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2. 王太子殿下の婚約者候補の筆頭の私
しおりを挟む私は、リスティ・マゼランズ。
マゼランズ公爵家の娘。
この国の公爵家の子供の中で唯一の令嬢として、幼い頃からこの国の王子であるルフェルウス殿下の婚約者となるべく育てられて来たと言っても過言では無い私。
「リスティ。お前はいつか王妃になるんだ」
「殿下に相応しいのはリスティ様以外いませんわ」
皆がみんなそう言う。
どうして私?
公爵家の娘だから??
特に両親からの期待は大きく、同年代の子供より厳しく教育されてきた。
私自身が王妃になりたいなんて望んだ事はないのに。
正直に言わせてもらうなら、嫌なのに。
(だって、王族だけ一夫多妻が許されている……)
この国は一夫一妻なのに王族だけは例外。
もちろん、認められているだけで一夫一妻を貫く王や王子もいる。その反面、大勢の側妃や愛人を侍らかしていたとんでもない王も過去には存在していた。
もちろん、王族が例外となる理由も分かっているわ。
分かっているのだけど……
(それでも私は私だけを愛してくれる人がいい……)
でも、私はマゼランズ公爵家の娘だから。公爵家にとって必要な所に嫁がされる。
それも理解している。
そして、分かりきった事だけれど、お父様は王家との縁を昔から強く望んでいた。
そんな私が王太子殿下……ルフェルウス様の婚約者となったのは、今から約1年前。
学園入学前の15歳の時に、侯爵以上の爵位を持つ年頃の令嬢達が王宮に集められてお茶会が開かれた。
その目的は誰が見ても聞いても明らかで……
ルフェルウス殿下の妃候補を集めたお茶会だと分かるものだった。
「いいか、リスティ。これは王太子妃を決める為に設けられた場だ」
「……」
「公爵家の娘はお前だけ! つまり集まった令嬢達の中での一番はお前だ! 他の令嬢には絶対に負けてはならん! 特に、あのオコランド侯爵令嬢にはな!」
「!」
オコランド侯爵家は我が家とは犬猿の仲だ。
とにかく当主同士が仲が悪い。昔、お父様達の間で何かあったらしいのだけれど、詳しい事はよく知らない。
そのせいか、あそこの侯爵令嬢ミュゼット様と私は昔からよく比べられて来た。
私を見る目がいつも敵意むき出しなので、おそらく彼女もそうだと思われる。
そして、彼女が将来の王妃はわたくしよ! と、よく口にしているというのは有名な話だった。
(負けるな……そう言われても困るわ……)
だって、私は出来れば王族には嫁ぎたくないんだもの。
まだ、15歳の私は社交界デビュー前なのでルフェルウス殿下と直接会って話をした事はない。
彼の事は噂でしか知らない。
だから、彼が多くの女性を侍らかすようなとんでもない人かどうかなんて知らない。だから、勝手に決めつけてしまうのは良くないけれど、それでも“王族”というだけで、私の心が拒否を示してしまう。
(それでもこのお茶会を避ける事は許されない……)
そうして、私は渋々そのお茶会に参加した。
*****
(あぁ、帰りたい……)
お茶会が始まってすぐに私はそんな気持ちにさせられた。
何が嫌って、もう参加している令嬢達のギラギラした目付きに私はどうしても着いて行けない。
全員が全員そうでなくても、やはり殿下の妃になりたいと思って集まっている。
(私を見て! アピールが凄いわ)
着飾り方もそうだけれど、お茶会にはそぐわないのでは? と思わず言いたくなる装いや、キツすぎる香水の匂いに頭がクラクラして来た。
せっかくの美味しいお茶もこれでは台無しだ。
(殿下はまだ来ていないし、少しくらい抜けても大丈夫かしら?)
私はそっとお茶会の会場となっている中庭を抜け出し、もう少し奥へと行ってみる事にした。
「んー、すっきり!」
(ここまで来れば、気持ち悪い匂いも気にならなくなるわね)
「あら……?」
庭の奥へ奥へと進んだ私はそこにバラ園のような場所を見つけた。
「こんな奥にバラ園が?」
不思議に思ってそこに近付こうとした時だった。
「誰だ! そこは関係者以外は立ち入り禁止だぞ!!」
「……ひっ!」
後ろから声をかけられてビクッと私の肩が大きく跳ねる。
おそるおそる振り返ると、そこに居たのは金髪碧眼の私とそう歳の変わらないように見える男性。
誰!? そう思ったものの……
(王宮のこんな場所でウロウロ出来る、この年頃の男性と言えば……)
私は一人しか知らない。
───ルフェルウス・シュトラール王太子殿下。その人だ。
私の背中にヒヤリとした冷たいものが流れた気がした。
これが、後に私をこれでもかと溺愛してくる王太子殿下……
ルー様と私、リスティの初めての出会いだった。
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