最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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番外編~成長後~

13. 女心は難しい

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「───母上、ジョシュアが人生の指南書の最新刊を求めて来た!」
「あ?」

 夕食前だけど軽く晩酌でも……と思い、お酒を注いで飲もうとした所で、突然部屋のドアがバーンと開けられた。 
 誰かと思えば、飛び込んで来たのはジョエル。
 ちなみにジョシュアを追い出してから、だいたい二時間くらい経っている。

「それがなに?」
「ジョシュアが母上の指示だと言っている!」

 クワッとジョエルが目を釣り上げた。
 私の息子さんはいったい何に興奮しているのかしら……?

「そうよ~、だってあの子……」
「まだ早い!」
「あ? 早い?」

 私が眉をひそめながら聞き返すとジョエルは語気を強めた。

「なんでよ?」
「ジョシュアは、まだ応用編も読み終えていないちびっ子だ!」
「ちびっ子……」

 私はやれやれと肩を竦める。
 そして、とりあえずグラスに注いでいた酒をグビッと飲み干した。

(確かに、ジョシュアはまだまだお子様よ……でも)

「いいこと? ジョエル」
「……」
「ジョシュアはね、あなたやジョルジュが持ってないものを生まれながらにして持ってるの」
「……」
「それが何かわかる?」 

 ジョエルは無言で首を横に振る。

(分かりなさいよ……)

 おそろしいほど決定的な違いがあるというのに、この反応はなぜなの……?

「いいこと? ───ジョシュアは愛想がいい」
「……ジョシュアは愛想がいい」 

 ジョエルは眉間に皺を寄せながら、そっくりそのまま私の言葉を返してきた。

「誰が復唱しろと言ったのよ!」
「え、いや。だって母上はいつも復唱しろ、と……」
「お黙り! いつの話をしてるのよ!」
「……」

 私が叱るとジョエルはスンッと黙り込んだ。

「ジョシュア───あの子は、ベビーの頃から“あうあ”の一言とニパッとした笑顔で周囲をメロメロにして来たでしょう?」
「……」
「あの子は中身はそんなベビーな心のまま、身体だけがお年頃に成長しちゃった状態なの」
「……」
「分かる? あのままじゃ、ただの天然タラシ男まっしぐらなのよ……!」
「……?」

 ジョエルの眉がピクリと動いた。
 この微妙な顔……私の息子さん、タラシ男が何か分かっていないかもしれない……!

(ジョエルも結構、世間に疎いのよねぇ)

 だって、友だちと呼べるのはエドゥアルトしかいないから。
 私を除いて友人ゼロな夫、ジョルジュから思えば一人でも素晴らしいことなのだけど。
 ただし……

(肝心のエドゥアルトも変わった子だから……)

 私はナターシャがエドゥアルトを変人と認識していたことを思い出して遠い目をする。
 とにかく、ジョシュアの天然タラシ男っぷりで、すでに被害者(ナターシャ)が発生。
 ベビーの頃から打倒ジョシュアだけを一途に掲げて成長した“あの”ナターシャの腰を砕くほどの威力……
 あれを他の令嬢に向けたが最後、社交界は大パニックに陥るかもしれない。

(それだけは阻止しなくちゃ…………ギルモア家の名にかけて!)

「いいから、ジョシュアにはすっ飛ばせて最新刊を読ませてあげて」
「だが……」
「ダメ! この国のお嬢さんたちの運命がかかってるのよ!」
「……運命」
「そう!」

 興奮した私はバンッと強めにテーブルを叩く。

「ジョシュアには! 何としても! 早急に! 女心を学んでもらう必要があるのよ!」
「……!」



 そうしてジョエルを追い出して、さらに時間が経った夕食の席。
 ジョシュアはニパッと笑いながら私に言った。

「おばあ様! 先ほどお父様からお借りして『新・人生の指南書~女心は山あり谷あり版~』に少し目を通しました!」

 どうやらジョエルはちゃんと私の言うことを聞いて本を渡してくれたらしい。
 私は満足して頷く。

「それは良かったわ。それで、読んでみてどう? 少しは女心を理解出来たかしら?」 

 ジョシュアはニパッと笑った。  

「さっぱりです!」
「……あ?」
「おばあ様、やっぱりまだ僕には早すぎるかもしれないです」
「…………なんでよ」

 私が聞き返すと、ジョシュアは再度ニパッと笑う。

「例えばですが、どうしてお腹が空いてるのに“空いてないわ”などと回りくどいこと言うんですか?」
「え……?」
「だって、同じ女性でも天使な妹のアイラはお腹が空くと“早く料理を持ってこい”と料理人を脅しています!!」
「は?」

(料理人を……脅す?)

 待って! アイラは何してるの?
 そう思った私はチラッとアイラに視線を向ける。
 しかし、肝心のアイラはジョシュアの暴露にも一切顔色を変えることなく、本日のメイン料理のステーキ肉を淡々とナイフで切り分けて口に運んでいる。

「僕はアイラがお腹を空いてる時に“お腹空いてない”と口にすることを聞いたことがありません! なぜですか!」

(私に言われても!)

 これは、本音を言葉の裏に隠しているけど察して欲しい面倒くさい女の特徴の一つ……
 身近な女性のアイラと比べて疑問を感じたらしい。

「そもそも、アイラはそんなに喋らないでしょう?」
「いいえ、天使のアイラはお父様のように目で語ります!」
「……」

(アイラのことは察せてるのに……)

 私はガクッと肩を落とした。
 それから、本当の天使は料理人を脅したりしないから!
 ジョシュアによるアイラへの天使フィルター、どうなってるの?

「それから、困ってる時は解決策を述べるより、共感しましょう! …………共感だけで困りごとは解決しません!」
「!」

(正論!)

 めちゃくちゃ正論ぶつけて来たーー!
 ジョシュアの言ってることは間違いなく正論。
 正論なのだけど……

「おばあ様! 僕はギルモア家の男として“大変だったね”で終わらせるわけにはいかないです」
「ホホホ……」

 私はもう笑うしかない。
 ダメだ。
 良くも悪くも素直なジョシュアには、きっと察して欲しい女心は多分一生、理解出来ない。

「あ、でも、コロコロ気分が変わるというのは僕、分かります」
「え? そうなの?」

 ジョシュアがニパッと笑った。

「はい! だって、おばあ様がそうですから!」
「……は?」
「小さい頃からずっと見てきた僕はとっても慣れてます!」
「────○×△☆♯♭●□▲★!!」

(コイツ……!)

 ジョシュアはニパッと笑って任せてくださいと言わんばかりに大きく胸を張った。


─────


「ははは、ジョシュアは面白かったな」
「ぜんっぜん、笑い事では無いんだけど!?」

 夕食を終えて部屋に戻るとジョルジュが先ほどの会話を思い出したのか愉快そうに笑った。

「ジョシュアは昔からガーネットが大好きだからな」
「は? それがなに」
「だから、ジョシュアは、ガーネットのようにズバズバはっきり言える女性が好みなんじゃないか?」
「……まあ、それは昔からそう言っていた気がするけど」

 私がそう言うとジョルジュはフッと笑った。

「大丈夫だ、ジョシュアも誰かに恋をすればきっと変わる」
「え?」
「俺はガーネットに恋をしてから世界が変わったし、色々学んだ!」

 ジョルジュの言葉に私は苦笑する。

(デリカシーは学ばなかったようだけどね!)

「ジョエルだって変わっただろう?」
「それは、そうだけど」

 セアラさんに恋をしたジョエルは面白かった。
 そして、確かに驚くくらいの変化を遂げた。

「だから、きっとそのうちジョシュアも……」

 ジョルジュがしみじみとした様子でそう言いかけた時だった。
 バーンと部屋の扉が開く。

「おばあ様! 女心を深く理解するには、多くの女性と仲良くすべきと書かれています!!」
「……あ?」

 ノックも無しに飛び込んで来たことより、その発言内容に驚いた。

「本当なの? と聞いてみたら、アイラも頷きました!」

(アイラァァ!?)

 アイラは、ジョシュアの話が長くなると聞くのが面倒になって適当に返事をする癖がある。

「ですから、“愛でる会”の皆さんを呼んでお茶会をしましょう!」
「えっと、ジョシュア……?」
「僕、明日、会長のナターシャに開催をお願いしてみます!」
「あ……」

 ジョシュアは私の返事も聞かずに、では! と笑って出て行った。

「ホホ、ホホホホ……さすがあの本」
「ああ、相変らず的確で素晴らしい本だ!」

 ジョルジュがキラキラ目を輝かせている。

「褒めてないわよ!?」
「なに?」

(夕食の時に聞いた話ではそれっぽい解説してると思ったのに!)

 やはり、人生の指南書シリーズは甘くない。
 私はガクッと肩を落とす。

「ナターシャが苦労する未来が見えたわ」
「そうか? あの子なら、これを機に愛でる会とやらを解散させてやりますわーーとか言い出しそうだが」
「……」

 ジョルジュのその言葉に、
 とにかく深く考えず、楽しければいいよね! と、ニパッと笑うジョシュアと、
 やってやりますわぁーーと意気込むナターシャの姿を想像した。
 
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