【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea

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20. 運命の悪戯

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  歩きながらバーナード様に訊ねた。

「お兄様が、社交界でそんな風に呼ばれていたなんて知りませんでした」

  長い長いベッド生活で社交界に全く顔を出していなかった頃なら知らなくても当然だけど、社交界に出るようになってからのこの一年間、そんな話は聞いた覚えがない。

「ユディットに面と向かって、ローランの事をシスコンだと口にする人がいたらそれはそれで……」
「……あぁ、確かにそれは私に……というより、ノーマンド公爵家に喧嘩売ることになってしまいますものね」
「そういうこと」

  バーナード様が苦笑する。

「でも、ローランがシスコンなのは事実だけどね」
「お兄様……」

  どうか早くお兄様に素敵なお嫁さんを……と願ってしまう。

「大丈夫だと思うよ?  ローランと同じくらい重度なシスコンでもちゃんと結婚出来た人もいるから」
「……!  本当ですか!?」
「うん。しかもそっちは、ローランとは違って妹は病弱でもないのに重度なシスコンだったから、拗らせ具合はそっちの方が酷かった……と僕は思う」
「……拗らせて」
「まぁ、色んな意味で目が離せない妹だったから、色々と心配だったのだとは思うけどね」
「そうなんですね」

  色んな意味で目が離せなくて心配……

  (その妹さんは、じゃじゃ馬か何かなのかしら……?  いえ、暴れ馬……?  それは確かに心配かも)

  そんなシスコンお兄さんの事に思いを馳せていたら、バーナード様が繋いでいる手に力を込めてくる。
  私は顔を上げてバーナード様を見つめ返した。

「バーナード様?」
「そんなシスコン兄の話は置いておいて、今はお祭りを楽しもう?  ほら、今日はせっかくのユディットの初めてのお祭り参加なんだから」
「……はい!」

  私は笑顔で頷いた。


───


「バーナード様!  何だか美味しそうな匂いがあちらから……」
「ユディ……」
「バーナード様!  あちらから甘い香りがします!  あれは絶対、甘くて美味しいに決まってます!」
「ユディット……」

  お祭り期間は、屋台が出て珍しいものや美味しいものが沢山ある。
  そんな話は確かに聞いていた。

  (そ、想像以上だわ!)

  どれもこれも美味しそうで、目を輝かせた私の食欲が大爆発してしまう。
  今日は花祭りのはずなのに、私だけ、一人食欲祭りとなっていた。

「バーナード様!  今度はあちらのお店が……」
「──ユディット!  少し、落ち着こうか?  ね?」

  そう口にしたバーナード様、顔は笑顔だけど少し引き攣っている。

「さすがの僕もこれ以上は持てないよ」
「持て……え?  …………はっ!  す、すみません!」

  私は興奮しすぎてあれもこれもとお店に突撃しては購入し、ついには自分の手で持ちきれず、なんと王子様に荷物持ちをさせるという、とんでもない暴挙を働いていた。

  (は、はしゃぎすぎてしまったわ……)

  私がしゅんっと落ち込んでいると、バーナード様は優しく笑った。

「落ち着いた?  少し休んで、手に持ってるこれらを先に食べようか?」
「はい……」
「それでもまだお腹が空いてたら、ユディットが興味を惹かれそうな他のお店ももう少しまわる。それでいい?」
「はい……」

  (……本当に優しいわ)

  私は手に持っていた肉饅頭を頬張った後、おそるおそる訊ねる。

「バーナード様は、こんな私でも呆れたりしませんか?  やっぱり未来の妃としては……らしくないでしょう?」
「……」

  私はドキドキしながらバーナード様からの返事を待っていたけれど、何故か沈黙されてしまった。

「……あの?」
「……」
「…………バーナード様?」
「───はっ!」

  バーナード様がハッとした様子で私の顔を見た。
 
「ユディット……」
「はい」
「口開けて?」
「……は、い?」

  一瞬、何を要求されたのか分からず、私は言われるがままに口を開けた。
  すると、バーナード様は笑顔で手に持っていたお菓子を私の口の中に入れる。

「……!?」
「最後は甘い物かと思ってね?  ユディット、これ好きだよね?」
「……っ、……!」

  答えたいけれど、飲み込んでからでないと喋れないので声にならない。
  
「す、好きですけど……!」
「だよね、良かった。はい、もう一つどうぞ?」

  どうにか飲み込んで答えたのに、何故かニコニコした嬉しそうな顔でもう一つ勧めてくるバーナード様。

  (くっ……これ、本当に美味しいのよ……!)

  あっさり誘惑に負けた私は、恥ずかしながら口を開けた。

「───僕は、ユディットのそんな嬉しそうな顔を見られるだけで幸せなんだ」
「……は、い?」

  甘いお菓子を堪能し終えた私に向かってバーナード様が言った。

「嬉しい、楽しい、美味しい……どんな事でもいい。君が笑って隣にいてくれるだけで僕は幸せ」
「バーナード様……」
「ユディットの笑顔が好きだ。だから、呆れることなんてない」
「ですが、妃に相応しいかは……」
「それは、他人が決めることじゃない。僕の妃なんだから僕が決める!」

  バーナード様が真剣な瞳で私を見てそう口にした。
  その瞬間、私の脳裏に今よりもずっと幼い顔をしたバーナード様の顔が浮かんだ。

  ───周囲があれこれ言ったとしても関係ないよ。僕が望んでいるのは昔からたった一人、君だよ……

  (───え?  なに、この記憶……)

  どうして───

「───ユディット?  大丈夫?」
「え、は、はい……」

  一瞬、浮かんだ記憶に動揺しつつも、バーナード様の声で現実に戻った。
  バーナード様はそっと私の手を取ると手の甲に軽くキスを落とす。
  そして、熱を孕んだ瞳でじっと私を見て言う。

「──好きだよ」
「わ……」

  その顔と声に胸がキュンとして、
  私も好きです───

  そう答えようとした時、人混みからキャーとか邪魔よ! とかそういった叫び声が聞こえて来た。
  何事かと思ってそちらに視線を向けると、目の前の人混みの中で転んでしまっている女性が見えた。
  その女性は、何とか立ち上がろうとするも、人混みで揉みくちゃにされてしまいうまく立てないようだった。
  このままでは、潰されたり怪我をしてしまいそう!

「バーナード様!  大変です、すぐそこにいる目の前の女性が転んで潰されてしまいそうです!」
「え?」
「助けてきます!」
「え、ちょっと、ユディット……待っ」

  びっくり顔のバーナード様をその場に残して私はその女性の元に駆け出す。

「───大丈夫ですか?  掴まってください」
「え?  ……あ、はい……」

  その女性の元に辿り着いた私は人を避けながら、何とか彼女を立たせようと手を差し出した。

「ありがとうございます……」

  そう言ってその女性が私の手を取った時だった。

  ───パリンッ

  何かが頭の中で割れるような音がした。

  (何、今の音……)

  不思議に思いながらも、その女性の手を取りどうにか立ち上がらせる。
  ざっと身体を見たところ、怪我は無さそうだったので安心した。
  そのまま、私達はわちゃわちゃしている所から抜け出してようやく一息つく。

「あの……ありがとうございました。ちょっと人混みに慣れていなくて……連れと離れてしまったらあっという間に人の流れに巻き込まれてしまいました」
「分かります。すごい人混みですものね」
「はい……こんなにすごい沢山の人が集まるお祭りだったなんて……」

  そう苦笑しながら、その女性はそっと顔を上げた。
  そして、私とばっちり目が合う。
  彼女は私と同じ黒い髪で──……

「…………あ!」
「?」

  私の顔を見たその女性が、目を大きく見開いて何故か固まる。
  もしかして、私がバーナード様の婚約者のユディット・ノーマンドだと分かってしまったのかしら?  と思った。
  でも、それにしてはその人の驚き方はちょっと普通ではなかった。

  (何かしら?  まるで幽霊にでも会ったかのような───)

  そして、その彼女は顔を強ばらせながら口を開き、声を震わせながら私に言った。

「あ、あなたは、まさか………………」
「え?  ごめんなさい、今なんて?」
「どうし……」
「えっと?  もう一度───」

  後半が聞こえなかったので聞き返そうとしたその時。

「ユディー!  そこに居たのか!」
「ユディット!  いきなり走っていったらダメだろう!?」

  (…………ん?)

  慌てた様子のが後ろから聞こえて私は振り向いた。
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