最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】

16. 微笑みの貴公子

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「もう、ジョシュア!!」

 わたくしは怒ってるというのに、ジョシュアは相変わらずヘラヘラしています。
 波打ち際まで来たジョシュアは、わたくしをそっと降ろしました。
 そして、私の手を引いて海に入ると……
 パシャッ

「きゃっ!?    なんですの!」

 ジョシュアがわたくしに海水をかけてきました。

「え? だって早く冷やさなきゃ。ナターシャ倒れちゃう」
「倒れませんわよ!?    元気ですもの!」

 わたくしはじろっと軽く睨みつけると、負けじと海水を手に掬い、ジョシュアにかけます。

「あ、」
「ほっほっほ! その妙ちくりんな姿、びっしょりにして差し上げますわぁ!」
「あう、あ~」
「ほっほっほ!」

 調子に乗ったわたくしは、これでもかとばかりにジョシュアに海水をかけまくりました。

「……」

(あら?)

 サングラスでよく見えませんが、途中、ジョシュアの目の奥が光ったような気がしました。
 そして、ジョシュアも反撃を開始します。
 パシャッ

「きゃっ!?」
「これは勝負……それなら、僕はギルモア家の男として負けるわけにはいきません!」

 パシャッ

(出ましたわ~ジョシュアの口癖、ギルモア家の男!)

「ほっほっほ! なら、わたくしも負けませんわぁ!」

 パシャンッ!
 その言葉にわたくしも負けまいと海水を目一杯手に掬うととジョシュアに向かって思いっきりかけてやります。

「あう、あ……」
「ほっほっほ!」

 パシャッ、パシャン、パシャッ……

 こうしてわたくしの勝負魂に火がついたことで、ジョシュアとわたくしは浅瀬でお互いたくさん海水を掛け合いました。


────


「くっ……」

 さすがに疲れて来ましたわ。
 わたくしもジョシュアもビッショビショです。
 しかし、さすがジョシュア……折れる様子どころか疲れている様子すら全く見受けられません。

(なんて体力ですの……!)

 悔しいですが、やはりベビーの頃から広い邸内を走り回って迷子になってきた男は違います。

(やっぱり、わたくしはまだまだ未熟ですわ)

 邸に戻ったらおじいさまに相談して体力づくりの改善に励むとしましょう。
  
「……ナターシャ、楽しい?」
「え?」

 ここでジョシュアが改まってそう訊ねてきました。
 わたくしはフッと鼻で笑ってやります。

「ええ、ええ。見ての通り、とってもとってもとーーっても元気ですし、あなたに思う存分、水がかけられて愉快ですわ~~」
「…………そっか」

(あら?)

 今、ジョシュアは口元は笑っているけれど、いつものような“ニパッ”とした笑いとは違った笑い方をしたような?
 なんとなくそう感じましたが、サングラスのせいで実際の表情はよく分かりません。

「ジョシュア……?」
「昔、おばあ様が言ってたんだ」
「ガーネットおばあさまが?」

 そういえばショックからは立ち直ったのかしら? と思い、チラッと視線を向けてみます。
 さすがガーネットおばあさま! 
 もう膝はついておらず、立ち上がって何やら高らかに笑っています。

(お強いですわ~)

 やはり尊敬します。

「うん。大切な人が笑ってくれると自分も嬉しくなるものよって」
「え?」

 ジョシュアがそっと自分の胸を押さえます。

「……それ、似たようなことをわたくしのお父さまも言っていた気がしますわ」

 あの妙ちくりんなコレクションはその為にあるようなもの。
 お父様はアレで皆が笑ってくれるのが嬉しいそうです。

「だから僕はナターシャが元気で笑ってくれていると嬉しい」
「!」

 ドクンッ
 わたくしの心臓が大きく跳ねました。

「困りごと解決して皆で海に来れて良かったね!」

 ニパッ!
 ジョシュアが笑います。

「……っ」

 そんなジョシュアが眩しく見えてわたくしは直視出来ません。
 もしかしたら、微笑みの貴公子は自ら発光が可能なのかもしれません……!

「……ジョシュア」
「うん?」
「────色々、ありがとうございます、ですわ」

 大事になる前にロッキーを捕まえることが出来たのも、今、こうして海水でビチョビチョに濡れながら笑っていられるのも、ジョシュアのおかげです。

(憎い相手ですけど……感謝は、まあ、しています……わ)

 かつて、ガーネットおばあさまが自分を貶めたカス(わたくしの大伯父)に復讐する時、そばで支えたのは侯爵さまだと聞いています。
 また、セアラ夫人がかつての婚約者だったカスに結婚式をすっぽかされて捨てられて傷ついた心を癒しを支えたのもジョエルさまと聞きました。

(こんな妙ちくりんな格好した読めない男ですけど────)

 心底、腹は立ちますがあの二人の血を受け継ぐジョシュアは決してカスではないのです。

 ────誰にでもヘラヘラは、いつも私だけに微笑んでいて。何処にでもフラフラは、いつも私のそばにいて? っていう姉さまのお気持ちなのでは?

 エドマンドに言われたあの言葉がふと頭の中に甦りました。

「……っ」

 わたくしは必死に頭を横に振って忘れようとします。
 絶対に違います。
 私がジョシュアに抱くこの気持ちは……

「────そこのお姉さん、どうしたの? 可愛いね」
「俯いてるけど泣いちゃってる~?」

 その時、見知らぬ男たちの声がしてハッと我に帰ります。
 誰? と顔を上げるといかにも軟弱そうな男が二人。
 ニヤニヤしてこちらに近づいてきます。

「そこの男なんか放っておいて俺たちと遊ぼうよ」

 その馴れ馴れしい様子にカチンッと来たわたくしは言い返そうとしました。
 しかし、そんなわたくしの前にジョシュアがスッと立ち塞がります。
 男たちはジョシュアの姿を見て笑いました。

「なんだ、こいつの格好」
「浮かれてやがる」

 明らかにいけ好かない男たちの登場ですが、センスだけはまとものようです。

「お姉さん、こんなダサい男は放って俺たちと」
「ダメ」

 すかさずジョシュアが答えます。

「いや、君には言ってないからさ。俺たちはそこのお姉さんに……」
「ダメ」

 ジョシュアが首を横に振ると男たちは顔を見合せます。

「おね……」
「ダメ」

 まともに喋らせてくれないジョシュアに男二人が苛立ちの表情を見せました。

「なんだコイツ……」
「いいからそこをどいて───」
「……ナターシャ」

 怒り出した二人を無視してジョシュアがコソッとわたくしに声をかけました。

「ギュッと目をつぶって耳を塞いでくれないかな?」
「……?」

 わたくしが怪訝な顔つきでジョシュアを見るとニパッと笑います。

「このお兄さんたち、煩いからさ。ね、耳塞いでて欲しいんだ」
「……」

 ジョシュアには何か追い払うためのいい考えがあるのかもしれません。
 そう思ったわたくしは言われた通りに目を閉じて耳を塞ぎます。

(大丈夫、ですわよね?)

 ジョシュア……ボコボコにされたりしません、わよね?
 あのヘラヘラ顔は相手の怒りを煽る傾向もありますし、目を開けたらジョシュアがボコボコになっているかもしれません。

(ダメですわ! まだ、わたくしがボコボコにしていませんのに!)

「……っ」

 なにやら言い争いが続いているような気配はしますが、言われた通り耳を塞いでいるためよく分かりません。
 そして、少しすると肩をポンッと叩かれました。
 わたくしはおそるおそるそっと目を開けます。

「ナターシャ!」 
「ジョシュア……」

 肩を叩いたのはジョシュア。
 ニパッと笑っています。
 でも、何故か顔にはサングラスがありません。

「ジョシュア、さっきの男たちは───ん?」

 わたくしがそう訊ねた時、足が“何か”にぶつかりました。
 何かしら? と思って下を見ると……

「ひっ!?    なんでこいつら伸びてますの!?」

 なんと先ほどのニヤニヤと馴れ馴れしかった男たちが二人仲良く足元で砂浜に伸びています。

「寝ちゃった」
「ね!?」
「うん、ナターシャに近付くなって話をしていたんだけど」
「途中で寝た、と?」
「うん。そんな感じ」

 有り得ませんわ。
 ジョシュアは何を言っているんですの?
 まさか殴った? と思うも、男たちの顔は綺麗ですし身体も痛がっている様子はありません。

(これは一体……)

 そう不審に思った所でジョシュアが顔を隠していた黒いメガネ───サングラスを外していることを思い出します。

「ジョシュア! なぜ、あなたサングラスを取っているんですの?」
「え? ほら、だってさ」 

 ジョシュアはニパッと笑います。
 なんだかとても眩しい笑顔ですわ……

「人と話す時は目を見て話さないとダメっておばあ様がよく言ってるでしょ? だからこれを取って」
「……こいつらにニパッと笑ったんですの?」
「うん」

 ジョシュアは大きく頷きます。

「…………それで?」
「少し話したら変な呻き声上げて突然寝ちゃった」
「………………そう、ですの……」

(微笑みの貴公子……おっっっっそろしいですわぁ!)

 ニパッと微笑みだけで撃退するってどういうことですの!?
 え? わたくしが日々あんなに一生懸命鍛えている意味とは?

「でも、どうしてわたくしに目と耳を塞ぐように言ったんですの?」
「え? だって」
「だって?」

 ジョシュアがニパッと笑います。

「せっかく僕と遊んでいる最中なのにナターシャが他の男を見てるのは面白くないんだもん」
「……んなっ!」

 心臓がバックンと跳ねました。

「うーん。でも、こんなところで寝られたら邪魔だよね~」
「……」

 そんなわたくしの動揺に気付いていないのか、ジョシュアは転がってる男たちの方に目を向けます。
 そしてしぱらくうーんと考えてから、ニパッと満面の笑みで言いました。

「そうだ! このまま砂浜に埋めちゃおう!」

(────!!)

 この瞬間、わたくしは体力づくりだけでなく、剣術やその他の稽古の時間を倍にしてもらおうと決めました。

 
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