【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea

文字の大きさ
10 / 37

閑話 (ルフェルウス視点)

しおりを挟む


  ──そうですね。さみしく……はありますけど、新しい出会いの方が楽しみではありますね!

  リスティのその言葉を聞いた時、
  彼女のその気持ちが分かると同時に、
  あぁ、やっぱり私の気持ちは微塵も欠片も伝わっていないのだと実感させられた。


  リスティ・マゼランズ公爵令嬢。
  彼女は私、ルフェルウスの婚約者だ。

  マゼランズ公爵家の令嬢の話は会った事はなくとも話だけは聞いていた。
  現存する公爵家の中で唯一、令嬢のいる家だ。しかも、おあつらえ向きに私と彼女は歳も同じ。必然と周りの目は……そうなる。

  (自分の結婚が政略結婚となるのは仕方ないと分かってはいる。それでも、私は“この人だ”と思える令嬢をせめて選びたい……)

  そんな思いから、長年のらりくらりと決めるのを躱し続けた婚約者という存在。
  だが、そうも言っていられなくなった。

  そうして、開かれたあのお茶会。
  あの場に集めていたのが侯爵家以上の家柄の令嬢達だった所から、なるべく高位貴族の令嬢を……と言う周囲の魂胆が見え見えだ。
  だが、あの場で決めるつもりは無かった。
  適当な事を言って引き延ばすつもりだった。

  でも。
  リスティに出会った。出会ってしまった。
  何故かあんな普段なら人が入り込まないような奥庭まで入り込んでいた彼女。

   (あのバラ園には誰も立ち入りさせたくない)

  だから、咎めるように声をかけた。


  そうして、少し話をした彼女は──


 
  ──顔を合わせる事も無いまま、この方が婚約者です、と勝手に決められてしまうよりはよっぽどいいと思うのですけれど……

  リスティからこの言葉を聞いた時、彼女も“同じ”なんだと思った。
  好きになった人と結ばれたい。
  そんな夢をとうに諦めているかのような……

   (公爵家の令嬢だからな……きっと私の妃にと望まれて育てられて来たのだろうな)
 
  ──案外、お話してみてたら“この人だ”と思える方に出会えるかもしれないですわよ

  素直にそうだな、と思えた。
  そして、もうすでにこの時、私の中では何かが芽生えようとしていた。
  それを更に芽吹かせたのがリスティの笑顔だった。

  一見、冷たく見えがちな顔立ちのリスティが見せる笑顔。

  (……可愛っ)

  思わずそんな言葉が口から飛び出しそうになった。
  もし、自分が誰かを好きになる時は、相手の事を知りゆっくりと気持ちを育てていくものだとばかり思っていたのに。

  リスティは、あの笑顔だけで私の心に一気に入り込んで来た。

  だから、彼女を望んだのに。


  ──“この人だ”と思える方は、まだ、見つからないのですか?

  ──私は殿下がそんな相手を見つけるまでの繋ぎのような婚約者だと思っていたのですが……

  ──いつ、婚約破棄されてもいいという覚悟で過ごして来ましたのに


  自分が口下手なのは分かっていた。
  初めて抱いた気持ちに戸惑い、どう口にしたら良いのか分からなかったからだ。

  あと、不思議とどうにか気持ちを伝えようとすると邪魔が入る気がするんだが。
  あれは何かの呪いか?
  口にするな!  という警告なのか!?

  (リスティ……)

  彼女はこの1年で色んな顔を見せてくれるようになった。
  惚れたきっかけはあの可愛い笑顔だったと思うが、今は何をしていても可愛いく見えて仕方ない。

  だが、まさか自分がこんなにまで相手にされていないとは思っていなかった。
  私に触れられて顔を赤くしながらドキドキすると言いながら……これか。
  これなのか。
   
  (もっと、私を意識して欲しい……)
 
「リスティ。私が望む“この人”は君だ!  側妃も愛人もいらない!  欲しいのは君だけだ!!  …………はぁ、本人のいない所ではいくらでも口に出来るのにな」

  リスティは私の婚約者だ。
  このまま何も問題が起きなければ、彼女は私の妃となるのは決定事項だ。
  お妃教育もさすがです。問題ありません!  
  と、どの教師も太鼓判を捺している。リスティが外される事は有り得ない。

  リスティ以外に相応しい人などいない。
  家柄?  そんなものはどうでもいい。何より私自身がリスティを欲している。それだけだ。

  (なのに、この不安は何なんだ?)

  ──まるで、リスティが私の元を離れどこかに行ってしまうような……そんな感覚。

「恋心とは厄介なものだな……」

  思わずそんな言葉が口から出る。

「あぁ、恋心と言えば……」

  あの珍しいピンク色の髪をした令嬢……
  私と同じクラスになったピンクの彼女は男爵令嬢だったのだが、入学式会場まで案内させたマースが戻ってきた時、少し様子がおかしかった。

  (可愛らしい子でした……なんて言っていたが……あれは案外マースも淡い恋心を……)



  ──なんて呑気な事を考えていたこの時の私は知らない。



  リスティに対して気持ちを素直に口に出来なかった事から生まれる誤解と、今後のピンクの令嬢が私達に何をしてくるのかも。

  この先、涙が出そうになるくらいリスティから“婚約破棄して下さい”と言われるはめになる事も、だ。



  そして、何よりそんな私の最愛のリスティは……



  ───この時の私は、まだ何も知らない。

しおりを挟む
感想 250

あなたにおすすめの小説

【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜

桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」 私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。 私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。 王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした… そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。 平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか? なので離縁させていただけませんか? 旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。 *小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

[異世界恋愛短編集]お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?

石河 翠
恋愛
公爵令嬢レイラは、王太子の婚約者である。しかし王太子は男爵令嬢にうつつをぬかして、彼女のことを「悪役令嬢」と敵視する。さらに妃教育という名目で離宮に幽閉されてしまった。 面倒な仕事を王太子から押し付けられたレイラは、やがて王族をはじめとする国の要人たちから誰にも言えない愚痴や秘密を打ち明けられるようになる。 そんなレイラの唯一の楽しみは、離宮の庭にある東屋でお茶をすること。ある時からお茶の時間に雨が降ると、顔馴染みの文官が雨宿りにやってくるようになって……。 どんな理不尽にも静かに耐えていたヒロインと、そんなヒロインの笑顔を見るためならどんな努力も惜しまないヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 「お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?」、その他5篇の異世界恋愛短編集です。 この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:32749945)をおかりしております。

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

【完結】イアンとオリエの恋   ずっと貴方が好きでした。 

たろ
恋愛
この話は 【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。 イアンとオリエの恋の話の続きです。 【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。 二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。 悩みながらもまた二人は………

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね

さこの
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。 私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。 全17話です。 執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ​ ̇ ) ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+* 2021/10/04

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

処理中です...