最恐家族は本日も無双中 ~ギルモア家と愉快な人々~

Rohdea

文字の大きさ
70 / 70
毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】

28. プロポーズ大作戦

しおりを挟む

「ナターシャ、来るの早くない!?」
「え、そんなことありませんわよ! ちゃんとわたくしは時間どお……」

 そこまで言いかけてジョシュアの部屋の時計を見上げてハッとします。

(確かに……!)

 なんということでしょう!
 ワクワクドキドキハラハラルンルンし過ぎて、邸を三時間くらいは早く出すぎましたわ!
 ですが、このわたくし……コックス公爵家の令嬢ナターシャ!
 そんな失態を認めるわけにはいきません!!
 ───バサッ
 わたくしは、ガーネットおばあさまがよくする仕草、必殺☆髪かきあげを披露します。

(ここは、フフンとした強気な笑顔がポイントでしてよ!)

 そして高らかに笑います。

「ほっほっほ! 気のせいですわ!」
「え」
「で・す・か・ら! 気のせいですと言ってますの!」
「……」

 ジョシュア相手にはたとえ強引でも押し切るのが一番なのですわ。
 ええ、ええ。
 け……決して早く来すぎたことのうまい言い訳が思いつかなかったわけではありません………………わ!

「そっかぁ!」

 ニパッとジョシュアが笑いました。
 いつもの屈託のない笑顔を向けて来ます。

「!?」

(チョロッ!?)

 え、あまりのチョロさにわたくしの方が心配になるレベルでしてよ!?
 ここ素直さは心配になりますが、まあ、ジョシュアなので。
 何故か生き抜けていけてしまうのですわ───ジョシュアなので。

(……そんなことより)

「寝間着姿のジョシュア……初めて見ましたけど───すごいですわね」

 そう。
 予定より早く到着してしまったわたくし。
 寝覚めの悪い置き物ジョシュアは目覚めたと聞いたから押し掛けてしまいましたが……

(想像よりもやっべぇ、ですわぁ)

「え? すごい?」

 ジョシュアが嬉しそうにニパッと笑います。
 わたくしは呆れて肩を竦めました。

「褒めてませんわよ?」
「違うの?」
「ええ……」

 頭に被っているナイトキャップには花が咲いていますし(絶対寝づらい)
 一枚布で出来ているワンピース型の寝間着にガウン。
 これは珍しい格好ではありません。
 が!
 どこからどう見ても、フリルとレースの装飾がふんだんに使われています。
 刺繍も女性向けのように見えます……

(わたくしが着ているものより凝ってますわね?)

「なんでそんなにフリフリなんですの!」
「え? だって、アイラがその方が絶対に可愛いからってくれた」
「……」

(っ、アイラお姉さまぁぁぁーー)

「ほら、アイラは僕やおばあ様に似てセンスの塊だからさ!」

 ジョシュアはニパッ笑いました。
 ガーネットおばあさまが聞いたら発狂しそうなことを満面の笑みで言ってやがります。

(わたくし……)

 初恋の相手がジョシュアこいつでいいんですの……?
 本当の本当にこの男に惚れているんですの……?
 思わず自分の胸に問いかけてしまいます。

(おかしいですわぁ……)

 この部屋の扉を開けるまでは、三時間も早く来てしまうほど確実に恋する乙女の気分でワクワクドキドキハラハラルンルンしていたはずですのに!

「あ、ナターシャ! 大変だ、言い忘れてた」
「な……なんですの?」

 ジョシュアは珍妙な姿のままニパッと笑いかけてきます。

「おはよう! 今日も可愛いね!」
「────っっっ!?!?!?!?」 

 ボンッ!
 一気にわたくしの顔が熱を持ち真っ赤になりました。

(……くっ、油断ならないっ)

 わたくしはバクバク鳴っている胸をギュッと強く押さえます。
 こんなたった一言で動揺してしまうわたくし。
 嬉しいと思ってしまうわたくし。

「ナターシャ?」
「……いえ」

(チョロいのはわたくしもでしたわぁぁぁ)

 この瞬間、恋心というものの恐ろしさを知りました。


─────


「おばあ様、ナターシャにプロポーズ大作戦がバレたからプロポーズの予告してきた!」 

(ジョシュア……)

「おばあ様、ナターシャは、来週僕のプロポーズ大作戦を体験しに来てくれるんだって!」

(ジョシュアァア……!!) 

「───って言い出した時はうちのジョシュア、ついに頭がおかしくなったかと思ったわ」

 そう言ってわたくしの目の前で遠い目をしながらカップを手に取り一口お茶を飲んだのはガーネットおばあさま。

「そうか? 俺はジョシュアらしく他の誰にも真似出来ない斬新なプロポーズ方法だと思ったが?」

 その横でガーネットおばあさまの様子を不思議そうにしているギルモア侯爵。

「ホーホッホッホッ……そりゃ、他の誰も真似しないでしょうよ。普通ならとっくに一週間前に振られて終了よ」
「そうなのか?」

(ジョシュアの恋愛オンチな所は絶対、祖父似だと思いますわ……)

 と言いますか、ギルモア家特有のへんてこりんな所は全てこの方が発症ですわ。

「そうよ、相手が長い付き合いのナターシャだから何とかなってるようなものよ」
「ふむ」
「まあ、いいわ。ごめんなさいね、ナターシャ。もう少しジョシュアのこと待っててあげて?」
「はい」

 ガーネットおばあさまにそう言われて頷いたわたくしもカップを手に取りお茶を飲みます。
 さすがのジョシュアも、寝間着姿でプロポーズ大作戦を実行する気はないようで───
 今、ジョシュア曰く“準備”をしています。
 その間、わたくしはガーネットおばあさまと侯爵さまとお話することになったのです。

「それにしても、あのジョシュアがプロポーズだなんて。懐かしいわね、ジョルジュ」
「懐かしい?」
「そうよ。あの時はあなたから訪問の先触れが来たから何事かと思ったわ」
「礼儀だ」
「ホホホ……どの口が言ってるのよ、どの口が!」

(突然のバーンはここでも……)

 なぜ、それがわたくしのお父さまにまで受け継がれてるのか解せませんわ……

「その後もずっと挙動不審だったし」

 ガーネットおばあさまはその時のことを思い出したのかクスクス笑いながら懐かしそうにそう話します。

「……」

(わたくしも……)

 わたくしも、いつかこの時のことを懐かしく笑って話せる時が来るのかしら────?
 ですが今は未来よりも……

「あの!」

 わたくしは思い切って口を開きます。

「なにかしら?」
「お、お二人は……」
「「?」」

 ジョシュアの支度を待つ間、ガーネットおばあさまに呼ばれた時は、ジョシュアのプロポーズ大作戦を成功に導くためにジョシュアの評判アゲアゲ話でもされるのかと身構えていたのですが……
 いつもの世間話と変わりません。

「失礼ながら! わたくしにジョシュアのプロポーズを受け入れるようにと強要されないのです、か!?」

 わたくしのその質問にガーネットおばあさまがキョトンと目を丸くします。
 そしてすぐにお腹を抱えて笑いだしました。

「ホーホッホッホッホ! そんなのするわけないじゃない~」
「ああ」

 そして頷く侯爵さま。

「そ、それはわたくしが断ることはないだろうと思っ」
「違うわよ~~」
「ち、がう?」

 思っていた反応と違って戸惑うわたくしにガーネットおばあさまはニヤリと笑いました。

「ナターシャが決めた答えなら私は文句なんてないもの。それに────」
「それに?」
「あの子、一回ぐらいは振られてみるべきだと思うのよねぇ~」

 オーホッホッホ~と高らかに笑うガーネットおばあさま。

「まあ、ナターシャの思うがままに返事なさい。その際、あの子に頭突きしても殴っても蹴飛ばしても踏み潰しても罵倒しても煮ても焼いても私は全然構わないわ!」
「まあ、ジョシュアにとってはどれも全部、ご褒美だろうがな」

 しれっと侯爵さまが恐ろしいことを言います。

「でもそうね……強いて言わせてもらうなら」
「?」

 ガーネットおばあさまがフッと静かに笑いました。

「もしかしたら、ふざけてるように見えることもあるかもしれないけれど、ジョシュアは大真面目よ」
「……」
「プロポーズ大作戦を決めた時から、ちゃんとあの子はナターシャ。あなたのこと考えていたから」
「……」
「それだけは誤解しないでくれると嬉しいわね」
「はい」

 ガーネットおばあさまの言葉にわたくしはしっかり頷きます。

(大丈夫、ちゃんと分かってますわ……)

「ありがとう」

 わたくしが頷いたのを見たガーネットおばあさまは満足そうに笑ってくれました。

「あら、騒がしい。ジョシュアの支度が整ったようね?」

 何やら廊下が騒がしくなっています。
 確かにジョシュアの声も聞こえる気がするので準備が整ったようです。
 わたくしは自分の胸を押さえました。

(つ、ついにですわ……!)

 わたくしが緊張したその時、部屋の扉がバーンと開きました。
 ノックのノの字もありません。

「お待たせ、ナターシャ!」

 ニパッと笑いながら現れたジョシュアの姿に思わず息を呑みました。
 珍妙な寝巻きから一転、今のジョシュアはの格好は……

(……!)

 気品ある濃くて鮮やかなブルーを基調としたベルベットの礼服。
 肩のラインに沿って縫い付けられている肩章、襟元と袖口には銀糸の緻密な刺繍が施されています。
 さらに手にはは白手袋を装着し、装飾品に使われている宝石は……ダ、ダイヤモンド!?
 そして肩から垂らしているのは深紅のベルベットマント……
 そんな煌びやかなマントはジョシュアの動きに合わせて揺れています。

(ど、どこの王子様ですのーーーー!?)

 先程見た格好との落差に空いた口が塞がりません。

「ジョ、ジョシュア……あなた、これから王家のパーティーにでも参加するご予定が?」
「?」

 思わずそう訊ねてしまいます。
 当然ながらジョシュアは首を傾げました。
 まあ、そうでしょう。
 そんなパーティーが開催される予定はありません。

「ナターシャ!」
「は、はい!」

 戸惑うわたくしの前にずずいと近付いてきたジョシュア。
 男前すぎてドキッとわたくしの胸も大きく高鳴ります。

(さすが顔……顔は良いですわ!)

「僕と……」
「……っ」

 ジョシュアの緊張が伝わって来てわたくしもゴクリと唾を飲み込みます。

「けけけ……けけ、け」
「……ジョシュア?」
「け、けっけけけ……」
「……」

 しかし、何故かなかなかジョシュアは先に進みません。

「けけけけけ……け」
「……」
「けっけけけ」

 これは非常に不気味な笑いですわ、と考えていたらわたくしの視界の端でガーネットおばあさまが何故か口元を押さえて悶えておりました。
しおりを挟む
感想 72

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(72件)

月桂樹
2026.02.14 月桂樹
ネタバレ含む
2026.02.15 Rohdea

ありがとうございます!

“ふ”は誤字です!
すみません……!
ご指摘ありがとうございました。

そして毎回感想コメントもありがとうございます。
お返事を返せてなくて申し訳ありませんが、とても嬉しく読んでいます。
よろしければ、この先ものんびりお付き合いください。

解除
バイオレット293028
ネタバレ含む
2026.02.15 Rohdea

ありがとうございます!

失礼しました……!
ナターシャ視点で話を書いてるせいで、うっかり義妹に……
アイラ視点では義姉ですね。

なんであれ、ナターシャには大量のおリボンを持参金とし、
義姉妹になってもらいたいアイラです^^;

解除
眠すぎる
2026.02.13 眠すぎる
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?いいですよ。ですが、次期王を決めるのは私ですので

水中 沈
恋愛
「コメット、今ここで君との婚約を破棄する!!」 建国記念パーティーの最中、私の婚約者であり、第一王子のエドワードは人目も気にせずに大声でそう言った。  彼の腕には伯爵令嬢、モニカがべったりとくっついている。 婚約破棄の理由を問うと、モニカを苛めた悪女と結婚する気は無い。俺は真実の愛を見つけたのだ!とのたまった。   「婚約破棄ですか。別に構いませんよ」 私はあっさりと婚約破棄を了承し、書類にサインをする。 (でもいいのかしら?私と婚約破棄をするってことはそういう事なんだけれど。 まあ、本人は真実の愛とやらを見つけたみたいだし…引き留める理由も無いわ) 婚約破棄から数日後。 第二王子との結婚が決まった私の元にエドワードが鬼の形相でやって来る。 「この悪女め何をした!父上が弟を次期王にすると言い出すなんて!! お前が父上に良からぬことを吹き込んだだろう!!」 唾をまき散らし叫ぶ彼に冷めた声で言葉を返す。 「まさか。 エドワード様、ご存じないのですか?次期王を決めるのは私ですよ」 王座がいらない程焦がれる、真実の愛を見つけたんでしょう?どうぞお幸せに。 真実の愛(笑)の為に全てを失った馬鹿王子にざまぁする話です。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします

ふわふわ
恋愛
王太子から突然の婚約破棄を告げられた公爵令嬢。 社交界の中心で恥をかかされ、次期王妃の座を奪われた――はずだった。 けれど彼女は泣かなかった。怒鳴らなかった。復讐を誓いもしなかった。 「玉座は、座るより設計したほうが面白いですわ」 そう言って一歩退いた彼女は、王妃教育制度を立ち上げ、王と王妃を“育てる側”へと回る。 感情で動く王太子は、やがて理を学び始める。 新たに選ばれた王妃候補は、責任と孤独を知りながら成長していく。 武力でも陰謀でもない。 透明性と制度、そして対話で国を立て直していく静かな逆転劇。 婚約破棄で笑った者たちは、気づけば彼女の作った仕組みの中で頭を下げていた。 これは復讐ではない。 これは成熟。 選ばれなかった令嬢が、王国そのものを進化させる物語。

婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?

無色
恋愛
 子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。  身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。

初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。予約投稿済みです。

「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた

波依 沙枝
恋愛
侯爵令嬢セレスティアは、第二王子リヒトの婚約者だった。 彼に愛されていると信じ、どれほど冷たくされても、気まぐれに与えられる優しい言葉だけを支えに、隣に立ち続けてきた。 ――しかしある夜、彼女は見てしまう。 婚約者が、知らない女を抱きながら、自分を嘲笑っているところを。 「お前みたいな女を愛する者などいない」 絶望の中で崩れ落ちた彼女に、ひとりの男が手を差し伸べた。 「――助けるのは、私でもいいかな」 それは、かつて彼女の孤独に寄り添ってくれた、“本当の王子”だった。 これは、愛されなかったはずの侯爵令嬢が、 本物の王子に見出され、溺愛され、 そして彼女を捨て、嘲笑った婚約者が、すべてを失って後悔するまでの物語。 今さら縋りついても、もう遅い。 彼女はもう、“選ばれる側”ではなく、“選ぶ側”なのだから。

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです

睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。