【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea

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11. 忍び寄る不穏な足音

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「……リスティ」

  抱きしめられてドキドキしていると、ルフェルウス様が私の耳元で囁く。

  (そ、そこで喋らないで!!)
  
  そう言いたくなってしまう。

「リスティ。どこまでなら……許される?」
「……はい?」

  ルフェルウス様から問われた質問の意味が分からず心の中で首を傾げた。

「……どこまでならリスティに、触れても……許されるだろうか?」
「え?  え??」

  そんな質問をしているくせに、さっきより私の事を抱きしめる力が強くなった気がする。

「こうして抱きしめるのは?」
「い、嫌ではないです……」

  心臓が凄い事になりますけど!

「なら、こうして髪にキスをするのは?」

  そう言って私の髪を手に取り掬うと、そこにそっとキスをした。
  ちょっ……

「は、恥ずかしいですが……嫌では……ない、です」
「そうか。なら、これは」

  そう言ったルフェルウス様が今度は私の前髪をかきあげると、そのまま額にキスを落とす。

「!?!?」
「……嫌か?」
「い、嫌とか……そういう事……では、なく……!」 

  何これ、何これ、何これ!?
  心臓が口から飛び出しそう!  私、今、絶対に顔が真っ赤だわ。
  目にも涙が浮かんで来て、ルフェルウス様を見上げた。

「っっ!  ……リスティ……そ、その顔は……ダメだ」
「?」

  ルフェルウス様が何故か困惑している。
  何がダメなの?

「リスティ……どうか、私に君のここに触れる許可を……」
「え……」

  そう言って、ルフェルウス様の指が私の唇に触れる。

「!?」

  バックン! 
  今までに無いくらい心臓が大きく跳ねた。

「こ、こここここって……」
「決まってる。リスティのここだ」
「も、もももう、ゆ、ゆゆゆ指で……触れています、よ?」

  動揺している私がおかしいのかルフェルウス様はふっと優しく笑った。

「指で、なわけないだろう?  ここに触れるのはもちろんー…………」
「あ……」

  そう言ってルフェルウス様の顔が近づいて来る。
  互いの吐息が感じられるくらいまで近付き、あと少しで私達の唇がー……

  って所で、ガタンッと馬車が止まった。

「……」
「……」

  同時にルフェルウス様の動きも止まり、私達はしばらく無言で見つめ合った。

「……っ!  ち、近いですっ!!」
「ご、ごめん……」

  我に返った私がとんでもない近さに慌てて離れようとすると、ルフェルウス様も慌てて私から離れる。

  (わ、私ったら何をやって……!)

  あのまま馬車が止まらなければ、絶対にキス……していたわ。
  さっきまでの距離の近さを思い出すと、ますます頬が熱を持つ。

  ……逃げようと思えば逃げられたのに。
  近付いて来るルフェルウス様の顔を避けようなんて微塵も思わなかった。

  (私ったらどうしてしまったの?)

  そんな事をぐるぐる考えていた私にルフェルウス様が不審そうに言った。

「まだ、王宮に着いていないようなんだが……何故止まったのだろう?」
「え?  そう、なのですか?」
「あぁ」

  てっきり到着したものだとばかり。
  でも、言われてみれば早すぎる。学園を出てからまだそんなに経っていないかもしれないと思い直した。

「殿下、すみません。少しよろしいでしょうか?」
「何だ?  何があった?」
「それがー……」

  外からノックと共に馭者が声をかけて来たので、ルフェルウス様が話を聞きに行く為に外に出て行こうとする。

「リスティ。すぐ戻るから待っていてくれ」
「はい……」

  (その間にこの頬の熱を冷ましてしまおう)



「……どうして私は嫌だと思わなかったのかしら?」

  自問自答してみるも、答えは出ない。
  それに、ルフェルウス様は何であんな事を……
  そこで、私はハッと気付く。

「そうよ……どうして気付かなかったの?  王子様と言えども、ルフェルウス様だってお年頃の男性!」

  えっと、我が家のメイド達の会話の盗み聞きなので詳しくはよく分からないけれど、お年頃の男性は、ムラムラ……?  する時があると話していたわ。
  そういう時は愛が無くても身近な所にいる女性に手を出したくなるものだ、と!

  (あぁ、そういう事……)

  ルフェルウス様はムラムラしていて、私が側に、近くにいたから……だからあんな事を。

「私の事を好きだから、とか愛があったから、とかじゃないのよ、ね」

  私は小さな声でそう呟いた。
  またしても胸の奥がチクリと痛んだ気がした。


  ───私は知らない。知らなかった。
  この我が家のメイド達の偏見とも思える会話が、恋人にメイドが他のメイド仲間に愚痴を言っていた時の話だという事を。
  なので世の中の男性の全てに当てはまる話では無かったという事を──……







「お待たせ、リスティ。ごめん」
「ルフェルウス様?」

  ようやく、ルフェルウス様が戻って来られた。

「何があったのですか?」
「……あぁ、実はどうも馬車の前に人……が飛び出した、そうなんだ」
「人が!?」

  なんて事!  もし、轢いてしまっていたら大事だわ。
  私は真っ青になる。

「その方は……ぶ、無事なのですか?  け、怪我は……」
「轢いてはいない。すんでのところで避けられたから。でも……」
「もしかして、その方がどこかに怪我を?」
「……」

  ルフェルウス様が神妙な顔で静かに頷く。

「命に関わるような怪我では無いが、転んだ際に顔やら腕やら身体に怪我をしているようなんだ」
「それでは早くお医者様に見せないと!」
「あぁ、だからここからなら王宮に連れて行って医者に手当をさせた方が早いとは思うんだが……」
「ルフェルウス様?」

  いったい、彼は何を躊躇っているのかしら?
  相手は怪我人でしょう?

「殿下~、まだですかぁ?  私、痛くて痛くてぇ」

  と、ちょうどその時、馬車の入口に居たルフェルウス様の横から声をかけてきたのは……

「……ファンファ男爵令嬢、ちゃんと君を医者には診せるから少し待っていてくれ。今、リスティに説明しているところだ」
「えぇ?  でも、私、すごーく痛くてぇ。もう泣きそうですぅー」



  ──エレッセ・ファンファ男爵令嬢、その人だった。


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