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ギルモア家と愉快な人々の日常
ジョシュアとパーティー 後編【ガーネット】
しおりを挟むニパッ!
「あうあ、あうあ~~」
───今日はお天気がいいです、ポカポカです~(通訳:ジョルジュ)
ニパッ!
「あうあ!」
───絶好のパーティー日和となりました! (通訳:ジョルジュ)
ニパッ、ニパッ!
「あうあ~~」
───今日はいっぱい食べていっぱい飲んでいっぱい遊んでくださいです~~(通訳:ジョルジュ)
そんなジョシュアの言葉でギルモア家のパーティーは始まった。
私は壇上の堂々としたジョシュアの姿に驚いていた。
(嘘でしょ!? 思ったより普通……いえ、まともだったんだけど……!?)
挨拶を終えたジョシュアはジョルジュに抱かれながら皆に囲まれて、今日も可愛いだのリボンがデカイだのと持ち上げられて嬉しそうにキャッキャしている。
(信じられない……)
絶対に阿呆なことを言うと思っていつでも飛び出せるよう身構えていたのに肩透かしされた気分……
なんて思っていた時だった。
「……セアラ! 聞いたか?」
「ばっちり聞きました、ジョエル様!」
(あら?)
私と並んで息子・ジョシュアの挨拶を見守っていたジョエルとセアラさん。
そして、ジョエルの腕の中にアイラ。
アイラはいつものように無表情だったけれど、なぜかジョエルとセアラさんの目にはうっすらと涙が光っていた。
(そうよね、息子の成長を感じられたんだもの。親として嬉しくもな……)
「セアラ、特訓した甲斐があったな」
「そうですね!」
「は?」
(と、特訓……?)
聞こえてきた会話にいったい何のことと眉をひそめる。
これはきっちり確認しなくては。
「……ねぇ、ちょっと二人とも。特訓って何の話?」
「あ、お義母様」
私が感動の涙をすすっている二人の会話に割り込むと、セアラさんが苦笑しながら教えてくれた。
「実はですね。我が家でのパーティーの開催が決まった時からジョシュアはずっとお義父様の代わり挨拶をする気でいたみたいなんです」
「は? あの子、そんな前から企んでたわけ!?」
私が目を丸くして驚くとジョエルも頷いた。
「今度のパーティーではおじーさまの代わりを僕が務めたいと思うです、でも、おばーさまにはギリギリまで内緒です、と言っていた」
「えええ……なんでよ」
なんてこと!
本当にギリギリまで内緒にされてたわ!?
「それでですね。すっかりやる気になってたジョシュア、昨夜は───僕が今日までの間にたくさんゴロゴロしながら考えた挨拶を聞いてください! と言ってきましたので」
「たくさんゴロゴロ……」
さすが赤ちゃんだわ、と思った。
「それを寝る前に私とジョエル様とアイラで聞いてみたんですけど……」
ここでセアラさんの顔が少し曇る。
同時にジョエルの眉間にもキュッと皺が寄った。
(二人のこの顔────ヤバかったのね……)
なるほど。
それで“特訓”したというわけかとようやく理解した。
「一応聞くわね。それ、どんなやべぇ挨拶だったの?」
「そうですね……とりあえず、ジョシュアは五分くらいずっとあうあと喋っていました」
「ごっふん!」
(長い!)
思わず声が裏返った。
あの子のあうあ、だけを五分間も聞き続けるのは辛い。
非常に辛い!
「……五分間も何をそんなに話していたのかしら?」
「ジョエル様が言うには、ほとんどがジョシュアの自己紹介だったみたいなんですけど」
「ジョシュア……」
どうせ、ルンルンした顔で、ギルモア家の男の僕は可愛いくて~とか言っていたに違いない。
「でも、ジョエル様が途中で面倒になって通訳を止めちゃったので……詳細は不明なんです」
「は? ジョエル、何で!?」
私はキッとジョエルを睨んだ。
「…………眠かった」
「ジョエルーー!!」
私の息子、堪え性がなさすぎる!
ジョルジュならきっと喜んで最後まで通訳を続けたでしょうに!
「結局、その後も痺れを切らしたアイラに“しつこい”“もうどれもこれも聞き飽きたですわ”と足で蹴られて強制終了となりまして」
「え」
「アイラに蹴られていなかったら、もっと続いていたかもしれないですね」
セアラさんがクスクス笑いながらそう言った。
「は? ア、アイラ、ジョシュアを蹴って終わらせたの?」
「ぅぁ」
私がアイラに声をかけるとアイラは表情を一切変えずに頷いた。
───それが何か?
その目がそう言っている。
「そ、そう……」
なんであれ、シスコンジョシュアは可愛い妹の言うことは素直に聞いたらしい。
「コホンッ……で?」
「それで、ジョエル様と私で挨拶はもっと短く分かりやすくコンパクトにしましょうね、と渋るジョシュアを説得して特訓したんです」
「……ホーッホッホッホ! なるほどね!」
確かにこれは安堵で目にうっすら涙だって浮かべちゃうわぁ……
二人の苦労を心の中で盛大に労っていたらセアラさんが苦笑した。
「実はジョシュアのことだから、特訓のことなんて忘れて好きに喋りだしちゃうかもってハラハラしていたんです。でも、大丈夫でした!」
「あー……」
ベビー特有の天真爛漫、怖いもの知らずな気まぐれでやんちゃな性格のジョシュア。
ギルモア家の血が騒いだですとか意味不明なことを言って、確かに挨拶が“五分間のあうあ”になっていてもおかしくなかった。
でも……
「……ジョシュアってよくわかんない子」
「そうですね、とても不思議な子です」
「でも、これも成長なのかもしれないわね」
「はい!」
私が遠い目をしながらそう呟くと、セアラさんが笑った。
「あうあ~」
すると、ここで噂をすればなんとやら。
聞き覚えのある声が近付いてくる。
「この声はジョシュア?」
「あうあ!」
ニパッと笑顔のジョシュアがジョルジュに抱っこされて戻ってきた。
「二人ともおかえりなさい。ご苦労さま」
「あうあ!」
「ああ」
(……ん?)
満面の笑顔のジョシュアとは対照的でジョルジュの顔がどこか曇っている。
「ジョルジュ?」
「……」
「あうあ、あうあ、あうあ!」
答えないジョルジュの代わりに何かを訴えてくるジョシュア。
「なに? どうかした?」
「あうあ、あうあー、あうあーー!」
「本当になによ?」
私が眉をひそめて二人に訊ねるとジョルジュがポソッと口を開く。
「ジョシュアが……」
「ジョシュアが?」
「あうあ!」
ニパッと笑うジョシュア。
これは嫌な予感しかしない。
「───挨拶で可愛い可愛いこの僕を紹介しないなんて、やっぱりおかしいと言ってる」
「は?」
別におかしくもなんともない。
ジョシュアのことは皆、知っているし。
「あうあ!」
「もっと、ジョシュア・ギルモアの名をみんなに知ってもらわないといけません! だそうだ」
「……いいえ、ジョシュア。あなたはもう既に微笑みのなんちゃらで有名よ?」
「あうあ~」
「いいえ、足りません。だから、改めて挨拶してくるです~?」
「え、足りない? 改めて挨拶? あっ!」
ジョシュアがスルリとジョルジュの腕から抜け出す。
そして、クルッと振り返るとニパッと笑ってタタタと駆け出した。
(あああ……)
「あうあ~~」
「こらぁ! 待ちなさい! ジョシュア!」
「あうあ~~~~」
こうして結局、ギルモア家のパーティーは開始早々、いつものように私とジョシュアの戦場となった。
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