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3 years later ~あの日の舞台裏とそれから~ ②
しおりを挟む「殿下とリスティ様はこれから会場入りだった。当然、この騒ぎも聞こえている事だろう。今頃何を思っているだろうな」
「……え」
「───そんなもの、当然怒っているに決まっているだろう」
ルフェルウス様の声が低い!
怖いわー……
「ルー……ルフェルウス様」
少し落ち着いて欲しくて声をかけた。
だけど、この雰囲気はやっぱり昔を思い出す───……
ルフェルウス様は私の頭を撫でながら優しい笑みを浮かべて言った。
「大丈夫だ、リスティ。しかし3年前を思い出すな。あの時は君が糾弾されていたな」
「えぇ……」
やっぱりルフェルウス様も同じ事を思い出していた。
(ピンク色の彼女……)
私がまたピンク色の彼女を思い出していたら、ルフェルウス様は優しい笑みを消し、一転して冷たい声で言い放つ。
「毎回毎回どこにでもいるものなのだな。愚かな奴と言うのは」
「っ! …………愚、か」
そう言ってルフェルウス様はイリーナ様を睨みつけた。
3年前のパーティーの件を思い出してしまったからか余計に怖いわ……
「まぁ、過去の事もあるしな。まさか……とは思ったとも。思ったが……なぜこのパーティーなんだろうな」
えぇ、同意しかないわ。
他のパーティーではダメだったの??
「わざわざ、謹慎にしておいて公にならない所で話をするつもりだったのにな……反省の一つもせず、自らそれを壊すとは」
「わ、私はただエドワード様を! あの女から救おうと……」
「エドワードのあの告白を聞いてなぜ分からない? エドワードは君を全く愛してなどいない! それどころか君から婚約者を庇って怪我まで負ったんだぞ!?」
エドワード様を傷付けられたルフェルウス様の怒りは凄いわね。
「さっき、どうして婚約者を庇ったかエドワードに聞いていたな? そんなの簡単な事だ。エドワードが婚約者を愛してるからだ。愛する人がどんな形だろうと傷つく所を見たい奴がいるわけないだろう!」
……キュン!
(ルー様がカッコイイ!)
こんな時なのに私の胸は盛大にときめいてしまっていた。
見て! 私の……夫はとてもカッコイイの!
油断するとそう叫びたくなる気持ちを私は必死に抑える。
「ケルニウス侯爵令嬢。周りを見てみろ」
ルフェルウス様はそう言ってイリーナ様に周りを見渡すように言う。
「今、この状態に置かれているお前を誰一人として庇う者はいないようだぞ──そう。家族でさえも」
「……え?」
「お前を愛してくれる奴はいないのだな」
ルフェルウス様のこの言葉がきっかけでイリーナ様の暴走は何とか終わりを迎えた。
その後、エドワード様とアリーチェ様が、私たちの元へとやって来た。
パーティーをしっちゃかめっちゃかにしたお詫びらしい。
「どこまでも勘違いと思い込みが混ぜこぜになって突き抜けていった女だったな」
(ルー様、上手いこと言うわねぇ)
うーん、でもそれって……
「そんな女はあの時の女だけだと思ってた」
その言葉に私は頷かずにはいられない。
だって本当にその通りなんだもの。
「エドワード、怪我は?」
「切られた所から血は出ていましたが傷は深くはありませんでした。もう血も止まっています」
「それは良かった」
ルフェルウス様もホッとしていたけれど、私も安心した。
「……申し訳ございませんでした」
「ん? 何がだ」
「おめでたいはずの殿下とリスティ様の結婚パーティーがこんな事になってしまいました」
エドワード様とアリーチェ様が揃って私達に頭を下げている。
「……まぁ、開始前の事ではあったからな……令嬢を勘当したとは言え、責任はケルニウス侯爵家にある。責任を問うならそっちだ」
「ありがとうございます」
「その代わり……エドワード」
「はい」
「オプラス伯爵令嬢……アリーチェ嬢と話さなくてはならない事がたくさんあるだろう?」
「!」
エドワード様の肩がビクッと跳ねた。
先程の様子から私も思っていたけれど、ルフェルウス様も同じ事を思っているみたい。
(おそらくエドワード様は、記憶を取り戻しているわね……)
でも、アリーチェ様にまだその事は話していないみたい。
「部屋を一室貸してやる。邪魔は入れさせないから二人だけでゆっくり話してこい」
「……はい」
「と言っても部屋の前に護衛はつけるからな。婚姻前だ。変な真似はするなよ?」
「……しません!!」
真っ赤な顔で怒鳴るエドワード様。
ルフェルウス様はどうだかな……と笑っていたけれど、あなた……人の事は言えないわよね??
私はこれと似たシチュエーションが昔あった事を思い出す。
その後、本当にエドワード様がなかなか戻って来ないので、痺れを切らしたルフェルウス様が「これは間違いなくアイツらはイチャイチャしている! 私だってリスティと早くイチャイチャしたいんだ!」と怒鳴り込んでいったので思わず笑ってしまった。
「……リスティ」
「ルー様……」
そうして結婚式、波乱含みだったパーティー……をようやく終えて、二人の時間……
(改めて夫婦として向き合うと思うと緊張するわ)
緊張した私はとにかく会話を……と思い当たり障りの無い話を始める。
「ルー様! そ、そう言えば見ましたか? 今日の結婚式とパーティーには先日婚姻の為に隣国へと旅立ったミュゼット様も殿下と一緒に来て下さっていましたよ! あの縦ロールの揺れ方はパワーアップしていましたが本物でした!」
あの縦ロールはどんなに人混みに紛れていても分かるわ!
「あぁ、あの縦ロール令嬢……ラファエル殿下と幸せそうなら良かったな」
「で、ですよね! 何やら隣国に旅立つまで色々と伝説を残してる二人でしたし!」
特にブラックコーヒー事件は記憶に新しい。
あれ以来、二人が参加するという夜会やパーティーには、必ずブラックコーヒーが大量に用意されるようになった。
だけど不思議なのは何故か私とルー様が参加する時も多く用意されるようになった事だったりする。
(何で私達も……?)
「まぁ、あの頭だけでも伝説級だからな……それにしてもパワーアップか」
ルー様が苦笑する。あの頭ほど印象深いものはないものね!
「今ならエレッセ様にも負けないかもしれませんよ!」
「……あの争いはもう勘弁だ……」
ふふふ、と私達は笑い合う。
そして、目が合うとルフェルウス様がニヤッとした笑いを浮かべた。
「そろそろ、緊張は解れたかな? 私の愛する妃」
「っ!!」
「宣言通り、今夜は寝れないと思うが覚悟は出来たか?」
「ね、閨教育はバッチリ勉強して来ました……それに、いつも私が……」
ルフェルウス様は夜這いをかけた時だってたくさん触れられたわ。
あれの延長みたいなものでしょ……? 多分。
「そうか……これまでの日々がどれだけ手加減の日々だったかを教えてあげよう」
「!!」
私は恥ずかしくて顔を赤くしながら顔を俯けたのだけど、ルフェルウス様がそっと顎を持ち上げて私の顔を上げさせる。
(あっ!)
目が合ったと思ったと同時にチュッとキスが降ってくる。
「リスティ……」
ルフェルウス様が甘い声で囁きながら私の夜着に手をかける。
(ひゃあぁぁぁ!)
───それはこれまでイチャイチャして過ごした夜よりも甘く優しく……そして激しい夜の始まりだった。
そんな仲睦まじく過ごす私達の元に、
新たな家族が増えるという嬉しい報せが聞けるのは、そう遠くない未来─────
✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣
お久しぶりです。お読み下さりありがとうございました!
感想コメント返せてなくて本当に本当にすみません……
ちゃんと全て読んでますし、とても嬉しかったです!
本当にいつもありがとうございます。
『そんなに嫌いなら~』リスティ側から見た、エドワード&アリーチェ騒動のあの日の舞台裏でした。
それから、ラストにさり気なく(?)縦ロール令嬢の様子にも触れてみました!
ピンクとの戦いの後の彼女の事をもっと知りたい人は、スピンオフの、
『そんなに怖いなら近付かないで下さいませ! と口にした後、隣国の王子様に執着されまして』
を読んでみてください。
彼女のツンデレが炸裂してドリルが荒ぶってとにかく無双してますので!
また、こちらのスピンオフはこの番外編と同時に完結させましたので、読んでなかった方は今なら一気読みが出来ますよ!
(読んでくれていた方はありがとうございます!)
どの話も短編と言うには長くなってしまいましたが、改めて3作合わせて読むと楽しい……かもしれません。(多分)
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