13 / 70
ギルモア家と愉快な人々の日常
ジョシュアとパーティー 前編【ガーネット】
しおりを挟む今日は珍しくギルモア家主催でのパーティーを開くことにした。
「あうあ~~」
「……」
「あら、ジョシュアにアイラ? 二人とも可愛いじゃない」
着替えが終わった様子の二人が仲良くヨチヨチしながら私の元にやって来る。
今日のパーティー、ベビーたちは特別参加。
「それにしても、今日のあなたたちのリボンは一段と大きいわね?」
「あうあ!」
「……」
二パッと笑いながらジョシュアが大きく胸をどーんと張って首元のリボンをこれでもかと強調してくる。
今日のパーティーに向けて特注で作らせていたリボン。
ジョシュアのリボンもアイラのリボンもそれぞれの顔に負けないくらいの大きさ。
なので存在感が半端ない。
「一応聞くけど───それ、アイラは頭につけてて重くないの?」
「…………ぅぁ」
「それに、何だかこう……斜めに寄ってないかしら? いいの?」
「………………ぅぁ」
私の問いかけにアイラは表情を変えずにコクリと頷いた。
ベビー界隈ではリボンは大きければ大きいほどいいらしい。
そんな中、何故かアイラが頭につけるリボンはいつも斜めに寄っている。
これも、アイラなりのこだわりなのかしら?
「ジョシュアも。そんなに大きかったら喋るのに邪魔じゃない?」
「あうあ!」
「……あーー、ホホホホホ。全然、大丈夫そうね」
こっちは、いつものように元気にあうあって答えられたから全く問題なさそうだと判断した。
「……まあ、あなたたちがいいなら私はそれでいいんだけど」
「あうあ!」
「ぅぁ」
はぁ、と私はため息を吐く。
(ホホホ、それよりも今日のパーティー……)
私はジョシュアのこのご機嫌なニパッとした満面の笑顔が一番怖い。
かがみ込んでジョシュアと目線を合わせる。
「ねぇ、ジョシュア? あなたっていつもパーティーとなると……」
「あうあ!」
ニパッ!
「……気分が高揚したです~、とか言って……」
「あうあ!」
ニパッ!
「…………ハチャメチャな行動ばっかりするわよね?」
「あうあ!」
ニパッ!
(コ、コイツ……全部、満面の笑みで頷いてやがるわ……!)
「あうあ!」
ニパッ!
(だめ、不安、不安しかないんだけど!?)
私は満面の笑顔のジョシュアを見て恐怖を覚えた。
暴れないよう釘を刺そうと思ったけれど、もうすでに手遅れのような気がする。
(ジョシュア……あなた、今日は何をする気?)
「あうあ?」
「……くっ」
「ガーネット? 楽しそうに踊ってどうしたんだ?」
私が頭を抱えて唸っていると、ちょうど部屋に入って来たジョルジュが私を見て目を瞬かせる。
「は? これが楽しそう?」
「ああ。はしゃぐのは構わないが、パーティーの開始時間はまだだぞ?」
私を見ながら心配そうな顔をするジョルジュ。
私はフッと鼻で笑った。
「ホ~ホッホッホ! ……ジョルジュ、あなたの目には今! この私が楽しそうに見えているのね!?」
「ああ」
「あうあ!」
大真面目な顔で頷き、即答するジョルジュ。
そして一緒になってニパッと笑うジョシュア。
「ほら見ろ。ジョシュアも、おばーさまはパーティーにワクワクしすぎてさっきからずっと楽しそうにはしゃいでるです、と言ってるぞ?」
「なっんですって!?」
最もはしゃいでるジョシュアに言われたくない!
(ん?)
なんて私が憤慨しているとアイラからも視線を感じた。
振り向くとばっちり目が合う。
「……アイラ?」
「ぅぁ」
じーっと……いや、じとっとした目で私を見ている……
───おばあさま、はしゃぎすぎですわ?
そう聞こえた。
(フッ……落ち着くのよ、ガーネット……)
侯爵夫人たるもの、いついかなる時もどんな時も冷静に振る舞わなくてはいけないわ。
私はそう自分に言い聞かせる。
そうよ!
それが、たとえ……
「あうあ~」
「ん? なに? 今日はジョシュアが俺の代わりにパーティー開催の挨拶をするだと?」
「あうあ」
「ベビーが開催の挨拶を行う、か。それはなかなか斬新だな。他家のパーティーでは見ない」
「あうあ!」
「ほう。ボクに任せてください、ボクはギルモア家の代表として皆の前で立派な挨拶をしてみせます! そんなに自信があるのか?か」
「あうあ!」
「よし、その心意気だジョシュア! 今日の挨拶はお前に託そう!」
「あうあーー!」
(はあぁあ?)
たとえ、愛する夫と可愛い孫が目の前で頓珍漢な会話をしていても───……
私は常に冷静沈着でいなくてはならないのよ!
「……」
だが、しかし。
今の会話を聞かなかったことには出来ない。
ベビーが当主の代わりに開催の挨拶するですって? そんなの前代未聞。
しかも、ジョシュアは“あうあ”しか言わない!
私はホホホと笑いながら髪をかきあげると、顔をピクピク引き攣らせつつ二人に訊ねる。
「……ジョルジュ、ジョシュア? 今の話、どういうことかしら?」
「ん? 今日のパーティーの開始の挨拶について話していたが?」
「……」
(そ う じゃ な い !!)
私は思いっきりジョルジュの胸ぐらを掴んだ。
「な・ん・で! 挨拶をジョシュアに任せようとしているのかと聞いてるのよ!」
「あうあ~」
「ああ、それか? ───でも可愛いボクが前に出て挨拶したらきっとみんな喜びます! とジョシュアは言ってる」
「……くっ!」
ジョシュアの反論に私は口ごもる。
確かにジョシュアは今、社交界で最も話題のベビー。
それに以前、エドゥアルトがジョシュアを連れてパーティー会場に入場した時も大歓声だった。
喜ぶ……のは間違いない。
「あうあ」
ニパッ!
どーだと胸を張ってくるジョシュア。
「くっ」
(え、笑顔の圧がすごい……!)
「あうあ」
ジョシュアが笑顔のままグイグイ迫ってくる。
「あうあ」
「……っ」
「あうあ」
「…………っ、わ、分かったわよ。つ、通訳可能なジョルジュと一緒になら許可するわよ!」
「あうあ~~!」
ジョシュアが嬉しそうにキャッキャと笑いながら手を叩いた。
「いいこと? でも、ちょっとでも阿呆なことを口にしようものなら即、その口を塞いでポイッと会場の外につまみ出すわよ!?」
「あうあ~」
「……」
分かっているのかいないのか……ジョシュアは満面の笑みで頷いた。
(ホホホホホ、パーティーはこれからなのにもう疲れたわ……)
「大丈夫だ、ガーネット! ジョシュアの挨拶の通訳なら俺に任せろ!ばっちりだ!」
「ジョルジュ……」
ジョルジュがポンッと私の肩を叩くとどーんと胸を張ってそう言った。
私はそっと目を伏せる。
「……」
(そうじゃない…………心配なのはあなたもなのよ、ジョルジュ)
だって、私の愛する夫は空気なんて読まない。
ジョシュアがヘンテコなとんでも挨拶を始めても、きっとジョルジュはありのまま通訳するであろう姿が目に浮かんだ。
(不安、不安しかない……)
「あうあ~~」
────そうして、ハラハラドキドキなパーティーの開始時刻を迎えた。
《後編につづく》
175
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので
水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」
建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。
彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。
婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。
「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」
私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。
(でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。
まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ)
婚約破棄から数日後。
第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。
「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!!
お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」
唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。
「まさか。
エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」
王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。
真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします
ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。
けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。
「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」
そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。
感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。
新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。
武力でも陰謀でもない。
透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。
婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。
これは復讐ではない。
これは成熟。
選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた
波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。
彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。
――しかしある夜、彼女は見てしまう。
婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。
「お前みたいな女を愛する者などいない」
絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。
「――助けるのは、私でもいいかな」
それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。
これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、
本物の王子に見出され、溺愛され、
そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。
今さら縋りついても、もう遅い。
彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる