【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea

文字の大きさ
16 / 37

15. 動揺しました

しおりを挟む


「……?  どういう意味ですの?」

  ミュゼット様がエレッセ様を睨むけれど、肝心のエレッセ様はどこ吹く風状態。

「えー?  そのまんまの意味ですよぉ。殿下はもう私を選ぶしかないんですから~」
「……あなた、本当に頭がどうかしたのではなくて?」
「ひどーい。私は正常ですよ?  事実を述べているだけですから…………ね?」

  にっこり笑ったエレッセ様と私の目が合った。

「!」

  多分、周りは気付いていないけれど、今の「ね?」は私に向けたものだ。

「早く殿下にお会いしたかったのに、会えなくて残念だわ~」
「あぁ、殿下は今日はどうしても外せない公務があるからね、仕方ないよ」

  不満を口にするエレッセ様をミッチェル様が優しく宥めた。

「そういえば、今朝会った時の殿下、どこか元気が無かったからきっとエレッセ嬢の怪我を心配していたんじゃないかな~」
「きゃは!  そうなの?  ふふ、殿下ったら優しいのね!」

  ミッチェル様のその言葉が嬉しかったのか弾んだ声を出すエレッセ様。

「そうだね~。それに、殿下は──……」

  (もうこれ以上聞きたくない!)

  これ以上、二人の会話を聞いていると、自分の中の黒い気持ちが湧き上がって来そうなので、私はその場から離れる事にした。

「……やっぱり頭がおかしいとしか思えませんわ。どうして殿下が、たかが男爵令嬢の怪我を心配すると言うのよ……有り得ませんわ」

  ミュゼット様もこれ以上は何かを言う気力が無くなったのか、呆れた顔をしてそう呟いた後はそのまま席へと戻っていった。
  そうして、野次馬も解散する。


  今日の戦いを切っ掛けに、
  縦ロール  対  ピンク頭
  この戦いはミッチェル様がエレッセ様に肩入れした事により、ピンク頭が優勢のようだ──そんな噂が学園内に徐々に広がり始めていく───




*****



「リスティ」

  昨日の講義の振替が本日だったので、放課後王宮を訪ねると、今日も今日とて休憩時間にルフェルウス様が私の元へとやって来た。

「ル、ルフェルウス様!?」
「リスティが来ていると聞いて飛んで来た」
「お、お忙しいのでは無かったのですか?」

  ルフェルウス様は私の隣に腰を下ろすと、そのまま私をそっと抱き寄せる。

「ルフェ……」
「リスティの顔を見ないとやる気が出ないんだよ」
「えぇ……?」

  何やらダメ王子のような事を言い出した。
 
「だからさ、リスティ。お願いだ。私の側にいて欲しい。これからもずっと」 
「ずっと……ですか?」
「そう。ずっと」
「!!」

  その言葉と共にルフェルウス様の私を抱き寄せる腕にぐっと力が入る。
  自分の頬に熱が集まっていくのが分かる。

  (な、何、それ……)

  そして、動揺した私は何故かおかしな言葉を口走ってしまう。

「そ、それはあれ、ですよね?」
「あれ?」
「ルフェルウス様は、その……お年頃なのでたまにムラムラ……しますよね?」
「は?  厶、ムラムラ?」

  何だそれ?  って顔をするルフェルウス様。

「その欲を解消するためにも、名ばかりの婚約者で都合の良い私を側に置いておきたいのですよね?」
「は?  ちょっと待てリスティ!  何だその理論!」

  ルフェルウス様が、ガバッと勢いよく身体を離すと私の両肩を掴みまじまじと私の顔を見る。
  驚きと心配が混ざったような表情だった。

「リスティ、どうしたんだ?  突然何を言い出したんだ?」
「え?  違うのですか?  ルフェルウス様はムラムラはしないのですか?」
「違う!  そしてムラムラ……は……コホッ」

  何故かムラムラに言葉を詰まらせるルフェルウス様。
  なんなら顔も赤いわ。

「誰だ!  リスティにおかしな事を吹き込んだのはっ!!  とにかく違う!  断じて違う!  私がリスティに側にいてくれと言ったのはそういう意味では無い!  なぜなら私はリスティの事が好……」

  コンコン

「……っ!」

  あまりの早口で何を言っているのかよく聞き取れず、ポカンとしていたら部屋の扉がノックされた。
  気のせいかしら、ルフェルウス様といるとこんな事ばかりでいつも話が遮られている気がしてくる。

「やっぱりここにいましたか」

  分かってはいたけれど、ノックをして入室して来たのは側近のマース様。

「殿下、程々にしてくれませんと。仕事が溜まって周りが困っています」
「…………分かっている」
「それならば早いお戻りを」
「…………」

  ルフェルウス様は渋々、とても嫌そうに立ち上がった。

「リスティ。誰から何を聞いたのかは知らないが、頼むからくれぐれもおかしな話を真に受けないでくれ!」
「おかしな話ですか?」
「あぁ、そうだ。続きはまた、話す……今度こそ」
「は、はぁ」   

  言いたい事がよく分からないので返事が曖昧になってしまった。

「ではな」
「あ、ルフェルウス様!」

  これだけは言っておこう、と思い私はルフェルウス様の服の裾を掴んでを引き止める。

「どうした?」
「お、お仕事、頑張ってください。でも無理はしないで下さいね?」
「……」

  服を掴んでまで引き止めたのがいけなかったのか、上目遣いが良くなかったのか、何故かルフェルウス様が目を大きく見開き固まると私を凝視する。

「……が、頑張る」

  少し間を置いてルフェルウス様はそう答えると行ってしまった。

  (すごく顔が赤かったような……?  気のせい?)






「あ、結局エレッセ様のことは聞きそびれてしまったわ」

  ルフェルウス様が出て行ってからしばらくしてその事に気づく。

  エレッセ様が言っていたあの事……
  本当にその通りになるのかしら───……

  ズキンッと胸が痛む。

  そうしたら私はどうすればいい?
  どうするのが正解?

  そんな事を考えた始めた時だった。
  コンコンと再び部屋の扉がノックされる。

「はい」

  (誰かしら?  ルフェルウス様が忘れ物でもしたのかしら)

  そんな事を思いながらも扉を開けるとそこに居たのは、

「マース様?」

「すみません、リスティ様。少しだけお話をよろしいでしょうか?」
「え?」

  マース様の顔は真剣。何か重大な話があると思われた。
  まさかルフェルウス様に、何かあった?

  私の顔が青ざめたのが分かったのか、マース様は慌ててその懸念を打ち消してくれた。

「殿下に何かあったわけではありません。自分が個人的にリスティ様と話したいことがありましてお訪ねしました」
「その話とは?」

  私の問いかけにマース様は気まずい顔をして目を逸らす。

  (間違いないわ。これは確実にいい話ではないわね)


「彼女の……」
「彼女?」
「エレッセ嬢の事です。エレッセ嬢の事でリスティ様にお話があります」
「え?」

  やっぱりろくな話ではなかった、そう思った。


しおりを挟む
感想 250

あなたにおすすめの小説

【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜

桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」 私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。 私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。 王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした… そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。 平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか? なので離縁させていただけませんか? 旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。 *小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

[異世界恋愛短編集]お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?

石河 翠
恋愛
公爵令嬢レイラは、王太子の婚約者である。しかし王太子は男爵令嬢にうつつをぬかして、彼女のことを「悪役令嬢」と敵視する。さらに妃教育という名目で離宮に幽閉されてしまった。 面倒な仕事を王太子から押し付けられたレイラは、やがて王族をはじめとする国の要人たちから誰にも言えない愚痴や秘密を打ち明けられるようになる。 そんなレイラの唯一の楽しみは、離宮の庭にある東屋でお茶をすること。ある時からお茶の時間に雨が降ると、顔馴染みの文官が雨宿りにやってくるようになって……。 どんな理不尽にも静かに耐えていたヒロインと、そんなヒロインの笑顔を見るためならどんな努力も惜しまないヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 「お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?」、その他5篇の異世界恋愛短編集です。 この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:32749945)をおかりしております。

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

【完結】イアンとオリエの恋   ずっと貴方が好きでした。 

たろ
恋愛
この話は 【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。 イアンとオリエの恋の話の続きです。 【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。 二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。 悩みながらもまた二人は………

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね

さこの
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。 私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。 全17話です。 執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ​ ̇ ) ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+* 2021/10/04

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

処理中です...