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9. ピンク色の髪をした令嬢は
しおりを挟む「大丈夫か?」
ルフェルウス様がぶつかってしまった彼女に手を差し出す。
「は、はい……私ったらつい焦って慌てちゃって」
「いや、こちらこそ申し訳ない」
ルフェルウス様とぶつかってしまったその令嬢は声も可愛かったけれど、顔立ちも凄く可愛いらしい人で、フワフワのピンク色の髪はとても彼女に似合っていた。
(どちらかと言うと冷たく見られがちな私とはまるで真逆……)
向かい合って会話をしている、ルフェルウス様と彼女がとてもお似合いに見えてしまって私の胸の奥がチクリとした。
「慌てていた?」
「はい……情けない事に入学式の会場の場所がよく分からなくて迷子になってしまいました!」
えへへ、と笑う彼女はどうやら物怖じしない性格に思えた。
いや、その笑い方は……どうなのかしら?
「入学式の開始まではまだ時間はあるが?」
「ですよね! つい焦っちゃいましたぁ!」
ピンクの令嬢は可愛らしい笑顔を見せながらそう言った。
(変な言い方だけれど、喋り方も雰囲気もあまり貴族令嬢らしくない気がするわ)
ルフェルウス様の事も分かっていなさそうな様子だし……どこの令嬢なのかしら?
こんな珍しい髪色ならある程度有名になりそうなものなのに……特に話題に上った事は無い。
何とも不思議な令嬢。
そんな気持ちを抱いた。
「迷子……そうか。なら、会場までは私の付き添いに案内させよう」
「え? 付き添い?」
ピンクの令嬢が驚いている。
学園の中でまで付き添いがいる人なんて限られているものね。
「そうだ。私の付き添いだ。マース、いるか?」
「は!」
側に控えていたルフェルウス様の側近の一人、マース様が進み出てきた。
「申し訳ないが、こちらの令嬢を入学式の会場まで案内してやってくれ。学園内の事はお前が一番詳しいだろう?」
「承知しました」
マース様はこの学園の卒業生なので、確かに詳しいはずだわと納得する。
ところが……
「えぇ? 私と一緒に会場に行ってくれないのですか??」
ピンクの令嬢はルフェルウス様の制服の裾をちょいちょいと掴み、上目遣いでルフェルウス様を見つめながらそんな事を言った。
「私がか?」
「はい! そうですよ」
ルフェルウス様は砕けた口調で話しかけられても不敬だ! なんて怒り出したり咎めたりする事はしないけれど、彼女の口調はさすがにそれはどうなの? ……と言いたくなる。
(何だか見ているこっちがハラハラする……)
「申し訳ないけど、私には用事があるんだ」
「えぇ? そうなんですかぁ……ざーんねん」
「その代わりと言ってはなんだが、マースがしっかり案内してくれるからそこは安心してくれ」
「……」
ピンクの令嬢はチラッとマース様を見た。
そして、すぐに満面の笑みを浮かべると明るい声で言った。
「えっと、マース……さん? それではよろしくお願いしますねっ!」
そして、突然マース様の腕にギュッと抱き着いた。
ピンクの令嬢の大胆とも言えるその行動にマース様がたじろぐ。
「!? あ、あの……」
「どうかしましたか??」
「い、いえ……」
「そうですか? それでは、マースさん。よろしくお願いしまーす」
「は、はぁ……ではこっちです……」
そう言ってピンクの令嬢とマース様は入学式の会場に向かって行った。
二人の姿が見えなくなった所で私はふぅ、と息を吐く。
「……」
何だか印象が凄すぎて言葉が出ないわ。
「リスティ? どうした?」
「いえ、少し変わった方でしたわ、と思いまして」
私の言葉にルフェルウス様もしばし考え込む。
「確かに……な。あの様子から私が誰かも分かっていなかった気がする」
「ですよね」
ルフェルウス様自身、これまでの間それほど人前に多く出て来たわけではない。
だから、顔が分からないと言うのは、よくある話。
私だってあの日のお茶会が初対面だったし、ミュゼット様があんな風になったのも、ルフェルウス様を間近で見た事による動揺と一応本人も言っていた。
(でも、何となく雰囲気で察するものと思うけれど……)
ルフェルウス様は全身で王子様な雰囲気を出していて、隠す事が出来ていない。
そんな彼も二人が去っていった方向を見ながら小さく呟いた。
「なんと言うか……あぁいう令嬢……なんてのもいるものなんだな」
「……!」
ルフェルウス様からすれば、それは何気ない一言だったのかもしれない。
だけど……何故かしら?
その時、私の胸の中で何かがざわめいた気がした。
*****
「入学式、無事に終わって良かったですね」
「あぁ」
無事に入学式も終わり、私達は教室へと向かう。
特に問題なども起きずに終わったはずなのに、何故かルフェルウスの機嫌がどこか悪い。
「ルフェルウス様、どうかしました?」
「……」
(機嫌が悪いと言うより……どこか拗ねている?)
「何で…………だ」
「?」
よく聞こえなかったわ。
「ルフェルウス様? 今なん……」
「どうして、リスティとクラスが違うんだ!!」
「はい?」
思ってもみなかった言葉にびっくりしてしまった。
「てっきりリスティと机を並べて勉強出来ると……ばかり……」
「えっと……」
困ったわ。何て言葉を返したらいいのか……
私と勉強したかったのですか? ……何かが違う気がする。
「が、学園側も色々考えているんですよ!」
「……」
「でも、ほら! 高位貴族ばかりで固まってしまうのも良くないですし。交流は多い方がいいですよ、ね?」
何故、私は子供に言い聞かすような事を言っているのかしら?
と思いながらも、私はルフェルウス様を宥めた。
「……リスティは」
「はい?」
「さみしくない……のか? 私と離れて」
「え?」
さみしい? ルフェルウス様とクラスが違ってしまって?
「そうですね。さみしく……はありますけど、新しい出会いの方が楽しみではありますね!」
(だって私、友達と呼べるほど仲の良い令嬢がいないんだもの)
と、思った私は、そんな素直な気持ちを口にしたのだけど、
「…………」
「え? ルフェルウス様??」
何故かルフェルウス様の顔色はどんどん悪くなっていった。
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