最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】

15. ジョシュアの暴走

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「姉さま? 何処に行かれるのですか? ジョシュア兄さまが呼んでますよ?」
「くっ……!」

 それでも、なんとか距離を取ろうとして逃げ出そうとしたわたくしの腕をエドマンドが掴みます。
 おそろしいくらいの純粋な目でわたくしのことを見てきますわーー!

「ほっほっほ! ちょっと、わたくし砂浜をひとっ走りしたい気分で───」  
「おーい、ナターシャーー?」 
「───え、でも、ジョシュア兄さまとアイラお姉さまがあんなに手を振ってますよ?」
「見えてる~? 僕とアイラ、今日のために服を新調したんだよ~~どうかな~~?」 
「うっ」

 ニパニパ顔のジョシュアと無表情のアイラお姉さまが、まだ手を振っているので、その姿が視界にチラチラ入って来ます。

(……っっ、視界と会話の邪魔ですわ!)

 ジョシュアはベビーの頃から、周囲の状況など気にせず人の会話にグイグイ割り込んでくる人でした。
 それは成長しても全く変わっておりません。
 しかし、そんなことより……
 今、あの斬新な服装は今日のために新調したと抜かしやがりましたわ!?

「ほら姉さま! 聞こえました? ジョシュア兄さまたち、よっぽど今日のお出かけを楽しみにされていたんですね~」
「ほっほっほ……なぜ、あなたはあの格好にそんなに肯定的なんですのよ、エドマンド……」
「姉さま?」

 わたくしの質問にエドマンドはうっとり顔で言いました。

「なぜって────斬新でとてもかっこいいじゃないですか!」
「……よく見なさい。頭に花が咲いてますわよ?」
「はい! ジョシュア兄さまにとても似合ってます! 姉さまもそう思いませんか?」
「まあ……」

 頭の中身はいつでもどこでもお花畑! なジョシュアに、似合っているといえば似合っているのかもしれません。

「僕もジョシュア兄さまみたいな格好すれば良かったです……」
「ひっ!?    なんでバカなことを……おやめなさい!」

 わたくしは青ざめて必死に首を横に振りました。
 エドマンドのこのズレたファッション感覚はやはりお父さま……お父さまを見て育ってきたせいですわ。
 だってわたくしは知っています。
 エドマンドはたまにお父さまのコレクションルームに侵入して、あの珍妙なカツラをこっそり被って遊んでいることを……!
 そんなことを考えているうちに、ジョシュアたちがわたくしたちの前までやって来ました。
 逃走失敗です。

「へへへ、遅くなっちゃった」
「どうしたんだ、ジョシュア。ジョエルが馬車を渋ったのか?」

 お父さまの質問にジョシュアはニパッと笑って答えました。

「違うよ~、出発時間が迫ってるというのにおばあ様が何度も僕たちのファッションショーを開こうとし……」
「こらっ! な・ん・で! 私のせいになるのよ!」

 ガーネットおばあさまが横からジョシュアのことを叱りますが、ジョシュアは全く気にせずニパッと笑い返します。
 しかし、今の発言でわたくしは理解しました。
 ガーネットおばあさまは、どうにかこの妙ちくりんな格好を矯正する方向に誘導しようとしていたのだと!

「あなたたちが妙ちくりんな格好していたからでしょ!」

(ほら……!)

「妙ちくりん……?」

 なんと! ここでガーネットおばあさまの発言に首を傾げたのはジョシュアだけではありません!
 ギルモアからは、他にアイラお姉さま、ギルモア侯爵、ジョエルさま。
 我が家からは、お父さま、エドマンド……
 圧倒的に正常派が数で負けています。

(くっ! わたくしのおじいさまとおばあさまもこの場に来ていたなら……!)

 なぜ留守番なのかと悔しくてなりません。

「おばあ様! なんてことを言うのですか!」
「あ? そんなのジョシュアあなたのセンスが壊滅的だからでしょ」

 凄いです!
 さすが、ガーネットおばあさま。
 あのジョシュアに面と向かってはっきり口にされましたわ!

「僕のセンスが? …………いいえ、そんなことは有り得ません!」

 しかし、何故か胸を張って否定するジョシュア。

「は? なんで言い切れるのよ」
「だって……」

 眉をひそめたガーネットおばあさまにジョシュアは強く反論します。

「僕は───“センスの塊”なおばあ様の姿を見て学んで来たのですから!!」
「なっ……私のすが……たを見て学んで……それ!?」
「はい! おばあ様のセンスから学びました!」
「……!」

(なんということでしょう!)

 ここでガーネットおばあさまがガクッと膝を着きました!

「ガーネット!?」

 侯爵さまが駆け寄ります。
 どうやら、ガーネットおばあさまは今のジョシュアの言葉に心が抉られてしまったようです。
 とてもとてもお気持ちがよく分かりますわ……
 なぜなら……
 今のジョシュアの発言は、“僕が参考にして来たのはおばあ様のセンス”
 つまり、ジョシュア本人の気持ちはともかく、遠回しにガーネットおばあさまはセンスが無いと突きつけたも同然────

「どうしたガーネット? さっそく砂浜で遊びたいのか? 気が早いな」
「ホホホ……ねぇジョルジュあなた、ここまでの会話ちゃんと聞いてた?」
「もちろんだ! ジョシュアはガーネットから学んで大きくなった、だ!」
「…………知ってたわ。あなたってそういう人よねぇ、ホホ、ホホホホホ……」

(ガーネットおばあさまぁぁぁ!)

 侯爵さまは心配して駆け寄ったとばかり思っていたのに、さらにガーネットおばあさまの心を抉ります……
 社交界では怖いもの知らず、そして逆らうべからずとまで言われているガーネットおばあさまがどんどん沈んでいく……
 これが、ギルモア家の男……

(やはり、おそろしいですわ)

 ここまでずっと無言で眉間に皺を寄せているだけで何も言わないジョシュアの父、ジョエルさまも色んな意味で恐ろしいです……

「ナターシャ? ボーッとしてどうしたの?」
「はっ!」

 気付くとジョシュアが不思議そうにわたくしの顔を覗き込んでおりました。
 わたくしの目の前で手のひらを上下左右に動かしています。
 目が合うとニパッと笑いかけてきました。

「見て、このシャツ! 通気性のよい生地を使ってお花の刺繍をして貰ったんだ~」
「……なぜ、ボタンを掛け違えているんですの?」
「え? これ?」

 ジョシュアはニパッと笑いました。
 この満面の笑顔……
 ボタンの掛け違いだけは、急いでたからとかそういう致し方ない理由でもあるのかと思っていましたがこれもどうやら違うようです。

「これは、アイラのアドバイス!」
「……アイラお姉さま……の?」

 わたくしがチラッとアイラお姉さまに視線を向けると、目が合ったアイラお姉さまが大きく頷きます。
 頭に乗ってるおリボンも大きく揺れました。

「そうなんだ! カチッとした格好でビシッ決めるよりも、ちょっと隙がある方が普段との違いからキュンッてするんだって!」
「……キュン?」
「どうかな、ナターシャ! “キュンッ”てした?」
「……」

 にこにこ顔でわたくしの答えを待つジョシュア。
 わたくしはにっこり微笑んで答えます。

「ジョシュア……あなたの場合はカチッとした格好でビシッと決めた方がキュンッてされるかもしれませんわよ?」
「えー? それはどういう意味?」
「ほっほっほ! そのままの意味ですわ」
「なんでーー?」

 しつこく食い下がってくるジョシュアから、わたくしはフンッと顔を逸らしました。

「どちらにしても、わたくしはあなたにキュンッなんてしませんけど!」
「えーー、そうなの?」
「そうですわよって、……きゃっ! な、何してますの!?」

 ジョシュアは仕方なさそうにシャツを脱いでボタンを掛け直そうとしました。
 急に脱ぎ出したので、わたくしは思いっきり動揺してしまいます。

「何って……ナターシャ? 顔が真っ赤だよ?」
「気のせい、ですわ!」

 ジョシュアの方が見れません。
 あんなにベビーの頃はぷにぷにを気にしてたくせに、思っていたよりも、今はきちんと引き締まった身体をしているなんて決して思っていませんわ!

「えー? でも……」
「気のせい、ですわ!」
「……あっ、そっか!」

(……そっか?)

 ジョシュアは慌ててボタンを正しくボタンを掛けるとニパッと笑いました。
 そして、そのまま近寄って来たと思ったら、よいしょっと言ってわたくしを抱き上げました。

「んぁ……?」

 突然フワッと体が持ち上がり横抱きになっている状況に理解が追いつかなかったわたくしは間抜けな声を上げてしまいます。

「僕たちの到着が遅くなったから待たせちゃったもんね」
「……?」
「ほら、海って直射日光が強くて注意が必要なんだよ」
「……あ、いえ、これは違っ……」

 どうやら、ジョシュアはわたくしが日光に当てられて体調が悪くなったと勘違いしているようです!

「えっと、こういう時は確か身体を冷やさないといけないって聞いたなぁ」
「ちょっ、ジョシュア……わたくしの話を聞い……」

 なんでしょう。
 これ、すごく、すごーーく嫌な予感がします。

「そうだ!」

 ニパッと笑いかけてくるジョシュア。
 いつもは憎らしいだけの笑顔ですが、今はこのニパッとした笑顔が恐ろしいですわ!

「ひぃっ……」
「ここは海……すぐそこにお水が沢山あるんだから、海に入ればいいんだ!」
「ジョシュア? 聞いてます? わたくし元気ですし、それにきっとそれは何かが違う……」

 確か、本当に具合が悪い時はまず涼しい所に移動して身体を休めてから、身体を冷やす! だった気がします。

「さあ行くよ、ナターシャ! 僕に捕まってて?」 
「ひっ、こら! 今すぐわたくしを解放なさい!」
「ダメだってば。そんな真っ赤な顔で何を言ってるの?」
「あなたこそ、真面目な顔で何を言ってるんですのーー!」

 ニパッ!
 ジョシュアが笑いかけてきます。

「ニパッじゃありません!」
「うーん。ナターシャは注文が多いなぁ、よし、走るよ~」

 なんとジョシュアは降ろすどころかわたくしを抱きかかえたまま、走り出そうとします。

「ひいっ!?    せめて……せめて足元は砂浜なんですから慎重に歩きなさいですわぁぁ」
「ん? 大丈夫だよ、僕の足はベビーの頃から走り回ってばっちり鍛えてるから。任せて!」
「そういう問題ではありませんわーーーー……」

 こうしてなぜかわたくしたちは海へと一直線に走っていくことになりました。

「うぅ……」

(なぜ……なぜ、誰もジョシュアの暴走を止めてくれませんのーー!?)




✲✲✲✲✲


もちろん、唯一のストッパー、ガーネットがダメージくらったままで動けてないからです。
 
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