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14. 縦ロールとピンク頭の戦い~再び~
しおりを挟む翌日──
「オーホッホッホ! なんてお顔なのかしら? せっかくのそのお顔が台無しね!」
「せっかくのそのお顔……あぁ、可愛いと言って下さりありがとうございますぅ! やっぱり私は誰が見ても可愛いんですね!」
「な、何ですって!? わたくしはそんな事は一言も言ってなくてよ!!」
ぶぉん……
今日もミュゼット様の動きに合わせて縦ロールが宙を舞う。
「きゃあ、やめて下さい~これ以上、怪我はしたくないですからぁ」
「怪我? 何の事ですの? わたくしはまだ何もしていないでしょう!?」
「え!」
ミュゼット様のその言葉にエレッセ様が絶句していた。
どうやらミュゼット様は自分の縦ロールがどれだけ危ないものか認識していなかったらしい。
まさかの無自覚……
(だから平気な顔をして、いつもぶぉん、ぶぉんと振り回していたのね)
今日も今日とて、縦ロール 対 ピンク頭の戦いが勃発していた。
休み時間ごとにいがみ合っている声が教室から聞こえて来るので、ずっと気になっていた。
そして、お昼休みになり、こっそり覗きに来たのだけれど……
本日はいつもよりもこの行為がかなり白熱しているようだった。
それもそのはず。その理由は……
(ルフェルウス様がお休みだから)
今日の彼は外せない公務があるらしく学園を欠席している。
私としては昨日の今日で正直、どんな顔でルフェルウス様に会えば良かったのか分からなかったので、内心ホッとしてしまった。
(なんてずっと避け続けるわけにはいかないけれど……)
とにかく、私の気まずい気持ちはともかく、いつもなら「いい加減にしろ」と、止めに入っていたルフェルウス様が不在。
そうなるとこの二人を止められる人間はそうはいない。
困った事に教師も……来る様子がない。
(教師もミュゼット様のオコランド侯爵家を敵に回したくはないので強く言えずにいるみたいなのよね)
私ならオコランド侯爵家よりも家柄は上だけど、だからと言って私が止めに入るわけにもいかない。
ルフェルウス様を巡っての争いなのだから、今の所は巻き込まれていなくても本来、二人にとって一番邪魔な存在なのは私だからもっと酷い事が起きるのは目に見えている。
と言ってもこのまま放置するのもいい加減迷惑……
そう思った時だった。
「はいはい、二人共。そこまでにしないと殿下に報告だよ~?」
そこまでも何もすでにとっくに報告案件だろうと誰もが思う中、一人の人物がどこか呑気な声を出しながら二人の間に入って行く。
「……まぁ、ミッチェル様。何ですの? 邪魔しないで下さいな」
「ミッチェル様! 聞いて下さいぃー、ミュゼット様が怖いんですぅ」
二人の間に入っていったのはルフェルウス様の側近の一人、ミッチェル様だった。
彼は私達と同じ歳。
私達と一緒に今年学園に入学した令息で、当然の事ながらルフェルウス様と同じクラスで授業を受けている。
(おそらく、学園内のルフェルウス様の護衛も兼ねているのよね)
どうやらルフェルウス様はお休みだけれど、彼だけは学園に来ていたらしい。
そんな彼なら、この二人の争いを止めに入るのには最適な人物……公平にこの争いを止めてくれる!
誰もがそう思ったのだけど……
「オコランド侯爵令嬢……エレッセ嬢が泣いているじゃないか。可哀想に……」
「はい?」
「毎回毎回、君達のいがみ合いを見ていて思っていたんだけど、君は醜い嫉妬でエレッセ嬢を虐めているだけだよね?」
「え?」
何故かミッチェル様がミュゼット様を糾弾し始める。
さすがのミュゼット様もびっくり。
そして、私も含めた野次馬もびっくり。
「わ、わたくしは、そんなつもりでは……! ただ、エレッセ様の行動がいつも」
「ん~……だから、それがエレッセ嬢が可愛いから嫉妬してるんでしょ? 見苦しいと思うな~」
「ミッチェル様ぁ……!」
目に涙を浮かべてプルプル震えていたエレッセ様が感激の声を出して、えーんとミッチェル様に泣きついた。
一方、ミュゼット様は怒りで顔がカッと赤くなる。
「その顔は図星かな~? そんな様子だから、君は殿下に選ばれなかったんじゃないかな?」
「っっ!!」
ミュゼット様がショックを受けて固まっている。
縦ロールも心なしか勢いがなくなってしまっていた。
(こ、これはどういう事……)
止めに入った猛者だと思ったミッチェル様は明らかにエレッセ様の味方をしている。
(個人の気持ちがどうであれ、ここは公平に場をおさめる所でしょう?)
なのに、何故ここで彼はエレッセ様の味方を……?
殿下の側近であるミッチェル様が、エレッセ様の味方をする。
この事が周囲にどんな憶測を呼ぶ事になるのか、彼が分からないはずないのに!
…………何だかとてもとても嫌な予感がした。
「で、ですが殿下に選ばれていないという意味では、エレッセ様も同じでしょう!? 今現在、で、殿下の婚約者は別……にいるのですから!」
どうにか気を取り直した、ミュゼット様が反撃を繰り出す。
ドキッ
名指しこそされていないものの、自分の事を言われてドキッとした。
「うふふ、それですか? 大丈夫ですよ~。殿下は最終的には私を選んでくれますから!」
「はぁ? 何をエレッセ様、あなたその怪我を負った際に頭でもぶつけて、ますますおかしくなったのではなくて?」
勢いを取り戻した縦ロールがぶぉんと揺れる。
「きゃぁ! そんな言い方酷いですぅ……頭はぶつけてないもーん」
エレッセ様がそう口にしながら、ミッチェル様に抱き着く。
ミッチェル様はそんな彼女を優しく受け止めながら言った。
「そうだよ、オコランド侯爵令嬢。そして君のそれは本当に危険だね」
「それ……?」
相変わらず無自覚のミュゼット様は首を傾げるも、
「頭をぶつけていないと仰るのなら、とんだ妄想癖なのですわね、エレッセ様は!」
と、自分の事を棚に上げてそんな事を言い出した。
もはや、どっちもどっち……
そんな空気が流れ始めたのだけど、エレッセ様はニッコリ笑うと自信満々に言った。
「妄想なんかじゃないですよ~。殿下は私を選ぶしかなくなるんですから~」
その言葉に私の胸がチクリと痛んだ。
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