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第一部:第二章 希望を胸に

(一)式典②

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 楽隊の演奏が終了すると、入学者達は起立を促された。
 まず一人の壮年の男が、壇上の壁面に飾られた国旗に向かい、深く頭を下げると、入学者達の方へ向き直った。
「諸君、入学おめでとう。私は当学校の校長を勤める、エイグスト・ドートスです。今年も未来の騎士達を多く迎えることが出来、非常に嬉しく思う。これから君たちは研鑽の日々となる。ここを巣立って行った先輩達に恥ずかしく無いよう、頑張ってくれたまえ。有難い話は、後の方々がしてくださるので、私の挨拶はここまでとする」
 温厚な雰囲気が有るが、威風堂々たる姿から、かつて立派な騎士だったであろうことはすぐに分かる。入学者達の中にも、校長としてではなく、騎士として彼の名を知る者も多い。
 校長と入れ替わるように、軍務大臣が壇上中央に立つと、入学者達を見回した。
「軍務大臣のエルガー・デシット・ナスタークである。諸君、入学おめでとう。これから二年の間、鍛練し己を磨き、陛下の為、国民の為、ひいては自身の為に立派な騎士に成って欲しい。長い話は面倒なので、挨拶はこの辺で終わらせる。皆の行く末を期待しておる。以上だ」
 いかにも元・武人らしい簡潔な祝辞で、入学者達を驚かせた。
 二十年程前、騎士団長だったという事は知られているが、それよりも若い者達にはあまり馴染みがない。ずば抜けた勲功がある訳でもなく、華やかさが有る訳でもないためだろう。
 実は堅実で思慮深い、優秀な用兵家であったらしい。だからこそ、軍務大臣という内政官が務まるのだろう。
 ラーソルバールも、かつての騎士団長の名は知っていたが、堂々たる挨拶を見て、改めてその人となりを知りたいと思った。その思いが叶うのは、もう少し先の事になる。

 次に来賓、宰相エイドワーズからの祝辞となった。
 年齢を感じさせぬ明快な言葉で、挨拶と国内外の事情を理路整然と語った。
 国内は経済を中心に充実期にあること、隣国であるバハール帝国の皇帝が代替わりし、版図を広げつつあること、怪物や常闇の森の状況まで噛み砕いて説明した。
 常闇の森とはこの国と帝国に跨がる巨大な森で、現在でも開拓の手も入らず、怪物達の住処となっている。光が届きにくく、強力な怪物の存在も確認されているため、魔界の入り口に違いないと言われている。それらの要因から皆に怖れられ、この名が付いたとされる。
 宰相は最後に以下のように述べた。
「諸君らはこれから騎士になる。武を磨くだけでは足りない。騎士とは常に正しい情報を得て、国内外の情勢を知ることも重要なのだ。ただ戦うだけの存在であってはならない。武と知と優しき心を持って、初めて騎士となる。それを忘れるなかれ、怠るなかれ。諸君の未来をこの老人、楽しみにしておるぞ」
 宰相閣下のご要望は、文武兼備のということらしい。仰る事は理解できるが実践するのには苦労しそうだ。そう思いながら、ラーソルバールは老宰相をじっと見つめた。
 ふと壇上横を見やると、サーティス・ジャハネート団長がオリウス・ランドルフ団長に視線をやりながら、笑いを堪えているようだった。それを知ってか知らずか、ランドルフは少々きまりが悪そうな顔をしている…ようにラーソルバールには見えた。
 式は進み、宰相の祝辞を終えて次へと移る。
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