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毎日、微笑みの貴公子をボッコボコにしたいと企んでいる公爵令嬢ですが【ナターシャ】
28. プロポーズ大作戦
しおりを挟む「ナターシャ、来るの早くない!?」
「え、そんなことありませんわよ! ちゃんとわたくしは時間どお……」
そこまで言いかけてジョシュアの部屋の時計を見上げてハッとします。
(確かに……!)
なんということでしょう!
ワクワクドキドキハラハラルンルンし過ぎて、邸を三時間くらいは早く出すぎましたわ!
ですが、このわたくし……コックス公爵家の令嬢ナターシャ!
そんな失態を認めるわけにはいきません!!
───バサッ
わたくしは、ガーネットおばあさまがよくする仕草、必殺☆髪かきあげを披露します。
(ここは、フフンとした強気な笑顔がポイントでしてよ!)
そして高らかに笑います。
「ほっほっほ! 気のせいですわ!」
「え」
「で・す・か・ら! 気のせいですと言ってますの!」
「……」
ジョシュア相手にはたとえ強引でも押し切るのが一番なのですわ。
ええ、ええ。
け……決して早く来すぎたことのうまい言い訳が思いつかなかったわけではありません………………わ!
「そっかぁ!」
ニパッとジョシュアが笑いました。
いつもの屈託のない笑顔を向けて来ます。
「!?」
(チョロッ!?)
え、あまりのチョロさにわたくしの方が心配になるレベルでしてよ!?
ここ素直さは心配になりますが、まあ、ジョシュアなので。
何故か生き抜けていけてしまうのですわ───ジョシュアなので。
(……そんなことより)
「寝間着姿のジョシュア……初めて見ましたけど───すごいですわね」
そう。
予定より早く到着してしまったわたくし。
寝覚めの悪い置き物ジョシュアは目覚めたと聞いたから押し掛けてしまいましたが……
(想像よりもやっべぇ、ですわぁ)
「え? すごい?」
ジョシュアが嬉しそうにニパッと笑います。
わたくしは呆れて肩を竦めました。
「褒めてませんわよ?」
「違うの?」
「ええ……」
頭に被っているナイトキャップには花が咲いていますし(絶対寝づらい)
一枚布で出来ているワンピース型の寝間着にガウン。
これは珍しい格好ではありません。
が!
どこからどう見ても、フリルとレースの装飾がふんだんに使われています。
刺繍も女性向けのように見えます……
(わたくしが着ているものより凝ってますわね?)
「なんでそんなにフリフリなんですの!」
「え? だって、アイラがその方が絶対に可愛いからってくれた」
「……」
(っ、アイラお姉さまぁぁぁーー)
「ほら、アイラは僕やおばあ様に似てセンスの塊だからさ!」
ジョシュアはニパッ笑いました。
ガーネットおばあさまが聞いたら発狂しそうなことを満面の笑みで言ってやがります。
(わたくし……)
初恋の相手がジョシュアでいいんですの……?
本当の本当にこの男に惚れているんですの……?
思わず自分の胸に問いかけてしまいます。
(おかしいですわぁ……)
この部屋の扉を開けるまでは、三時間も早く来てしまうほど確実に恋する乙女の気分でワクワクドキドキハラハラルンルンしていたはずですのに!
「あ、ナターシャ! 大変だ、言い忘れてた」
「な……なんですの?」
ジョシュアは珍妙な姿のままニパッと笑いかけてきます。
「おはよう! 今日も可愛いね!」
「────っっっ!?!?!?!?」
ボンッ!
一気にわたくしの顔が熱を持ち真っ赤になりました。
(……くっ、油断ならないっ)
わたくしはバクバク鳴っている胸をギュッと強く押さえます。
こんなたった一言で動揺してしまうわたくし。
嬉しいと思ってしまうわたくし。
「ナターシャ?」
「……いえ」
(チョロいのはわたくしもでしたわぁぁぁ)
この瞬間、恋心というものの恐ろしさを知りました。
─────
「おばあ様、ナターシャにプロポーズ大作戦がバレたからプロポーズの予告してきた!」
(ジョシュア……)
「おばあ様、ナターシャは、来週僕のプロポーズ大作戦を体験しに来てくれるんだって!」
(ジョシュアァア……!!)
「───って言い出した時はうちのジョシュア、ついに頭がおかしくなったかと思ったわ」
そう言ってわたくしの目の前で遠い目をしながらカップを手に取り一口お茶を飲んだのはガーネットおばあさま。
「そうか? 俺はジョシュアらしく他の誰にも真似出来ない斬新なプロポーズ方法だと思ったが?」
その横でガーネットおばあさまの様子を不思議そうにしているギルモア侯爵。
「ホーホッホッホッ……そりゃ、他の誰も真似しないでしょうよ。普通ならとっくに一週間前に振られて終了よ」
「そうなのか?」
(ジョシュアの恋愛オンチな所は絶対、祖父似だと思いますわ……)
と言いますか、ギルモア家特有のへんてこりんな所は全てこの方が発症ですわ。
「そうよ、相手が長い付き合いのナターシャだから何とかなってるようなものよ」
「ふむ」
「まあ、いいわ。ごめんなさいね、ナターシャ。もう少しジョシュアのこと待っててあげて?」
「はい」
ガーネットおばあさまにそう言われて頷いたわたくしもカップを手に取りお茶を飲みます。
さすがのジョシュアも、寝間着姿でプロポーズ大作戦を実行する気はないようで───
今、ジョシュア曰く“準備”をしています。
その間、わたくしはガーネットおばあさまと侯爵さまとお話することになったのです。
「それにしても、あのジョシュアがプロポーズだなんて。懐かしいわね、ジョルジュ」
「懐かしい?」
「そうよ。あの時はあなたから訪問の先触れが来たから何事かと思ったわ」
「礼儀だ」
「ホホホ……どの口が言ってるのよ、どの口が!」
(突然のバーンはここでも……)
なぜ、それがわたくしのお父さまにまで受け継がれてるのか解せませんわ……
「その後もずっと挙動不審だったし」
ガーネットおばあさまはその時のことを思い出したのかクスクス笑いながら懐かしそうにそう話します。
「……」
(わたくしも……)
わたくしも、いつかこの時のことを懐かしく笑って話せる時が来るのかしら────?
ですが今は未来よりも……
「あの!」
わたくしは思い切って口を開きます。
「なにかしら?」
「お、お二人は……」
「「?」」
ジョシュアの支度を待つ間、ガーネットおばあさまに呼ばれた時は、ジョシュアのプロポーズ大作戦を成功に導くためにジョシュアの評判アゲアゲ話でもされるのかと身構えていたのですが……
いつもの世間話と変わりません。
「失礼ながら! わたくしにジョシュアのプロポーズを受け入れるようにと強要されないのです、か!?」
わたくしのその質問にガーネットおばあさまがキョトンと目を丸くします。
そしてすぐにお腹を抱えて笑いだしました。
「ホーホッホッホッホ! そんなのするわけないじゃない~」
「ああ」
そして頷く侯爵さま。
「そ、それはわたくしが断ることはないだろうと思っ」
「違うわよ~~」
「ち、がう?」
思っていた反応と違って戸惑うわたくしにガーネットおばあさまはニヤリと笑いました。
「ナターシャが決めた答えなら私は文句なんてないもの。それに────」
「それに?」
「あの子、一回ぐらいは振られてみるべきだと思うのよねぇ~」
オーホッホッホ~と高らかに笑うガーネットおばあさま。
「まあ、ナターシャの思うがままに返事なさい。その際、あの子に頭突きしても殴っても蹴飛ばしても踏み潰しても罵倒しても煮ても焼いても私は全然構わないわ!」
「まあ、ジョシュアにとってはどれも全部、ご褒美だろうがな」
しれっと侯爵さまが恐ろしいことを言います。
「でもそうね……強いて言わせてもらうなら」
「?」
ガーネットおばあさまがフッと静かに笑いました。
「もしかしたら、ふざけてるように見えることもあるかもしれないけれど、ジョシュアは大真面目よ」
「……」
「プロポーズ大作戦を決めた時から、ちゃんとあの子はナターシャ。あなたのこと考えていたから」
「……」
「それだけは誤解しないでくれると嬉しいわね」
「はい」
ガーネットおばあさまの言葉にわたくしはしっかり頷きます。
(大丈夫、ちゃんと分かってますわ……)
「ありがとう」
わたくしが頷いたのを見たガーネットおばあさまは満足そうに笑ってくれました。
「あら、騒がしい。ジョシュアの支度が整ったようね?」
何やら廊下が騒がしくなっています。
確かにジョシュアの声も聞こえる気がするので準備が整ったようです。
わたくしは自分の胸を押さえました。
(つ、ついにですわ……!)
わたくしが緊張したその時、部屋の扉がバーンと開きました。
ノックのノの字もありません。
「お待たせ、ナターシャ!」
ニパッと笑いながら現れたジョシュアの姿に思わず息を呑みました。
珍妙な寝巻きから一転、今のジョシュアはの格好は……
(……!)
気品ある濃くて鮮やかなブルーを基調としたベルベットの礼服。
肩のラインに沿って縫い付けられている肩章、襟元と袖口には銀糸の緻密な刺繍が施されています。
さらに手にはは白手袋を装着し、装飾品に使われている宝石は……ダ、ダイヤモンド!?
そして肩から垂らしているのは深紅のベルベットマント……
そんな煌びやかなマントはジョシュアの動きに合わせて揺れています。
(ど、どこの王子様ですのーーーー!?)
先程見た格好との落差に空いた口が塞がりません。
「ジョ、ジョシュア……あなた、これから王家のパーティーにでも参加するご予定が?」
「?」
思わずそう訊ねてしまいます。
当然ながらジョシュアは首を傾げました。
まあ、そうでしょう。
そんなパーティーが開催される予定はありません。
「ナターシャ!」
「は、はい!」
戸惑うわたくしの前にずずいと近付いてきたジョシュア。
男前すぎてドキッとわたくしの胸も大きく高鳴ります。
(さすが顔……顔は良いですわ!)
「僕と……」
「……っ」
ジョシュアの緊張が伝わって来てわたくしもゴクリと唾を飲み込みます。
「けけけ……けけ、け」
「……ジョシュア?」
「け、けっけけけ……」
「……」
しかし、何故かなかなかジョシュアは先に進みません。
「けけけけけ……け」
「……」
「けっけけけ」
これは非常に不気味な笑いですわ、と考えていたらわたくしの視界の端でガーネットおばあさまが何故か口元を押さえて悶えておりました。
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ありがとうございます!
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