【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea

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10. 久しぶりの逢瀬

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  (破れた!?)

「ああ、ユディット様が強く引っ張るからで……」

  ロベリアが困惑の表情で、再び手紙に手を伸ばそうとする。
  私はその手を払い除けて叫んだ。

「……触らないで!」
「え……?  ユ、ユディット様……?」

  私の叫び声にロベリアがたじろぐ。

「……これは私の……私への手紙なの!  他の人が勝手にベタベタ触っていいものでは無いのよ!  そんな当たり前のことも分からないの?」

  ───たとえ、あなたが本物のジュディス王女だったとしても関係ない。
  これは、私を心配してバーナード殿下がくれた大事な大事な手紙なんだから。

「ひ、酷いです……そんな言い方……」

  ロベリアは目に涙を潤ませながらチラチラと私を見てくる。
  泣けば許されるなんて思わないで欲しい。

「…………お兄様、私は部屋に戻りますわ。あとの事はよろしくお願いします」
「え!  あ、おい……ユディット!」

  (ロベリアのあの様子……私がここで口を出すとますます面倒な事になる)

  あのチラチラは私の反撃を待っているような目だった。
  誰が誘いに乗るものですか!

  それに、王家から届いた公爵令嬢宛わたしの手紙を、どんな理由があるにせよ、奪おうとして破るという行為──
  そういった罰はお父様やお兄様に任せた方がいい。
  
 
  私はそのまま手紙を抱えて部屋へと戻った。


「読めなくなるほど破れてはいないみたい……良かった」

  部屋に辿り着くと、真っ先に手紙の無事を確認する。
  かなり破れてしまっているけれど、何とか読む事は出来そうだった。
  それにしても……

  (……あの人は違うわ。ロベリアは……)

  王女様に会った事の無い私がそう断言するのもおかしいけれど、夢で見たからこそ分かる。
  あの行為は、殿下と楽しそうに無邪気に笑い合っていた人のする事じゃない。

  (ジュディス王女は木に登っていた時、自分の行動が王女のする事ではないとちゃんと分かっていたわ)

  なにより、殿下が今でも大切に想うくらい大好きだった人が、あんなにも無神経な人だなんて私自身が思いたくない。

「夢の中でジュディス王女は自分をお転婆だと言っていたけれど、ロベリアのあれは、ただの無神経よ。いえ、それよりも───」

  あれは絶対にわざとだ。
  私を怒らせようとしていたようにしか思えない。
  目的や理由は不明だけれど、見た目が“ジュディス王女”に似ているのだってもしかしたら……

「……あの人はどこの誰で何が目的なの……」


─────


  そんな殿下からの手紙は、ひたすら私を労る事ばかり書かれていた。
  ただ、そんな中にも“会いたい”“顔が見たい”そんな想いが見え隠れしていて、読んでいるだけなのにドキドキしてしまう。

「……いつだって辛くても笑って元気だと口にして、隠そうとするユディットが無理をしていないか、それだけが心配です……って」

  不思議なのだけど、殿下は時々、このようにまるで昔から知り合いのような事を言う。
  この間の甘いものが好きという話もそうだった。
  あれは、お兄様から聞いたと言っていたけれど……

「趣味嗜好はともかく、性格まで詳しい?  となると……うーん……」

  (お兄様から話を聞いただけで?  本当に?  それにしては……どこか細すぎる気がする)

  なんであれ、殿下はこんなにも私の事を心配してくれている。その事だけは確かだ。

「…………バーナード様……私も早くあなたに会いたいです」

  私は手紙を抱きしめながらそう呟いた。



❋❋❋



「お父様、本当?  今日から王宮にまた通ってもいいのね?」
「ああ。あれから頭痛で倒れるということも起きていないし、そろそろいいだろう」

  翌日の朝食の後、お父様が私にそう言った。
  もしかしたら、殿下に会えるかも!
  その事に私が内心で喜んでいるとお父様が言う。

「……殿下もそろそろ限界だそうだ」
「限界、ですか?」
「ああ。ローランが言うにはな……殿下はお前に会えない日が続いて、どんどん荒んでいっているらしい」
「え……荒む?」

  あの優しい人が?
  想像出来ず困ってしまう。

「ローランは、悪魔が悪魔が笑顔で仕事をたんまり持ってくる……って夜に魘されているらしい」

  (お兄様……)

「それから、ロベリアの事だが……」
「は、はい」
「昨日のことだ。ローランから話は聞いた」
「はい……」
 
  そういえば、ロベリア……今朝は朝食の席にいなかった。

「記憶が無いとはいえ、お前にしたという行為は許せるものでは無い。だが、さすがにまだ身元も判明せず、記憶も戻らない状態で放り出すわけにはいかない。とりあえずは、きつく叱りしっかり反省してもらう事にした」
「そうですか……」
「使用人達にはユディットとは顔を合わせる事が無いように配慮しろと言ってあるから、安心してくれていい」
「……ありがとうございます」

  だから、ロベリアは朝食の席にいなかったのね。これで反省してくれるといいのだけど。

  (それに、彼女の事はお兄様が調べている……そのうち何者かは判明するはずよ)

  それまでの辛抱だと思い私は、お父様に頭を下げてお礼を言った。

「いや、お礼はいい。なによりまた、ユディットに倒れられたら大変だ。お前は大事な大事なあ…………」
「お父様?」
「あ…………い、いや、何でもない……コホッ……大事な娘だからな!」
「?」

  咳払いで何かを誤魔化そうとするお父様の様子が少し気になった。


────


  お昼すぎ、ガタガタと揺られながら、私は王宮へと向かう。

  (ようやくお妃教育も再開!  頑張るわ!  なにより……)

  休憩時間……合間を見て私から殿下に会いに行っても許されるかしら?
  どんな顔で迎えてくれる?
  そう考えるだけで胸がドキドキする。

  そうして、馬車が王宮に着いたので私が降りると、すくに後ろから声が聞こえて来た。
 
「────ユディット!」

  (……この声!)

  私は慌てて振り返る。そこに居たのは間違いなくバーナード殿下。

「……殿下!?  どうして、こ……」
「ユディット!」

  駆けて来た殿下が、ギューーーーッと私を抱きしめる。

「会いたかった!」
「……わ、私も、です……」
「会いたくて会いたくて頭がおかしくなるかと思った……」
「殿下……」

  そんなにも想ってくれていたというだけで、胸がキュンとなる。

「具合は本当に大丈夫…………ってごめん。病み上がりなのに!」
「え?  あ……」

  殿下が思い出したようにハッとして身体を離してしまう。
  せっかくの温もりが無くなってしまった事に寂しさを覚える。

「ユディット?」
「そ、その……」
「うん?」
「……」

  自分からもっとギュッとしてください……と言うのが恥ずかしかった私は、自分からえいやっと抱きつくことにした。

「ユ、ユ、ユディット!?」
「……」
「え、何?  これ、なんのご褒美?  ユディットから僕にギュー……じゃなくて抱きつく?  え?  嘘っ……夢!?」


  混乱させてしまったのか……顔を真っ赤にした殿下が早口すぎて、何を言っているのか全く理解出来なかった。
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