聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第四章 ラーソルバールの休暇(前編)

(四)名代③

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「最近、領内で住民の不満や不安を煽り、反乱を促すかのような言動をする、外部の者が現れているようなのです。伯爵様の領内で同じような話はございませんでしょうか」
「む…。私はそのような話は聞いてはおらんが……」
 伯爵は後ろに控える執事に視線をやる。
「確かに、領内においても同様の話を聞き及んでおりますが、領内は治安も良く不満の芽も無いかと思い、様子を見ておりました」
 執事の言葉を聞いた伯爵は、怒りを堪えるかのように拳を握り、目を閉じた。
「私も偶然聞き及んだに過ぎません、安定していればこその判断もございましょう」
「いや、我が家の恥を晒すようで恥ずかしい。余計な気を遣わせてしまったな。で、この件で来られたということは、ただの注意喚起ということではないと?」
 ラーソルバールは無言で頷いた。表情は真剣なものに変わる。
 意図を汲み取ったのか、伯爵はラーソルバールの目を見つめると、険しい顔で口を開いた。
「まず、一つ目。我々の領地だけを対象とした、敵意の有る者の仕業。二つ目が国内の全てが対象となる場合、他国の介入が考えられる。三つ目、特定の領地を標的としている場合だが、国内の陰謀か他国の策謀か判別しにくい」
 伯爵は腕を組み、表情を変えずにソファの背に寄りかかった。
「二つ目、三つ目の場合、自らの領地が問題無くとも、他の領地で反乱や暴動が発生した場合、その余波がやってこない保証はない、その対策をしなければならんという事だな」
 その言葉を聞き、執事の顔が青ざめた。事の大きさと、自らの見通しが甘かった事を理解したのだろう。
 ラーソルバールは伯爵の目を見つめて、反応を待つ。
「顔色ひとつ変えずに聞いておるが、ここまでは想定内ということか。私は試されているのか?」
 険しかった伯爵の表情が、一転柔和なものとなる。しかし、ラーソルバールは表情を崩さない。
「まだ有るのか」
「大変畏れ多いお願いでございます」
 一瞬の沈黙の後、真意を理解した伯爵は豪快に笑った。
「他の領主達にも警戒するよう、陛下から命じて頂くよう進言せよ、と。男爵家であるミルエルシ家では、それが叶わぬから代わりにやれということか」
 そこまで聞いて、ようやくラーソルバールの顔に笑みが浮かんだ。
「私が伺っている陛下のご気性からすれば、お叱りを受けることも無く、事を運んで頂けるものと愚考致します。それから、後に事が明らかになれば、場合によっては褒賞が下される事もあるかもしれません。逆に万が一、陛下のご不興を買うような事態になりましたら、ミルエルシ家に唆されたと仰ってください」
「確かにこういった件でお叱りを受けることは無いな。で、褒賞が出ても要らんのか?」
 伯爵はニヤリと笑った。ラーソルバールの反応を試しているのだろう。
「私はただ、不審な輩が領内に居る、と申し上げただけです。何か褒賞に値する事がございますか?」
「はっはっは、本気で息子の嫁に欲しくなったぞ。褒賞の件は置くとして、領内の対応はどうする。領内の事くらいは答えてくれるのだろう?」
 伯爵の問いに頷くと、村で決めてきた内容を示す。
「住民を扇動するような者が居れば、身分を確認し、領内の者であれば背後関係を調べ、裏がないようであれば、不満を聴取。背後関係が有るようなら明確になるまで勾留し、場合によっては罪とします。外部の者であれば内乱予備罪、内乱扇動罪などの罪状で捕縛、拘束します。これは陛下から正式なご命令が有るまでの一時的なものです」
「承知した。我が領内もそのようにしよう」
 伯爵は満足そうに頷いた。
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