、あなたはわたくしが思っていた以上の……いえ、もはや、お父さま以上の変人ですわ!」
「うん!」

 ニパッ!

(なんで、ジョシュアは笑って肯定してんのよ……)

 変人呼ばわりされてもニパッとしているジョシュアに私は恐怖すら覚える。
 そして、ナターシャ。
 お父さま以上の変人って、つまり父親のエドゥアルトのことをそんな目で……見て、いる?

(エドゥアルト泣いちゃう!)

「……わ、わたくし、ずっとずっとベビーの頃からお父さまの不気……ゲフンゲフン、ふ、不思議な格好をたくさん見てきましたけど……」
「あ、専用のお部屋があるのって凄いよね! 僕も欲しい!」

(作らないわよ!?)

「そんなお父さま以上の変人なんて、さすがにいないと思っていましたのに……」
「そう? でもほら、僕たちはずっと仲良しだから~」

 ニパッ!
 満面の笑みのジョシュアとは対照的にナターシャの顔が青ざめていく。
 そして頭を抱えた。

「なんということでしょう…………わたくしはこんな予測不能な行動をする男を愛でている方々が集まる会の長に相応しいと思われてます、の……?」

(ホホホ、ストッパーの意味でね)

「心外ですわ……」

 私にはナターシャの動揺が手に取るように分かる。
 かくいう私も、若い頃はジョルジュの予測不能な行動に散々振り回されたもの。
 そして今はそこに息子と孫たちも加わったわ!

「あの話? アイラも言ってたけど、僕も絶対にナターシャしかいないと思う。ピッタリだよ!」
「~~っ!!」

 クワッとナターシャの目が大きく見開いた。
 そしてキッとジョシュアを強く睨みつける。
 もちろん、その鋭い睨みつけはジョシュアに全く効かないのだけれど。
 案の定、ジョシュアはニパッと笑い返した。

「くぅっ……」
「ナターシャ? どうかした?」
  
 不思議そうに首を傾げるジョシュア。
 無言になり、下を向いたナターシャがブルブル肩を震わせている。
 私は何とも言えない気持ちでそんなナターシャを見守った。

「フッ……ホホ、ホホホホホ、ホッホッホ!」

 顔を上げ、口元に手を当てて高らかに笑いだしたナターシャ。

「ええ、ええ。分かりました。そこまで言うなら────やってやりますわ!」

(ええええ!?)

 ナターシャの発言にさすがの私も驚いた。
 一方のジョシュアはニパッと嬉しそうに笑う。

「本当に? ナターシャ!」
「ええ、ええ。このわたくしが先頭に立って、あなたの真の姿変人っぷりを披露して会員の方々の目をこの手で覚まさせてやりますわぁ!」
「あはは~、よく分かんないけどナターシャの意気込みがすごいや~」

 ジョシュアはヘラヘラ嬉しそうに拍手している。
 よく聞け! と言いたい。

「ふっふっふ、目指せ、解散! ですわ!!」 

(ナターシャ……)

 どうやらナターシャは中から愛でる会を壊そうと決めたらしい。
 普通の人が相手ならそれも有効だとは思う。
 でも……

「ありがとう、ナターシャ!」
「ひゃああぁあ!?  なななななぜ、抱きつくんですの!?」

 ジョシュアがナターシャにガバッと抱きついた。
 突然抱きつかれて焦ったナターシャは必死にジョシュアを引き剥がそうともがく。

「え? ナターシャは会長さんになるんだから、つまり僕のこと大好きってことでしょ?」
「違いますわよぉお!?  あなた、人の話聞いてましたの!?  自惚れるのも大概になさいませ!」
「えーー……」

 ベリッと剥がされ思いっきり拒絶されたジョシュアは、うーんとなにかを考える素振りを見せ、ニパッと笑った。
 そして帽子に付けていたリボンを一つ剥がす。

「な、なんですの……?」

 そして、ジョシュアは怪訝そうな顔をしているナターシャの頭をヨシヨシと撫でると、剥がしたリボンをそっとナターシャの頭に近づける。

「なっにを……!?」
「ナターシャもこのリボン好きだったよね」
「え、あ……」

 突然のことに動揺している最中のナターシャの髪の毛にジョシュアはそっとリボンを付ける。
 そしてニパッと笑った。
  
「うん、可愛い!」
「くわっ、いィっっ…………!?」

 その瞬間、ボンッとナターシャの顔が真っ赤になった。


─────


(はぁ、すっごい光景を間近で見ちゃったわぁ……)

 あれが微笑みの貴公子ジョシュアによる(無自覚)タラシ術……
 あれは無理。
 無駄に顔がいいジョシュアによるあの攻撃は───危険すぎる。
 あのナターシャも完全に腰が砕けてフラフラになりながら帰って行った。

「おばあ様。ナターシャ、帰る時に足元がフラフラしてたけど大丈夫かなぁ?」

 ジョシュアがチラチラ外を気にしながらそう言った。

「いっぱい睨まれたから元気そうだったけど───あ、おばあ様、もしかしてお酒飲ませました?」
「ホホホ……なんでよ」
「だって、なんだかナターシャのお顔が赤かったです」
「ホーホッホッホッ……ジョシュアが可愛いとか軽々しく口にするからでしょ」

(そう、あれは遂にロマンス……二人の間にロマンスの気配を仄かに感じたわ~~)

 ジョシュアのナンバーワン嫁候補、ナターシャ!
 ついに二人の中も進展!?  と、年甲斐もなくドキドキワクワクしたわ。

「え?」
「……え?」

 しかし、なぜかここでジョシュアが不思議そうに首を傾げた。

「ちょっと、なんでそこで首を傾げるのよ」
「だって……」
「だって?」

 嫌な予感がしつつ私が訊ねるとジョシュアはニパッと笑った。

「やっぱり、あのリボン・・・は可愛いなぁって思います!」
「リッ……○×△☆♯♭●□▲★※!?」

 嘘でしょう!?  褒めていたのは……リボン!

(コイツーーーー!)

 一番可愛いのはボクです~とかほざいてたベビーの頃から何一つ変わってない!
 私は思いっきり頭を抱えた。

「あ、もちろんナターシャも……」
「────ジョシュアァァア!!」
「は、はい!」

 私の大声にビクッと身体を震わせたジョシュアがビシッと背筋を正す。

「あなた、今すぐジョエルの所に行って『新・人生の指南書~女心は山あり谷あり版~』を借りて来なさい!!」
「え? まだ誰も読んでないホヤホヤの最新刊、女心は山あり谷あり版をですか? なぜですか?」
「いいから!!」

 私はキッと思いっきりジョシュアを睨みつけた。

「あ……あうあ!」
「あうあじゃない! さっさと行く!!」
「はいです!」

 ジョシュアは慌てて部屋から出て行った。
 そして見事にジョエルの部屋の方向とは逆方向に曲がっていく。
 一時間くらいで戻ってくるでしょう。
   
「ふぅ、はぁぁぁぁ……」

 そんな走り去っていくジョシュアの後ろ姿を見つめながら私は深~いため息を吐いた。
 ジョシュアはジョルジュ並み……いいえ、それ以上に恋愛音痴に育ってる……
 残念ながら、ロマンスは始まらなかった。

(このままでは、ジョシュアには永遠にお嫁さんが来ないかも!)

 それは困る。非常に困る。

「もう、若干手遅れの気もするけど、複雑な女心を一から学ばせないと……」

 このままでは、無駄に被害者だけが増えてしまう───……

「…………当時、かなりへんてこな男だと思っていたけど、案外ジョルジュくらいがちょうど良かったのかもしれないわぁ」

 表情筋が死滅していたジョエルも苦労した。
 けれど、ジョシュアのように生き生きし過ぎているのも問題なのだと私は実感させられた。
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