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15. 動揺しました
しおりを挟む「……? どういう意味ですの?」
ミュゼット様がエレッセ様を睨むけれど、肝心のエレッセ様はどこ吹く風状態。
「えー? そのまんまの意味ですよぉ。殿下はもう私を選ぶしかないんですから~」
「……あなた、本当に頭がどうかしたのではなくて?」
「ひどーい。私は正常ですよ? 事実を述べているだけですから…………ね?」
にっこり笑ったエレッセ様と私の目が合った。
「!」
多分、周りは気付いていないけれど、今の「ね?」は私に向けたものだ。
「早く殿下にお会いしたかったのに、会えなくて残念だわ~」
「あぁ、殿下は今日はどうしても外せない公務があるからね、仕方ないよ」
不満を口にするエレッセ様をミッチェル様が優しく宥めた。
「そういえば、今朝会った時の殿下、どこか元気が無かったからきっとエレッセ嬢の怪我を心配していたんじゃないかな~」
「きゃは! そうなの? ふふ、殿下ったら優しいのね!」
ミッチェル様のその言葉が嬉しかったのか弾んだ声を出すエレッセ様。
「そうだね~。それに、殿下は──……」
(もうこれ以上聞きたくない!)
これ以上、二人の会話を聞いていると、自分の中の黒い気持ちが湧き上がって来そうなので、私はその場から離れる事にした。
「……やっぱり頭がおかしいとしか思えませんわ。どうして殿下が、たかが男爵令嬢の怪我を心配すると言うのよ……有り得ませんわ」
ミュゼット様もこれ以上は何かを言う気力が無くなったのか、呆れた顔をしてそう呟いた後はそのまま席へと戻っていった。
そうして、野次馬も解散する。
今日の戦いを切っ掛けに、
縦ロール 対 ピンク頭
この戦いはミッチェル様がエレッセ様に肩入れした事により、ピンク頭が優勢のようだ──そんな噂が学園内に徐々に広がり始めていく───
*****
「リスティ」
昨日の講義の振替が本日だったので、放課後王宮を訪ねると、今日も今日とて休憩時間にルフェルウス様が私の元へとやって来た。
「ル、ルフェルウス様!?」
「リスティが来ていると聞いて飛んで来た」
「お、お忙しいのでは無かったのですか?」
ルフェルウス様は私の隣に腰を下ろすと、そのまま私をそっと抱き寄せる。
「ルフェ……」
「リスティの顔を見ないとやる気が出ないんだよ」
「えぇ……?」
何やらダメ王子のような事を言い出した。
「だからさ、リスティ。お願いだ。私の側にいて欲しい。これからもずっと」
「ずっと……ですか?」
「そう。ずっと」
「!!」
その言葉と共にルフェルウス様の私を抱き寄せる腕にぐっと力が入る。
自分の頬に熱が集まっていくのが分かる。
(な、何、それ……)
そして、動揺した私は何故かおかしな言葉を口走ってしまう。
「そ、それはあれ、ですよね?」
「あれ?」
「ルフェルウス様は、その……お年頃なのでたまにムラムラ……しますよね?」
「は? 厶、ムラムラ?」
何だそれ? って顔をするルフェルウス様。
「その欲を解消するためにも、名ばかりの婚約者で都合の良い私を側に置いておきたいのですよね?」
「は? ちょっと待てリスティ! 何だその理論!」
ルフェルウス様が、ガバッと勢いよく身体を離すと私の両肩を掴みまじまじと私の顔を見る。
驚きと心配が混ざったような表情だった。
「リスティ、どうしたんだ? 突然何を言い出したんだ?」
「え? 違うのですか? ルフェルウス様はムラムラはしないのですか?」
「違う! そしてムラムラ……は……コホッ」
何故かムラムラに言葉を詰まらせるルフェルウス様。
なんなら顔も赤いわ。
「誰だ! リスティにおかしな事を吹き込んだのはっ!! とにかく違う! 断じて違う! 私がリスティに側にいてくれと言ったのはそういう意味では無い! なぜなら私はリスティの事が好……」
コンコン
「……っ!」
あまりの早口で何を言っているのかよく聞き取れず、ポカンとしていたら部屋の扉がノックされた。
気のせいかしら、ルフェルウス様といるとこんな事ばかりでいつも話が遮られている気がしてくる。
「やっぱりここにいましたか」
分かってはいたけれど、ノックをして入室して来たのは側近のマース様。
「殿下、程々にしてくれませんと。仕事が溜まって周りが困っています」
「…………分かっている」
「それならば早いお戻りを」
「…………」
ルフェルウス様は渋々、とても嫌そうに立ち上がった。
「リスティ。誰から何を聞いたのかは知らないが、頼むからくれぐれもおかしな話を真に受けないでくれ!」
「おかしな話ですか?」
「あぁ、そうだ。続きはまた、話す……今度こそ」
「は、はぁ」
言いたい事がよく分からないので返事が曖昧になってしまった。
「ではな」
「あ、ルフェルウス様!」
これだけは言っておこう、と思い私はルフェルウス様の服の裾を掴んでを引き止める。
「どうした?」
「お、お仕事、頑張ってください。でも無理はしないで下さいね?」
「……」
服を掴んでまで引き止めたのがいけなかったのか、上目遣いが良くなかったのか、何故かルフェルウス様が目を大きく見開き固まると私を凝視する。
「……が、頑張る」
少し間を置いてルフェルウス様はそう答えると行ってしまった。
(すごく顔が赤かったような……? 気のせい?)
「あ、結局エレッセ様のことは聞きそびれてしまったわ」
ルフェルウス様が出て行ってからしばらくしてその事に気づく。
エレッセ様が言っていたあの事……
本当にその通りになるのかしら───……
ズキンッと胸が痛む。
そうしたら私はどうすればいい?
どうするのが正解?
そんな事を考えた始めた時だった。
コンコンと再び部屋の扉がノックされる。
「はい」
(誰かしら? ルフェルウス様が忘れ物でもしたのかしら)
そんな事を思いながらも扉を開けるとそこに居たのは、
「マース様?」
「すみません、リスティ様。少しだけお話をよろしいでしょうか?」
「え?」
マース様の顔は真剣。何か重大な話があると思われた。
まさかルフェルウス様に、何かあった?
私の顔が青ざめたのが分かったのか、マース様は慌ててその懸念を打ち消してくれた。
「殿下に何かあったわけではありません。自分が個人的にリスティ様と話したいことがありましてお訪ねしました」
「その話とは?」
私の問いかけにマース様は気まずい顔をして目を逸らす。
(間違いないわ。これは確実にいい話ではないわね)
「彼女の……」
「彼女?」
「エレッセ嬢の事です。エレッセ嬢の事でリスティ様にお話があります」
「え?」
やっぱりろくな話ではなかった、そう思った。
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