【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea

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8. そして出会いの時はやって来る

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  寒くなった(気がする)部屋の温度に怯えていたら、沈黙を破ったルフェルウス様が口を開いた。

「リスティ」
「は、はい!」

  石化が解けたルフェルウス様がお茶のカップをソーサーに戻すと、何故かそのまま立ち上がり、私の隣に移動して座り直した。  

  (へ?)

「!?」
「この1年、まさかとは思ったが……」
「??」 

  そう言って身体と顔を私に近付いて来る。

   (近っ!  近いわ、ルフェルウス様!)
   
  驚いた私は慌てて顔を逸らそうとするも、ルフェルウスが手を伸ばし私の両頬を掴んだので嫌でも見つめ合う形となった。
  私の胸がドキッと跳ねる。

「婚約者になったばかりの頃、リスティは私がこうして触れるとドキドキすると言った」
「い、言いました!  もちろん、い、今もそれは変わらない……ので、離してくれません……か!?」

  ルフェルウス様は機嫌が悪くなると、こうしてむやみやたらと近付いて来る傾向にある。だから厄介だと思っている。
  そして、今みたいに抱き寄せたり、髪にキスしたり、頬に触れたり……と接触が増える。その度に私の胸はドキドキし過ぎて大変な事になってしまう。
  これは1年経っても全く慣れない。


「ち、近いです……そして、やっぱり、この距離感は困ります……!」
「!!」

  何故かルフェルウス様の表情が、この世の終わりみたいな絶望したものに変わった。
  そして、青白い顔をしたままフラッと立ち上がる。
  更に足元はヨロヨロしてどこか覚束ない。

「ル、ルフェルウス様?  あの、大丈夫……ですか?」
「……大丈夫、だ。すまないが……私はこのまま部屋に戻る」
「あ、あの……」

  全然、大丈夫そうに見えないのに!?

「……心配はいらない……少しこの1年間の反省……をするだけだ」
「反省……?」
「あぁ、そうだ。今すぐ引きこもりたい……」
「え?  引きこも……」

  そんな訳の分からない事を言いながら、フラフラと扉に向かう。
  
「あぁ、そうだ、リスティ。来週の学園の入学式は、朝、私が迎えに行くので屋敷で待っていてくれ」
「え?  あ、はい。分かり……ました。ありがとうございます」

  そう。
  16歳になると入学出来る学園に、来週から私達は通う事になっている。
  どうやらルフェルウス様は私を迎えに来てくれるみたい。

  (律儀だわ……)
 
「……ではな」

  それだけ言ってルフェルウス様は、まだどこか覚束ない足取りで部屋を出て行った。



「本当に大丈夫なのかしら?」

  部屋を出れば護衛もいるし、部屋に戻れば側近の誰かしらもいるので大丈夫だとは思うけれど。 
  それでも、あの顔色は心配だった。

「それにしても……」

  あの距離感は何!?
  ルフェルウス様は婚約してからずっとあんな感じ。
  基本、距離が近いわね、と思う事ばかりだったけれど、時々……ぐっと近付いてくる時がある。

「ドキドキが止まらないから程々にして欲しいわ……」

  あれが普通なのかルフェルウス様が特別なのか私にはさっぱり分からない。
  でも、学園に入れば色んな人と出会う事になる。
  そうすれば何か分かるかもしれない。

「それに、ルフェルウス様にも新たな出会いがあって……今度こそ“この人だ”って思える人と出会うかもしれない……し」

  ……チクリ

「……?」

  自分で口にした言葉なのに、何故か胸の奥が疼いたような気がした。



  ───もちろん、この時の私はまだ知らない。
  学園に入学してから出会うピンク色の頭の彼女が、私の気持ちや運命を大きく変える事を。





 *****



「おはようございます、ルフェルウス様」
「おはよう、リスティ」

  
  そして、迎えた入学式当日。
  約束通りルフェルウス様は私を迎えに来てくれた。

「リスティ」
「はい」
「……その、何だ……」
「?」

  ルフェルウス様の頬がほんのり赤い。
  どうしたのかしら?  

「……似合っ……ている」
「はい?」
「制服だ……その、制服、よく似合っている!」
「!!」

  ルフェルウス様にこんな事を言われるなんて!
  私は心の底から驚いた。
  社交界デビューがまだの私は、着飾ってルフェルウス様のエスコートを受けて……というような催しに参加したことが無い。
  なので、制服と言えども褒められると……ちょっと嬉しい。 
 
「ありがとうございます!」
「……っ!」

  私が微笑んでお礼を言うと、ルフェルウス様のほんのりだった頬の赤みが増した気がした。

「い、行くぞ!」
「はい!」

  照れ隠しなのか、ルフェルウス様の声がいつもよりぶっきらぼうにも感じられて私はふふっと小さく笑った。





「え?  新入生代表の挨拶?」
「そうだ。王族の人間が入学する際は頼まれるらしい。こういう時は本当に王族は面倒だ……」

  学園に着いて馬車から降りるなり、何故かルフェルウス様は会場と違う方へと向かおうとしたので不思議に思っていたら、新入生代表の挨拶とやらがあるらしい。
  式の前にその原稿の確認があるのだと言う。

「だから、少し早めの時間だったのですね」
「すまないな。私に付き合わせて」
「いいえ、大丈夫ですよ」

  なんて会話を二人でしながら、校舎内を歩いている時だった。

「……きゃっ!」
「うわっ!?」

  ルフェルウス様が出会い頭に誰かとぶつかってしまったようだった。

「す、すまない……」
「い、いえ、こちらこそ……申し訳ございませんー……」

  とても可愛いらしい声の持ち主だった。
   
  (なんて可愛い声……そして、珍しい髪色だわ)
  


  そう。
  たった今、ルフェルウス様がぶつかってしまった相手こそが、

  ピンク色の髪を持った、エレッセ・ファンファ男爵令嬢。


  これが、ピンク色の彼女とルフェルウス様の出会いだった───……


 
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