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1. 言い逃げしました
しおりを挟む「そんなに私の事が好きだったなら、もっと早く言って下さい! 今更、遅いです!」
「……!」
その日、私は婚約者でもあるこの国の王太子、ルフェルウス殿下に向かってそう叫んでいた。
殿下は私の発言に驚いたのか、大きく目を見開き言葉を失っているようにも見える。
少し言い過ぎた気がしなくもなかったけれど、私はもう我慢の限界だった。
(この方の本気か嘘か分からない言葉や態度に翻弄されるのはもう疲れたの!)
ずっとよく分からなくて困惑して来た。
それが、私の事が好きだった?
今更そんな事を言われてもそんな簡単に信じられるわけが無いでしょう?
どれだけ私が翻弄されて……心を掻き乱されて……
それに殿下……ルフェルウス様の側には今は……あのピンク色の髪をした令嬢が……
(私は側妃とか愛人は勘弁なの!)
政略結婚でもいいから、せめてたった一人の相手と信頼関係を築いて添い遂げたい。
だから私はこの国で唯一、一夫多妻が認められる王族に嫁ぐのは嫌。
ずっとそう思っていた。
なのに、そんな王族のルフェルウス様はどんどん私の心の中に入って来て……
「……っ! わ、私は身を引きます! どうぞ今度こそ私との婚約は破棄してくださいませ! 私は、やっぱりあなたの婚約者でいる事が辛いのです!」
「!」
「…………さようなら、殿下」
私はそう言って踵を返して扉へと向かう。
「ま、待ってくれ、リスティ……」と部屋を出る瞬間、ルフェルウス様のそんな言葉が聞こえた気がしたけれど、私は振り返らずにそのまま外に駆け出した。
(あぁ、言い逃げしてしまったわ)
今までも何度か“婚約破棄しましょう”とは口にして来たわ。いえ、むしろたくさん口にして来た気がする。
でも、ルフェルウス様はその度に「しない!」の一点張りだった。
けれど……あれはどこか私の気持ちを本気として受け取っていなかったに違いない。
──でも、さすがに今回は私の本気は伝わったはずよ。
きっとこれで本当に今回こそ婚約破棄となる!
王太子殿下との婚約破棄だなんてお父様もお母様も怒り狂うに違いない。
勘当されてもおかしくないわ。
……そうね。
どうせ勘当されるのなら、いっその事私の方から逃げてしまおう。
こうなったら遠くに……
これまでも散々、ルフェルウス様に失礼を働いた上にとうとう婚約破棄となる私には、もうまともに貴族令嬢として生きていく道は残されていないもの。
(……ルフェルウス様、さようなら)
──でも本当は、私もあなたの事を……
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