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閑話 (ルフェルウス視点)
しおりを挟む──そうですね。さみしく……はありますけど、新しい出会いの方が楽しみではありますね!
リスティのその言葉を聞いた時、
彼女のその気持ちが分かると同時に、
あぁ、やっぱり私の気持ちは微塵も欠片も伝わっていないのだと実感させられた。
リスティ・マゼランズ公爵令嬢。
彼女は私、ルフェルウスの婚約者だ。
マゼランズ公爵家の令嬢の話は会った事はなくとも話だけは聞いていた。
現存する公爵家の中で唯一、令嬢のいる家だ。しかも、おあつらえ向きに私と彼女は歳も同じ。必然と周りの目は……そうなる。
(自分の結婚が政略結婚となるのは仕方ないと分かってはいる。それでも、私は“この人だ”と思える令嬢をせめて選びたい……)
そんな思いから、長年のらりくらりと決めるのを躱し続けた婚約者という存在。
だが、そうも言っていられなくなった。
そうして、開かれたあのお茶会。
あの場に集めていたのが侯爵家以上の家柄の令嬢達だった所から、なるべく高位貴族の令嬢を……と言う周囲の魂胆が見え見えだ。
だが、あの場で決めるつもりは無かった。
適当な事を言って引き延ばすつもりだった。
でも。
リスティに出会った。出会ってしまった。
何故かあんな普段なら人が入り込まないような奥庭まで入り込んでいた彼女。
(あのバラ園には誰も立ち入りさせたくない)
だから、咎めるように声をかけた。
そうして、少し話をした彼女は──
──顔を合わせる事も無いまま、この方が婚約者です、と勝手に決められてしまうよりはよっぽどいいと思うのですけれど……
リスティからこの言葉を聞いた時、彼女も“同じ”なんだと思った。
好きになった人と結ばれたい。
そんな夢をとうに諦めているかのような……
(公爵家の令嬢だからな……きっと私の妃にと望まれて育てられて来たのだろうな)
──案外、お話してみてたら“この人だ”と思える方に出会えるかもしれないですわよ
素直にそうだな、と思えた。
そして、もうすでにこの時、私の中では何かが芽生えようとしていた。
それを更に芽吹かせたのがリスティの笑顔だった。
一見、冷たく見えがちな顔立ちのリスティが見せる笑顔。
(……可愛っ)
思わずそんな言葉が口から飛び出しそうになった。
もし、自分が誰かを好きになる時は、相手の事を知りゆっくりと気持ちを育てていくものだとばかり思っていたのに。
リスティは、あの笑顔だけで私の心に一気に入り込んで来た。
だから、彼女を望んだのに。
──“この人だ”と思える方は、まだ、見つからないのですか?
──私は殿下がそんな相手を見つけるまでの繋ぎのような婚約者だと思っていたのですが……
──いつ、婚約破棄されてもいいという覚悟で過ごして来ましたのに
自分が口下手なのは分かっていた。
初めて抱いた気持ちに戸惑い、どう口にしたら良いのか分からなかったからだ。
あと、不思議とどうにか気持ちを伝えようとすると邪魔が入る気がするんだが。
あれは何かの呪いか?
口にするな! という警告なのか!?
(リスティ……)
彼女はこの1年で色んな顔を見せてくれるようになった。
惚れたきっかけはあの可愛い笑顔だったと思うが、今は何をしていても可愛いく見えて仕方ない。
だが、まさか自分がこんなにまで相手にされていないとは思っていなかった。
私に触れられて顔を赤くしながらドキドキすると言いながら……これか。
これなのか。
(もっと、私を意識して欲しい……)
「リスティ。私が望む“この人”は君だ! 側妃も愛人もいらない! 欲しいのは君だけだ!! …………はぁ、本人のいない所ではいくらでも口に出来るのにな」
リスティは私の婚約者だ。
このまま何も問題が起きなければ、彼女は私の妃となるのは決定事項だ。
お妃教育もさすがです。問題ありません!
と、どの教師も太鼓判を捺している。リスティが外される事は有り得ない。
リスティ以外に相応しい人などいない。
家柄? そんなものはどうでもいい。何より私自身がリスティを欲している。それだけだ。
(なのに、この不安は何なんだ?)
──まるで、リスティが私の元を離れどこかに行ってしまうような……そんな感覚。
「恋心とは厄介なものだな……」
思わずそんな言葉が口から出る。
「あぁ、恋心と言えば……」
あの珍しいピンク色の髪をした令嬢……
私と同じクラスになったピンクの彼女は男爵令嬢だったのだが、入学式会場まで案内させたマースが戻ってきた時、少し様子がおかしかった。
(可愛らしい子でした……なんて言っていたが……あれは案外マースも淡い恋心を……)
──なんて呑気な事を考えていたこの時の私は知らない。
リスティに対して気持ちを素直に口に出来なかった事から生まれる誤解と、今後のピンクの令嬢が私達に何をしてくるのかも。
この先、涙が出そうになるくらいリスティから“婚約破棄して下さい”と言われるはめになる事も、だ。
そして、何よりそんな私の最愛のリスティは……
───この時の私は、まだ何も知らない。
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