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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
14. 変人兄妹
しおりを挟む「姉さま~、早く早く!! こっちに来てください!」
「ちょっと、エドマンド……!」
砂浜の上をエドマンドが楽しそうに駆け回り、手を振ってわたくしを呼んでいます。
「ほら姉さま、海が綺麗ですよ!」
「え、ええ……ハァハァ……」
元気が有り余っているエドマンドに振り回され、わたくしは肩で息をしました。
「無事に来れて良かったですね」
「そう、ね」
黒いメガネ───サングラスのせいで表情がよく見えないけれど、エドマンドが嬉しそうなのは伝わって来ます。
「海まで領地として持ってるなんて、さすがギルモア家ですよね」
「ま、まあ……」
何も知らず純粋な笑顔を向けてくるエドマンドに、ベビーだったジョシュアが分捕った領地よ、とはなんだか言いにくいです。
「姉さま?」
「ほっほっほ! なんでもなくってよ!」
わたくしは笑って誤魔化しました。
「?」
「そ、それより───ギルモア家の皆様は遅いですわね!」
今日は前に誘われていた海に行く日。
不届き者の成敗を終えたので心置きなく遊べますわ。
しかし、ギルモア家の人々が来ないため、先に到着したわたくしたちは先に遊んでしまっています。
「はっはっは! どうせ、ジョエルが馬車に乗るのを渋ってるに違いない!」
お父さまが軽く笑い飛ばします。
幼少期のトラウマで馬車が苦手なジョエルさま。
それでも夫人とは出かけたり……周りのサポートのおかげもあり、今は昔ほどの拒否反応は示さなくなったと聞いています。
「僕たちは遊びながら、ゆっくり到着を待つとしよう!」
(お父さま……)
はっはっはと笑い飛ばすその姿。
そこに感じるのは友情。
……そう、友情ですわ。
これぞ親友。
わたくしとジョシュアの間にあるものとはぜんっぜん違います!!
「あら、噂をすれば……ナターシャ、ギルモア家の馬車ですわよ」
お母さまの声でわたくしは振り返ります。
そして、クワッと大きく目を見開くとお母さまの指さす方向を見つめました。
確かにあの馬車は……
(ジョシュア……! ついに来ましたのね!)
トクントクンと胸が早く鳴っているのはおそらく殺意の波動!
ロッキー事件(そう名付けました)では色々助けてもらいましたが、やはりわたくしのこの長年の恨み辛みが消えることはありません!
「父さま! 姉さまがギルモア家の馬車を熱く見つめてます!」
「ああ! ナターシャ、そんなにジョシュアに会いたかったのか!」
(違いますわぁ~~)
阿呆な会話をしている二人を軽く睨みつけ、わたくしは憎き男の登場を待ちます。
(……?)
しかし、馬車は停まったものの何故かなかなか降りてきません。
「遅いな?」
「どうしたのかしら?」
お父さまとお母さまも不思議そうに顔を見合せます。
わたくしも少しハラハラしたその時、馬車の扉が開きます。
ホッと安堵したわたくしたちが一斉に視線を向けると、ようやく中から人が降りて来ました。
(……ひ、と?)
降りてきた人物の姿を見てわたくしは首を傾げて驚きの声をあげます。
「……え」
顔にはわたくしたちが今、着用しているものと同じ黒いメガネのサングラス。
頭には麦で編まれた帽子を被っています。
しかし、その帽子にはたくさんのお花が飾られています。
そう、まるで頭の上がお花畑!
「ダ……ダサッ」
わたくしは思わずそう呟いてしまいます。
なぜなら、様子がおかしいのは頭だけではありません。
服装もなのです。
(あ、あの紋様はなんですの!?)
一見、肌着のようにも見えるシャツには目がチカチカするほどの花模様が施されております。
ついでにボタンも掛け違えていますが……
そして、膝から下を惜しげも無く晒しているブリーチズは一目で高級と分かる生地が使われてる品ですが、こちらもシャツとは異なる模様が施されており、明らかに柄が喧嘩しています……
そして足元は革板に紐を縛り付けた履物……
(近寄りたくない変人の登場ですわーーーー!)
あれはジョシュアです。
誰がなんと言おうとあれはジョシュア以外に有り得ません!
わたくしが慄いていると、横から弾んだ声が聞こえました。
「うわぁ~、ジョシュア兄さま、かっこいいーー!」
(かっ!?)
エドマンドが目をキラキラさせて変態ジョシュアを見つめています。
(かっこいい!?)
「おお、ジョシュアか。やはりあの子はいつもセンスがあるな!」
お父さまもその横ではっはっはと笑います。
まあ、独特のセンスを持つお父さまですし? きっと通じるものがあるのでしょう。
しかし……
「ふふ、相変わらずジョシュアくんは斬新ですわね」
(お母さま!?)
笑って受け止めている家族たちにわわたくしの感覚の方がおかしいのかしらと思ってしまいます。
お父さまとお母さまは仕方ないのかもしれません。
ですが、エドマンド……わたくしは弟の将来が一気に心配になりました。
「……っ」
(相手はジョシュア……熱くなったらわたくしの負け……)
そう自分に言い聞かせ、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせようとしました。
ですが、ジョシュアに続いて降りて来たアイラお姉さまの格好を見てわたくしは盛大に吹き出しました。
「ブフォッ」
「姉さま!?」
驚いたエドマンドがわたくしの背中をさすってくれます。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……まあ……ケホケホッ」
なんとアイラお姉さまもジョシュアに負けず劣らずの格好をしております!
頭の麦で編まれた帽子とサングラスは同じです。
しかし、ジョシュアがお花畑だったのに対してアイラお姉さまは、おリボン……!
一つなら可愛かったでしょう。
しかし、そこはジョシュアの妹、アイラお姉さま。
飾られているリボンは一つや二つではありません。
(こちらも柄が頭の上で喧嘩してますわぁ……)
服装もドレスではなく軽めの動きやすそうな平民風の装いのワンピース……
とはいえ、さすがギルモア家のお嬢様。
(生地の光沢が尋常ではないですわね?)
使われている布地やレースは最高級なものであることがここからでも分かりました。
しかし、やはりそれにもおかしな紋様がたくさん施されているのです。
(職人泣かせですわーー)
アイラお姉さまの足元はジョシュアとお揃いのようでした。
とにもかくにも、目の前に現れた二人は高貴な貴族どころかただの海に浮かれた変人ですわ!
「うわぁ、アイラお姉さまも素敵ですね」
「ああ。さすがジョシュアとアイラだ! 素晴らしい!」
(~~っ、お父さまとエドマンドの脳内はどうなっているんですの!?)
「アイラちゃんって、何を着ても似合いますわね」
「お母さま……」
なんということでしょう!
お母さまもすっかり毒されています!!
(恐ろしいですわ……)
続けて馬車から降りてくるギルモア家の面々。
サングラスを掛けているせいで各々表情は分かりにくいですが、わたくしには分かりました。
セアラ夫人とガーネットおばあさまがぐったりしています。
あの海に浮かれまくっている二人と色々あったのでしょう……
(全力で他人のフリがしたいですわぁ)
すでに注目を集めまくっているジョシュアとアイラお姉さま。
わたくしが仲間と思われるのは心外です。
いっそ、アレは見なかったことにして、わたくしは一人海で遊ぶことにしま……
「あ、ナターシャだ! ナターシャ~~、お待たせ~~」
「!?」
「あれ? 聞こえてない? ナターシャ~~」
しかし、残念ながら今すぐこの場から駆け出し、逃げようとしていたわたくしに向かって、ジョシュアは元気よく何度も名前を連呼し手を振って来やがりました。
「ナターシャ! 今、そっちに行くね~」
あの変人が呼びかけているのがわたくしだと分かった周囲の方々は、思いっきり顔を引き攣らせると……
(あ……)
それはそれはとても分かりやすく、わたくしから距離を取っていきました──────……
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