57 / 70
毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
15. ジョシュアの暴走
しおりを挟む「姉さま? 何処に行かれるのですか? ジョシュア兄さまが呼んでますよ?」
「くっ……!」
それでも、なんとか距離を取ろうとして逃げ出そうとしたわたくしの腕をエドマンドが掴みます。
おそろしいくらいの純粋な目でわたくしのことを見てきますわーー!
「ほっほっほ! ちょっと、わたくし砂浜をひとっ走りしたい気分で───」
「おーい、ナターシャーー?」
「───え、でも、ジョシュア兄さまとアイラお姉さまがあんなに手を振ってますよ?」
「見えてる~? 僕とアイラ、今日のために服を新調したんだよ~~どうかな~~?」
「うっ」
ニパニパ顔のジョシュアと無表情のアイラお姉さまが、まだ手を振っているので、その姿が視界にチラチラ入って来ます。
(……っっ、視界と会話の邪魔ですわ!)
ジョシュアはベビーの頃から、周囲の状況など気にせず人の会話にグイグイ割り込んでくる人でした。
それは成長しても全く変わっておりません。
しかし、そんなことより……
今、あの斬新な服装は今日のために新調したと抜かしやがりましたわ!?
「ほら姉さま! 聞こえました? ジョシュア兄さまたち、よっぽど今日のお出かけを楽しみにされていたんですね~」
「ほっほっほ……なぜ、あなたはあの格好にそんなに肯定的なんですのよ、エドマンド……」
「姉さま?」
わたくしの質問にエドマンドはうっとり顔で言いました。
「なぜって────斬新でとてもかっこいいじゃないですか!」
「……よく見なさい。頭に花が咲いてますわよ?」
「はい! ジョシュア兄さまにとても似合ってます! 姉さまもそう思いませんか?」
「まあ……」
頭の中身はいつでもどこでもお花畑! なジョシュアに、似合っているといえば似合っているのかもしれません。
「僕もジョシュア兄さまみたいな格好すれば良かったです……」
「ひっ!? なんでバカなことを……おやめなさい!」
わたくしは青ざめて必死に首を横に振りました。
エドマンドのこのズレたファッション感覚はやはりお父さま……お父さまを見て育ってきたせいですわ。
だってわたくしは知っています。
エドマンドはたまにお父さまのコレクションルームに侵入して、あの珍妙なカツラをこっそり被って遊んでいることを……!
そんなことを考えているうちに、ジョシュアたちがわたくしたちの前までやって来ました。
逃走失敗です。
「へへへ、遅くなっちゃった」
「どうしたんだ、ジョシュア。ジョエルが馬車を渋ったのか?」
お父さまの質問にジョシュアはニパッと笑って答えました。
「違うよ~、出発時間が迫ってるというのにおばあ様が何度も僕たちのファッションショーを開こうとし……」
「こらっ! な・ん・で! 私のせいになるのよ!」
ガーネットおばあさまが横からジョシュアのことを叱りますが、ジョシュアは全く気にせずニパッと笑い返します。
しかし、今の発言でわたくしは理解しました。
ガーネットおばあさまは、どうにかこの妙ちくりんな格好を矯正する方向に誘導しようとしていたのだと!
「あなたたちが妙ちくりんな格好していたからでしょ!」
(ほら……!)
「妙ちくりん……?」
なんと! ここでガーネットおばあさまの発言に首を傾げたのはジョシュアだけではありません!
ギルモアからは、他にアイラお姉さま、ギルモア侯爵、ジョエルさま。
我が家からは、お父さま、エドマンド……
圧倒的に正常派が数で負けています。
(くっ! わたくしのおじいさまとおばあさまもこの場に来ていたなら……!)
なぜ留守番なのかと悔しくてなりません。
「おばあ様! なんてことを言うのですか!」
「あ? そんなのジョシュアのセンスが壊滅的だからでしょ」
凄いです!
さすが、ガーネットおばあさま。
あのジョシュアに面と向かってはっきり口にされましたわ!
「僕のセンスが? …………いいえ、そんなことは有り得ません!」
しかし、何故か胸を張って否定するジョシュア。
「は? なんで言い切れるのよ」
「だって……」
眉をひそめたガーネットおばあさまにジョシュアは強く反論します。
「僕は───“センスの塊”なおばあ様の姿を見て学んで来たのですから!!」
「なっ……私のすが……たを見て学んで……それ!?」
「はい! おばあ様のセンスから学びました!」
「……!」
(なんということでしょう!)
ここでガーネットおばあさまがガクッと膝を着きました!
「ガーネット!?」
侯爵さまが駆け寄ります。
どうやら、ガーネットおばあさまは今のジョシュアの言葉に心が抉られてしまったようです。
とてもとてもお気持ちがよく分かりますわ……
なぜなら……
今のジョシュアの発言は、“僕が参考にして来たのはおばあ様のセンス”
つまり、ジョシュア本人の気持ちはともかく、遠回しにガーネットおばあさまはセンスが無いと突きつけたも同然────
「どうしたガーネット? さっそく砂浜で遊びたいのか? 気が早いな」
「ホホホ……ねぇジョルジュ、ここまでの会話ちゃんと聞いてた?」
「もちろんだ! ジョシュアはガーネットから学んで大きくなった、だ!」
「…………知ってたわ。あなたってそういう人よねぇ、ホホ、ホホホホホ……」
(ガーネットおばあさまぁぁぁ!)
侯爵さまは心配して駆け寄ったとばかり思っていたのに、さらにガーネットおばあさまの心を抉ります……
社交界では怖いもの知らず、そして逆らうべからずとまで言われているガーネットおばあさまがどんどん沈んでいく……
これが、ギルモア家の男……
(やはり、おそろしいですわ)
ここまでずっと無言で眉間に皺を寄せているだけで何も言わないジョシュアの父、ジョエルさまも色んな意味で恐ろしいです……
「ナターシャ? ボーッとしてどうしたの?」
「はっ!」
気付くとジョシュアが不思議そうにわたくしの顔を覗き込んでおりました。
わたくしの目の前で手のひらを上下左右に動かしています。
目が合うとニパッと笑いかけてきました。
「見て、このシャツ! 通気性のよい生地を使ってお花の刺繍をして貰ったんだ~」
「……なぜ、ボタンを掛け違えているんですの?」
「え? これ?」
ジョシュアはニパッと笑いました。
この満面の笑顔……
ボタンの掛け違いだけは、急いでたからとかそういう致し方ない理由でもあるのかと思っていましたがこれもどうやら違うようです。
「これは、アイラのアドバイス!」
「……アイラお姉さま……の?」
わたくしがチラッとアイラお姉さまに視線を向けると、目が合ったアイラお姉さまが大きく頷きます。
頭に乗ってるおリボンも大きく揺れました。
「そうなんだ! カチッとした格好でビシッ決めるよりも、ちょっと隙がある方が普段との違いからキュンッてするんだって!」
「……キュン?」
「どうかな、ナターシャ! “キュンッ”てした?」
「……」
にこにこ顔でわたくしの答えを待つジョシュア。
わたくしはにっこり微笑んで答えます。
「ジョシュア……あなたの場合はカチッとした格好でビシッと決めた方がキュンッてされるかもしれませんわよ?」
「えー? それはどういう意味?」
「ほっほっほ! そのままの意味ですわ」
「なんでーー?」
しつこく食い下がってくるジョシュアから、わたくしはフンッと顔を逸らしました。
「どちらにしても、わたくしはあなたにキュンッなんてしませんけど!」
「えーー、そうなの?」
「そうですわよって、……きゃっ! な、何してますの!?」
ジョシュアは仕方なさそうにシャツを脱いでボタンを掛け直そうとしました。
急に脱ぎ出したので、わたくしは思いっきり動揺してしまいます。
「何って……ナターシャ? 顔が真っ赤だよ?」
「気のせい、ですわ!」
ジョシュアの方が見れません。
あんなにベビーの頃はぷにぷにを気にしてたくせに、思っていたよりも、今はきちんと引き締まった身体をしているなんて決して思っていませんわ!
「えー? でも……」
「気のせい、ですわ!」
「……あっ、そっか!」
(……そっか?)
ジョシュアは慌ててボタンを正しくボタンを掛けるとニパッと笑いました。
そして、そのまま近寄って来たと思ったら、よいしょっと言ってわたくしを抱き上げました。
「んぁ……?」
突然フワッと体が持ち上がり横抱きになっている状況に理解が追いつかなかったわたくしは間抜けな声を上げてしまいます。
「僕たちの到着が遅くなったから待たせちゃったもんね」
「……?」
「ほら、海って直射日光が強くて注意が必要なんだよ」
「……あ、いえ、これは違っ……」
どうやら、ジョシュアはわたくしが日光に当てられて体調が悪くなったと勘違いしているようです!
「えっと、こういう時は確か身体を冷やさないといけないって聞いたなぁ」
「ちょっ、ジョシュア……わたくしの話を聞い……」
なんでしょう。
これ、すごく、すごーーく嫌な予感がします。
「そうだ!」
ニパッと笑いかけてくるジョシュア。
いつもは憎らしいだけの笑顔ですが、今はこのニパッとした笑顔が恐ろしいですわ!
「ひぃっ……」
「ここは海……すぐそこにお水が沢山あるんだから、海に入ればいいんだ!」
「ジョシュア? 聞いてます? わたくし元気ですし、それにきっとそれは何かが違う……」
確か、本当に具合が悪い時はまず涼しい所に移動して身体を休めてから、身体を冷やす! だった気がします。
「さあ行くよ、ナターシャ! 僕に捕まってて?」
「ひっ、こら! 今すぐわたくしを解放なさい!」
「ダメだってば。そんな真っ赤な顔で何を言ってるの?」
「あなたこそ、真面目な顔で何を言ってるんですのーー!」
ニパッ!
ジョシュアが笑いかけてきます。
「ニパッじゃありません!」
「うーん。ナターシャは注文が多いなぁ、よし、走るよ~」
なんとジョシュアは降ろすどころかわたくしを抱きかかえたまま、走り出そうとします。
「ひいっ!? せめて……せめて足元は砂浜なんですから慎重に歩きなさいですわぁぁ」
「ん? 大丈夫だよ、僕の足はベビーの頃から走り回ってばっちり鍛えてるから。任せて!」
「そういう問題ではありませんわーーーー……」
こうしてなぜかわたくしたちは海へと一直線に走っていくことになりました。
「うぅ……」
(なぜ……なぜ、誰もジョシュアの暴走を止めてくれませんのーー!?)
✲✲✲✲✲
もちろん、唯一のストッパー、ガーネットがダメージくらったままで動けてないからです。
246
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので
水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」
建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。
彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。
婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。
「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」
私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。
(でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。
まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ)
婚約破棄から数日後。
第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。
「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!!
お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」
唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。
「まさか。
エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」
王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。
真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします
ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。
けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。
「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」
そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。
感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。
新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。
武力でも陰謀でもない。
透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。
婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。
これは復讐ではない。
これは成熟。
選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた
波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。
彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。
――しかしある夜、彼女は見てしまう。
婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。
「お前みたいな女を愛する者などいない」
絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。
「――助けるのは、私でもいいかな」
それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。
これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、
本物の王子に見出され、溺愛され、
そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。
今さら縋りついても、もう遅い。
彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです
睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる