聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第二章 希望を胸に

(一)式典③

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 王都に常駐している騎士団の団長が紹介されると、代表として第一騎士団の団長が、壇上中央に移動する。
「入学者諸君、おめでとう。今しがた紹介された通り、私が常駐騎士団のうちの一つ、第一騎士団の団長ドリステン・サンドワーズだ。列席しているオリウス・ランドルフ、サーティス・ジャハネートと、体調を崩してこの場に来られなかった、ホランド・ファンハウゼンの分も含めて、祝辞を述べさせてもらう」
 存在感と腹に響く声は流石と思わせる。世間一般でイメージされるであろう「騎士団長」そのままと言って良い。憧れの対象として、目標として他の騎士団長を上回る存在となっている。
「万能すぎてつまらない」
 かつて、ガイザと騎士団長談義をしたときのラーソルバールの評である。余りにも失敬な話だが、子供同士の話なので致し方ない。もっともそんな話が当人の耳に入る訳でもないので、何の問題も無いはずなのだが。
 とにかく何事にも優秀らしい。宣伝も兼ねた噂であるため、多少の誇張もあると思われる。
 サンドワーズは話を終えると、もとの場所に戻った。
 次の瞬間、ラーソルバールは自らの耳を疑った。
「入学者代表、ラーソルバール・ミルエルシ。壇上にて宣誓を」
「ほぇ?」
 突然の事に、裏返ったような高い声を上げてしまった。小さな声だったので、それほど響いてはいないのが幸いだった。事前に何も聞かされておらず、状況が理解できていない。
 とりあえずは、なるようになれと割りきって、大きく「はい」と答えた。

 案内されるまま、正面左手に用意された階段を上り、壇上中心に移動すると、袖にいる進行役の身振りに合わせて、入学者達を背にし、奥に飾られた国旗に向きなおった。
 国旗に一礼すると、顔を上げラーソルバールは大きく息を吸い込んだ。
「我々入学者一同、国王陛下、我が国、そして国民のため、正しき事に剣を振るい、悪しき者からの盾となることを誓います」
 声は建物内で反響し、皆に届けられた。
 宰相や大臣、騎士団長らに礼をすると、逃げ出したくなる気持ちを押さえつつ、慌てずに自分の場所に戻った。
 お偉方を前にして、宣誓文言は短いながらも、思った事を間違うことなく言えたので、役目を果たせたのではないか。内容については、お叱りが無いとは言えないので、安心できないのだが。

 後になって聞いた話だが、入学試験の成績上位者、それも恐らくは最上位の者が、毎年宣誓する事になっているそうだ。その時になって初めて、自分の試験結果が、宣誓をさせられるような順位であった事を知ることになる。

 それを知っていたのか、件の侯爵家の息子、グレイズは自尊心を傷つけられたように、宣誓を終えたラーソルバールを睨みつけていた。一瞬、視線が合ったが、大事な式で問題を起こすのは、向こうも本意では無いだろう。わざと気付かぬ振りをして視線を戻した。
 宣誓を終えた後も式は滞りなく進行し、恒例の騎士学校の校章授与が行われた。
 剣と本をモチーフにした校章デザインは、見た目そのまま両方を「学べ」という意味なのだろう。
 さほど時間もかからず全員に渡されると、皆が校章を手に、ようやく入学を実感したかのような表情を見せた。
 最後に、進行役の声に合わせて敬礼すると、式は終了し解散となった。
 式中は終始起立状態だったが、これで疲れたと言っていては騎士にはなれない。
 誰もが口を開かず、建物の外へと出ていく。
 最前列に居たラーソルバールは、退出する人の流れのまま列の最後となってしまった。
 退出の瞬間、強い視線を感じて振り返ると、サーティス・ジャハネートと目が合った。彼女はニヤリと笑うと、腰に当てていた手を水平に伸ばし、ラーソルバールを指差した。
 彼女の口元が少し動いたようだが、遠すぎて何を言ったのかは聞こえず、意図するところは分からない。
 ただ、それが自分に対する、何らかの意思表示だという事は理解した。
 ラーソルバールは軽く会釈してから向き直ると、入学者達の流れに続いた。

 表に出ると、ふわっと優しい香りが飛びついてきた。
「お疲れ様。宣誓、格好良かったよ!」
 シェラの笑顔を見て、ようやく張りつめていた気持ちが解れるのを感じた。
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