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第23話 その笑顔は最強
しおりを挟む私は思わずお兄様とペトラを見る。
私と目が合ったペトラはまだ、何も言っていないのにペラペラと語り出した。
「わ、わわ、私は知らないわ! 私はアーロン様に確実に刑を執行してね? ってお願いしただけだもの!! きょ、虚偽の報告だなんて、は、初耳ですわ!」
「……」
ペトラは必死に知らないと弁解するけれどお兄様は真っ青な顔で口を噤んだまま。
「つまり、私は本当は処刑されるほどの罪を犯してはいないって事ですか?」
「そういう事だ。と言うか俺はそもそも疑問だったんだけど、フェリこそ自分の処分をおかしいと思わなかったのか?」
「え……?」
そう言われて考える。そうして思い至ったのは……
(ゲームのせいで完全にそういうものだと思っていた!)
……だった。
よくよく考えれば死刑宣告を受けた私はその事にショックを受けて意識を失った。
目を覚ますと同時に前世を思い出したから、そのまま自分の運命なのだと受け入れてしまったけれど、倒れる前には“私が処刑なんて有り得ない”そう思った……
(完全に今更だけど)
そんな私の顔色から考えを読んだと思われるリアム殿下が肩を竦めながら言う。
「フェリは素直すぎる……俺としては本当にそこの女に虐めなんてしていたのか? と心から思うよ」
「……」
「まぁ、それも何となくそこの女にそれとなく誘導されていたんじゃ? なんて俺は思っているけどね」
「リー様……」
「フェリ」
リアム殿下の私を抱きしめる力が強くなる。
いくら改心しても過去は消せないし、私がした事は無かった事には出来ないけれど、これからはこの人の隣で恥じる事のないように生きていきたいと、改めて強く思った。
「ちょっと! 何を見つめ合っているの!? そもそも、何でずっと横抱きしてるのよ!? あぁ、もう冗談じゃないわ! 何なのこれは。ねぇ、私のハッピーエンドはどこへ行ってしまったのよ!?」
この空気が自分が望んだハッピーエンドとは違う流れになったと悟ったペトラが憤慨し始めた。
あと、横抱きの件は私に言われても困る。
「あーあ、アーロン様は何か処罰? とか言っているし? これ、もしかして私、王妃になれないんじゃないの? やだー、こんな事ならアーロンなんて狙うんじゃなかったわ。大失敗!」
「なっ!?」
ペトラのその言葉にそれまでずっと黙りを決め込んでいたお兄様が反応した。
可憐だのなんだのと言っていたペトラの変貌に流石に黙っていられなくなったらしい。
「ペ、ペトラ……まさか君はずっと僕の事をそんな風に」
「ふんっ! 当たり前でしょ? あなたから“王太子”という肩書きを取ったら何が残るというの?」
「っっ!!」
お兄様がショックを受けた顔をする。
「何かアーロンは思っていたのと全然違うし。ゲームではもっと格好良かったのに! 何か肝心な所でこれでしょ、最低よ」
「ペ、ペトラ……」
「もう……王妃になれるなら隠しキャラを狙えば良かったわ~。シスコンだったから興味無くてやめたけど、実はそこまでじゃなさそうだし」
ペトラはそんな事を言いながら、リアム殿下の方をチラリと見た。
私はハッとする。これは、リアム殿下に狙いを変えようとしているのでは?
(そんなの許さないわ! リアム殿下は絶対に渡さないんだから!)
「……リー様!」
私は慌ててリアム殿下に抱き着く。
「どうした? フェリ」
「えっと、リー様に……あ、甘えたくなって!」
「え!?」
そう言って私が更にギューっと力を入れて抱き着くと、リアム殿下の顔がどんどん真っ赤になっていく。
(ま、真っ赤だわ!)
ペトラへの醜い嫉妬も忘れて純粋に驚いた。
まさか私の“甘えたい”という言葉だけでこんな反応になるなんて!
「……リー様、顔が、赤いです、よ?」
「しょ、しょうがないだろう!? だってフェリが……フェリが俺に甘えたいって」
リアム殿下が何かを噛み締めている。
「あ、甘えてもいいですか? たくさん……」
「あぁ! と、当然だ! たくさん甘えてくれ」
頬を赤くした殿下は大きく頷いてくれた。
私はその言葉が嬉しくて、再びギュッと抱き着く。
そもそもがペトラへの牽制のつもりだったという事はもう遥か彼方に吹き飛んでいた。
「リー様!」
「フェリ!」
私達は互いに見つめ合い、そしてどちらからともなく互いの顔が近付いて──……
という、とっても良い所で……
「目の前でイチャイチャしてるんじゃないわよーー!!」
というペトラの声に邪魔された。
いい所で邪魔をされたリアム殿下が、苛立ちを隠さずにペトラに向かって言った。
「愛しのフェリとの語らいを邪魔しないでくれないか?」
「愛しって……殿下! 調べたのなら分かっているのでしょう? フェリシティ王女が私に何をしたのか! それでもそこの王女様が愛しいとあなたは仰るのですか?」
ペトラの反論にリアム殿下は大きなため息を一つ吐いて言った。
「さっきも言っただろう? 聞いていなかったのか? 俺の可愛いフェリは誘導されていたんじゃないかって」
「わ……私が誘導したとでも言うのですか!? そんな事実はありませんわ! 私は被害者なんです!」
ペトラは真っ赤な顔をして反論した。
「…………そうだろうか? 俺が調べた所によると、君はフェリの婚約者だったネイサン・ヘッドリス公爵令息に話しかける時は何故か、フェリシティ王女の前でだけ必要以上に腕を組みベタベタしていたそうだが?」
「え?」
「フェリシティ王女の見ていない所ではそんな事をしていなかった……そんな証言があるんだが?」
(……え? そうだったの?)
それは私にとって初耳の情報だった。
「これって、わざとフェリを煽っていたようにしか思えないんだが、どういう事だろう?」
「い、嫌ですわ。そ、そんな事、ありません……わ」
ペトラの目が泳ぐ。明らかに心当たりがあり動揺しているようにしか見えない。
「アーロン殿下に対してもそうだ。フェリがアーロンと約束をしていた日をわざわざ狙って、アーロン殿下に会いたいと呼び出してフェリとの約束をキャンセルさせていた、という話もー……」
「……なっ!」
……確かに、お兄様と出かける約束していた日は、いつもペトラとの用事が出来てしまったからすまない……って、言われたっけ。
そういう、積み重ねがどんどん私の心を蝕んでいった……
「まだまだ、あるぞ? フェリのー」
「や、やめて下さい!! 私は、私はそんな事はしていないわ! だってそんな事しなくても愛される存在だもの! だから、だから、ちゃんとハッピーエンドを迎えて……迎えたはずで……」
そう叫ぶペトラの姿は、どこからどう見ても“愛されるヒロイン”には見えない。
「──さて、陛下。これがあなたが知ろうとしなかった真実です。アーロンの話だけを鵜呑みにし、フェリシティは要らないと口にした貴方が……これまで見ようとしなかった、ね」
リアム殿下はそれまで黙って事の成り行きを見ているだけだったお父様に向かって冷たい声で言った。
「……っ!」
ひゅっとお父様が息を呑む。
「……陛下。あなたと約束したのは、アーロン殿下の廃嫡という話とフェリシティ王女への求婚の許可だけでしたが、ちょっと色々と我慢ならないので他にも要求を追加したいと思うのですが?」
「つ……追加、だと?」
「はい、追加です。当然、聞いて貰えますよね?」
リアム殿下は、腕に私を抱えたまま、あのにっこりとした笑顔をお父様に向けた。
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