10 / 29
10. 久しぶりの逢瀬
しおりを挟む(破れた!?)
「ああ、ユディット様が強く引っ張るからで……」
ロベリアが困惑の表情で、再び手紙に手を伸ばそうとする。
私はその手を払い除けて叫んだ。
「……触らないで!」
「え……? ユ、ユディット様……?」
私の叫び声にロベリアがたじろぐ。
「……これは私の……私への手紙なの! 他の人が勝手にベタベタ触っていいものでは無いのよ! そんな当たり前のことも分からないの?」
───たとえ、あなたが本物のジュディス王女だったとしても関係ない。
これは、私を心配してバーナード殿下がくれた大事な大事な手紙なんだから。
「ひ、酷いです……そんな言い方……」
ロベリアは目に涙を潤ませながらチラチラと私を見てくる。
泣けば許されるなんて思わないで欲しい。
「…………お兄様、私は部屋に戻りますわ。あとの事はよろしくお願いします」
「え! あ、おい……ユディット!」
(ロベリアのあの様子……私がここで口を出すとますます面倒な事になる)
あのチラチラは私の反撃を待っているような目だった。
誰が誘いに乗るものですか!
それに、王家から届いた公爵令嬢宛の手紙を、どんな理由があるにせよ、奪おうとして破るという行為──
そういった罰はお父様やお兄様に任せた方がいい。
私はそのまま手紙を抱えて部屋へと戻った。
「読めなくなるほど破れてはいないみたい……良かった」
部屋に辿り着くと、真っ先に手紙の無事を確認する。
かなり破れてしまっているけれど、何とか読む事は出来そうだった。
それにしても……
(……あの人は違うわ。ロベリアはジュディス王女じゃない……)
王女様に会った事の無い私がそう断言するのもおかしいけれど、夢で見たからこそ分かる。
あの行為は、殿下と楽しそうに無邪気に笑い合っていた人のする事じゃない。
(ジュディス王女は木に登っていた時、自分の行動が王女のする事ではないとちゃんと分かっていたわ)
なにより、殿下が今でも大切に想うくらい大好きだった人が、あんなにも無神経な人だなんて私自身が思いたくない。
「夢の中でジュディス王女は自分をお転婆だと言っていたけれど、ロベリアのあれは、ただの無神経よ。いえ、それよりも───」
あれは絶対にわざとだ。
私を怒らせようとしていたようにしか思えない。
目的や理由は不明だけれど、見た目が“ジュディス王女”に似ているのだってもしかしたら……
「……あの人はどこの誰で何が目的なの……」
─────
そんな殿下からの手紙は、ひたすら私を労る事ばかり書かれていた。
ただ、そんな中にも“会いたい”“顔が見たい”そんな想いが見え隠れしていて、読んでいるだけなのにドキドキしてしまう。
「……いつだって辛くても笑って元気だと口にして、隠そうとするユディットが無理をしていないか、それだけが心配です……って」
不思議なのだけど、殿下は時々、このようにまるで昔から知り合いのような事を言う。
この間の甘いものが好きという話もそうだった。
あれは、お兄様から聞いたと言っていたけれど……
「趣味嗜好はともかく、性格まで詳しい? となると……うーん……」
(お兄様から話を聞いただけで? 本当に? それにしては……どこか細すぎる気がする)
なんであれ、殿下はこんなにも私の事を心配してくれている。その事だけは確かだ。
「…………バーナード様……私も早くあなたに会いたいです」
私は手紙を抱きしめながらそう呟いた。
❋❋❋
「お父様、本当? 今日から王宮にまた通ってもいいのね?」
「ああ。あれから頭痛で倒れるということも起きていないし、そろそろいいだろう」
翌日の朝食の後、お父様が私にそう言った。
もしかしたら、殿下に会えるかも!
その事に私が内心で喜んでいるとお父様が言う。
「……殿下もそろそろ限界だそうだ」
「限界、ですか?」
「ああ。ローランが言うにはな……殿下はお前に会えない日が続いて、どんどん荒んでいっているらしい」
「え……荒む?」
あの優しい人が?
想像出来ず困ってしまう。
「ローランは、悪魔が悪魔が笑顔で仕事をたんまり持ってくる……って夜に魘されているらしい」
(お兄様……)
「それから、ロベリアの事だが……」
「は、はい」
「昨日のことだ。ローランから話は聞いた」
「はい……」
そういえば、ロベリア……今朝は朝食の席にいなかった。
「記憶が無いとはいえ、お前にしたという行為は許せるものでは無い。だが、さすがにまだ身元も判明せず、記憶も戻らない状態で放り出すわけにはいかない。とりあえずは、きつく叱りしっかり反省してもらう事にした」
「そうですか……」
「使用人達にはユディットとは顔を合わせる事が無いように配慮しろと言ってあるから、安心してくれていい」
「……ありがとうございます」
だから、ロベリアは朝食の席にいなかったのね。これで反省してくれるといいのだけど。
(それに、彼女の事はお兄様が調べている……そのうち何者かは判明するはずよ)
それまでの辛抱だと思い私は、お父様に頭を下げてお礼を言った。
「いや、お礼はいい。なによりまた、ユディットに倒れられたら大変だ。お前は大事な大事なあ…………」
「お父様?」
「あ…………い、いや、何でもない……コホッ……大事な娘だからな!」
「?」
咳払いで何かを誤魔化そうとするお父様の様子が少し気になった。
────
お昼すぎ、ガタガタと揺られながら、私は王宮へと向かう。
(ようやくお妃教育も再開! 頑張るわ! なにより……)
休憩時間……合間を見て私から殿下に会いに行っても許されるかしら?
どんな顔で迎えてくれる?
そう考えるだけで胸がドキドキする。
そうして、馬車が王宮に着いたので私が降りると、すくに後ろから声が聞こえて来た。
「────ユディット!」
(……この声!)
私は慌てて振り返る。そこに居たのは間違いなくバーナード殿下。
「……殿下!? どうして、こ……」
「ユディット!」
駆けて来た殿下が、ギューーーーッと私を抱きしめる。
「会いたかった!」
「……わ、私も、です……」
「会いたくて会いたくて頭がおかしくなるかと思った……」
「殿下……」
そんなにも想ってくれていたというだけで、胸がキュンとなる。
「具合は本当に大丈夫…………ってごめん。病み上がりなのに!」
「え? あ……」
殿下が思い出したようにハッとして身体を離してしまう。
せっかくの温もりが無くなってしまった事に寂しさを覚える。
「ユディット?」
「そ、その……」
「うん?」
「……」
自分からもっとギュッとしてください……と言うのが恥ずかしかった私は、自分からえいやっと抱きつくことにした。
「ユ、ユ、ユディット!?」
「……」
「え、何? これ、なんのご褒美? ユディットから僕にギュー……じゃなくて抱きつく? え? 嘘っ……夢!?」
混乱させてしまったのか……顔を真っ赤にした殿下が早口すぎて、何を言っているのか全く理解出来なかった。
110
あなたにおすすめの小説
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
わかったわ、私が代役になればいいのね?[完]
風龍佳乃
恋愛
ブェールズ侯爵家に生まれたリディー。
しかしリディーは
「双子が産まれると家門が分裂する」
そんな言い伝えがありブェールズ夫婦は
妹のリディーをすぐにシュエル伯爵家の
養女として送り出したのだった。
リディーは13歳の時
姉のリディアーナが病に倒れたと
聞かされ初めて自分の生い立ちを知る。
そしてリディアーナは皇太子殿下の
婚約者候補だと知らされて葛藤する。
リディーは皇太子殿下からの依頼を
受けて姉に成り代わり
身代わりとしてリディアーナを演じる
事を選んだリディーに試練が待っていた。
不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら
柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。
「か・わ・い・い~っ!!」
これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。
出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
聖女になる道を選んだので 自分で幸せを見つけますね[完]
風龍佳乃
恋愛
公爵令嬢リディアは政略結婚で
ハワードと一緒になったのだが
恋人であるケイティを優先させて
リディアに屈辱的な態度を取っていた
ハワードの子を宿したリディアだったが
彼の態度は相変わらずだ
そして苦しんだリディアは決意する
リディアは自ら薬を飲み
黄泉の世界で女神に出会った
神力を持っていた母そして
アーリの神力を受け取り
リディアは現聖女サーシャの助けを
借りながら新聖女として生きていく
のだった
運命の秘薬 〜100年の時を超えて〜 [完]
風龍佳乃
恋愛
シャルパド王国に育った
アリーリアはこの国の皇太子である
エドアルドとの結婚式を終えたが
自分を蔑ろにした
エドアルドを許す事が出来ず
自ら命をたってしまったのだった
アリーリアの魂は彷徨い続けながら
100年後に蘇ったのだが…
再び出会ってしまったエドアルドの
生まれ変わり
彼も又、前世の記憶を持っていた。
アリーリアはエドアルドから離れようと
するが運命は2人を離さなかったのだ
戸惑いながら生きるアリーリアは
生まれ変わった理由を知り驚いた
そして今の自分を受け入れて
幸せを見つけたのだった。
※ は前世の出来事(回想)です
【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。
まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。
少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。
そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。
そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。
人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。
☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。
王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。
王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。
☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。
作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。
☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。)
☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。
★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる