最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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ギルモア家と愉快な人々の日常

不審なジョルジュ【ガーネット&ジョシュア】

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「うぅ、さすがに飲みすぎたわね……」

 私はズキズキする頭を押さえながら使用人の運んで来た水をクビッと飲み干した。
 昨夜、調子に乗ってジョルジュと酒を飲みすぎた。
 気付くと寝落ちしていてベッドに寝ていたのだけれど、その辺の記憶がない。

 ───ホーホッホッホッ! ジョルジュ。今夜の私はとっても気分がいいから今夜は特別にあなたを踏んであげるわ!
 ───ガーネット! それは本当か!
 ───ええ、もちろん。さあさあさあ、ジョルジュ。そこに横になりなさい!
 ───分かった! これでどうだ? さあさあさあ! いつでも踏んでくれ!
 ───オ~~ホッホッホ!
  
 ムギュッ!  

(って会話をして踏みつけたことまではうっすらと覚えているんだけど……)

 それから、私はいつベッドに入ったのかしらね?

「あうあ!」

 うーんと頭を抱える私に向かってお気に入りの最高級のミルクをグビグビと飲み干したジョシュアがニッパニパの顔で笑いかけてくる。

「ジョシュア、なに?」
「あうあ!」

 ニパッ!

(この子はいつもご機嫌ねぇ……あ、でも)

「セアラさんに聞いたわよ? あなた今朝、廊下まで転がっていたんですって?」
「あうあ!」

 ニパッ!
 ジョシュアが可愛い顔で笑う。

(これは、肯定のニパッ───かしらね?)

 なんて言っているかは不明だけどそういうことにしておきましょう。
 通訳の出来るジョルジュとジョエルが目覚めるまでは、ジョシュアの気持ちはありとあらゆる角度から推理するしかないもの。

「ジョエルもアイラも本当に生きてる? ってくらいピクリともしないのに、あなたの寝相は豪快ね?」
「あうあ~」
  
 本当、部屋の床に絨毯を敷いてフカフカにしておいて正解。
 ジョシュアが誕生してから、寝ているベビーというものはあちこちに転がるものだと知った。
 本当に見た目も中身も元気な子。  

「あうあ、あうあ! あうあ~」
「はいはい、なぁに? 今日もミルクが美味しい? そうね、二日酔いの私はお水が美味しいわぁ、ホホホホホ」

 ジョシュアの“あうあ”攻撃をそう解釈した私は水をもう一杯グビッと飲み干した。


✲✲✲✲✲


 おばーさまがおみずをグビグビしてるです。
 そんなおばーさまにボクはせつめーするです!

「あうあ!」

 ───おばーさま、ボクはころがっていたんじゃありません!

「あうあ~」

 ───おねぼーさんなみんなをおこしてたのです~

(そして、うっかりすこしだけ・・・・・おねんねしちゃっただけです……!)

「あうあ、あうあ!」
  
 ───そうだ、おばーさまもきょーはおねぼーさんでした!

 そこでボクはおじーさまとおばーさまが、なかよしのしるしの“ちゅー”をしていたことをおもいだしたです。

「あうあ! あうあ~」

 ───ボクはみたです! おばーさまは、おじーさまとなかよしのしるししてたです~

「え? ミルクもっと飲みたい? 飲みすぎるとプニプニになるわよ? 渋くてスリムなかっこいい男になるのはもう諦めたわけ?」
「あうあ~」

 ───それはべつのおはなしです~

 なぜかおばーさまは、さいこーきゅーミルクのおはなしをしてくるです。

(ちがうです……)

 たしかにボクは、シュッとしたしぶくてスリムなかっこいいおとこをめざしてるです!
 でも、いまのボクは、なかよしのしるしのおはなしをしてるのです。
 あの“ちゅー”は、どんなになかよしでも、ボクがおおきくなって、とくべつのなかよしのひとじゃないとしてはダメだとおそわりました。
 アイラもうまれて“おにいちゃん”になったボクは、そろそろゆるされてもいいとおもうのです!

「あうあ!」

 ───さあ、おばーさま! ボクとなかよしのしるしするです!

 ニパッとわらったボクは、おばーさまにおかおをちかづけます。

(たぶん、“ちゅー”というのはこうするです!)

「え?」
「あうあ~~!」

 おばーさまが、ふしぎそうにめをまんまるにしてボクをみます。

「ひっ、なに!?  ジョシュ……」

 そして、さらにボクがおかおをちかづけると────ゴチンッ! というすごいおとがしました。

「なっ!?  い、痛いじゃないのーー!」

 おばーさまがおでこをおさえながらボクにむかってさけびます。

「あうあ、あうあ~」

 ───やったです、なかよしのしるしです~

 やりました!
 ボクはみごとにおばーさまのおでことじぶんのおでこをくっつけることができたです!

「ジョシュア! なんでいきなりごっつんこなんてしてくるのよ!?」
「あうあ!」
  
 ───ボクとおばーさまがとくべつのなかよしだからです~

(でも、すこしいたそーです……?)

 ボクもベビーちゃんによくあたまでボコッとされるので、“とくべつのなかよし”はすこしいたいものなのかもしれません。

(なるほど……きっと、ちゅーというのは、ちからかげんがだいじなのです……!)
  
 こうしてボクは、またひとつまなびました!


✲✲✲✲✲


(な、なに……? ジョシュアは今度は何をおっぱじめたわけ!?)

 なぜか突然ごっつんこをくらった額を押さえながら、私はジョシュアの顔をじっと見た。
 ジョシュアは屈託なくいつものように笑っている……
 偶然なのか、故意に狙われたのかこの笑顔からじゃ判断がつかない。

(もーーう! ジョルジュかジョエル……早く起きて通訳して!!)

「あうあ~」 

 なかなか起きてくれない我が家の名物の置き物───目覚めないポンコツ夫と息子にもどかしさを感じていたら、ジョシュアが手を伸ばして私の額をヨシヨシしてきた。

「え、ジョシュア?」
「あうあ~」

 なんとなくだけど、力加減を間違えちゃったです───とかなんとか言っているような気がした。
 しかし……

(なぜ、ジョシュアはいきなりこんなことを?)

 まさか、二日酔いを心配して治そうとしてくれた? それで勢い余ったとか?
 いいえ、目の前にいるのはジョシュア。
 この子に限ってそんな“普通の思考”なんて有り得ない。
 ジョルジュ・ジョエル譲りの斜め上の思考で動いたに違いないわ!  

「───ジョシュア! いいこと? ごっつんこする時はね、力を……」
「あうあ!!」

(ん?)

 ジョシュアが私の言葉を遮って力強い声で“あうあ”と言った。
 その目線は私の後方に向けられている。

(これは───……) 

 置き物夫と息子が目覚めたに違いない!
 そう直感した私は慌てて後ろを振り向く。
 すると、思った通りジョルジュとジョエルが目を覚まし、仲良く揃って小さく欠伸をしていた。

「今日も日が眩しいな……」  
「……頬が」

 窓を見ながら眩しそうに目を細めてボソッと呟くジョルジュ。
 その横で、違和感があったのか自分の両頬を押さえて首を捻るジョエル。

(そういえば、今朝のジョエルはどうして頬を腫らしていたのかしら?)

 ジョエルの頬がなぜ腫れていたのかは、セアラさんも分からないらしく不思議そうだった。

「───あうあ」
「!」

 そこで私はハッと気付く。
 今、ジョルジュとジョエルに向かってニパッと笑いかけながら手を振ってるこのベビー……

(犯人、ジョシュアなんじゃ……?)  

 そうとしか思えなかった私はにっこり笑顔でジョシュアに問いかけてみる。

「ね、ねぇ、ジョシュア……もしかして、あなた寝ているジョエルの顔をペチペチした?」
「あうあ~!」

 ニパッ!
 クルッと振り返ったジョシュアは満面の笑みを返して来た。

「……!」

(この顔──やっぱりそうよ! 絶対にやったのジョシュアだわ!)

 しかし、一つ謎が解けてスッキリしたものの、突然私にごっつんこしてきた謎は解けない。
 これは、もう安心安定の通訳者、ジョルジュを召喚するしかない。
 私はスッと指を構えてパチンッと鳴らした。

「───呼んだか、ガーネット!」

 音を聞いてすぐにシュバッて来たジョルジュに向かって私は高らかに笑う。

「ホッホッホ、おはようジョルジュ。今日も素敵な時間にお目覚めね!」
「あうあ~」

 ジョルジュは私の顔を見つめながら目をパチパチと瞬かせた。

「……ガーネット、元気そうだな」
「何が?」
「あうあ~」
「ああ、いや。二日酔いかと」

 どうやらジョルジュは昨夜飲みすぎた私の二日酔いを心配してくれたらしい。 

「ホーホッホッホッ、たかが二日酔いごときでへこたれるような私ではなくってよ!」
「それもそうだな!」
「あうあ~」

 ジョルジュはホッとしたように胸を撫で下ろす。
 とはいえ、先程までは頭痛も酷かった。
 けれど、ジョシュアにごっつんこされてからはそんなことは気にならなくなったというのが本音。

(それにしても……)

 さっきから、ちょいちょいジョシュアが会話に入ってくるわね……?
 ニパニパの笑顔で何を言っているのかしら?

「あうあ!」

 私と目が合ったジョシュアは、さらにニパッと笑う。

「ジョルジュ。起きたばかりで申し訳ないけど、ちょっとジョシュアの通訳をお願い」
「あ、ああ。任せろ」

 ジョルジュは頷くとチラッとジョシュアに視線を向けた。

「どうしたんだ、ジョシュア。今朝はガーネットと何して遊んでいたんだ?」
「あうあ!」

 ジョシュアはニパッといつものようにジョルジュにも笑いかけた。

「あうあ」
「ん? 今朝のボクは……」
「あうあ!」
「な……かよし、の……」
「あうあ~~」
「……!」

 ジョシュアはニパニパしながら元気よくジョルジュにたくさん話しかけている。

「それで、さっきね? あなたが起きる前の話なんだけど、ジョシュアったらいきなり私におでこを……」

 ガタンッ!
 話の途中なのに突然ジョルジュが勢いよく立ち上がったので私は驚いた。

「ジョルジュ? どうかした?」
「…………っ、ジョ、ジョシュア! ちょっとこっちに来るんだ!」
「あうあ」

 ジョルジュが口元を押さえながらジョシュアを呼んだ。
 その目が酷く泳いでいる。

「あうあ~」
「ちょっとジョルジュ? ジョシュアの通訳は!?」
「あうあ~」
「そ! それは、あ、後でだ! 待っててくれ。い、今は、ジョシュアと男同士の大事な話……がある! ギ、ギルモア家の男としての大事な話、だ!」
「あうあ~~!」

(は? ギルモア家の男として?)

 そんな意味不明なことを言い残して、ジョルジュは私の腕から慌ててジョシュアを取り上げると、そのまま抱きかかえて一目散に部屋から走り去って行った。

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