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02.入居者の体験談-1日目-
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玲菜は、紅茶を二杯用意して、西洋風のテーブルセットに鏑木を案内した。鏑木は恐縮したような面持ちでちょんと座り、何から話したものかと、目を泳がせている。
「えっと――鏑木さん、」
玲菜が話しかけると、ハッとしたような顔をして、紅茶をずず、と口に含んだ。
「まずは、あの部屋での出来事を、できる限り詳しく教えてくれますか。オーナーさんからの話によると、入居された方は、すぐに退去されてしまうとか……」
玲奈は至って真面目に訊いたつもりであったが、どうやらワクワクした感情が手振り身振りに顕れていたようで、鏑木はふふ、と笑った。
「変わった探偵さんですね」
結果オーライである。緊張が完全に解けて、微笑みついでに鏑木はするりと話し始めた。
**
「オーナーさんから聞きましたが、これから潜入捜査されるとか……。何かの役に立てばいいんですけれど、少し変なお話しなので、恥ずかしくて、その、同じ女性でよかったです。あと、他に人がいたら喋りにくいですから」
鏑木は部屋の中を見渡し、スカートの皺を伸ばした。
「--先月のはじめ、あの部屋に入居したんです。社会人になってから実家暮らしだったので、一人立ちのつもりで。なんだか相場より家賃が安かったのですが、ほら、素敵なマンションでしょう」
確かに依頼のあったマンションは、所謂ワンルームマンションにしてはしっかりとした造りで、外観も素晴らしかった。
「入居初日に半分ほどの荷解きを終えて、あとは寝るだけだったのですが」
-1日目-
「探偵さん、その……」
鏑木はなぜか言い淀んで、頬のあたりをぽりぽりと掻きながら、目を伏せながら続けた。
「くすぐり、ってされたことありますか」
玲菜は、まったく想定外の質問に、目をまるくして固まった。
「え、くすぐり……ですか?」
「ええ、身体をこちょこちょとする、あの、あれです」
鏑木は決まりが悪そうに目を逸らし、今度は天井あたりを見つめている。
「えっと……どうでしょう、学生のときに、友達にされたことはあると思いますけど……」
「私はちょっと苦手なんです。どうしても笑ってしまうから、恥ずかしいし、苦しいので」
はあ、という素っ頓狂な相槌を打ってしまい、ううん、と一つ咳払いをした。
「ベッドに入ってスマホを充電して、さあ寝ようというときに、何かが足の裏に触れたんです」
「何か虫がいたとか、そういうお話ですか?」
「私も最初はそう思いました。蜘蛛でも出たかしらなんて。でも、違うことにすぐ気づきました。明らかに、人の指のような感じだったんです。足の指から踵まで、すっと撫ぜるような感触――」
玲奈は、少しぞくりとした。鏑木は続ける。
「びっくりして声を上げて、急いで電気をつけました。でも、誰もいない。気のせいかと思ってまた布団を被ったら、今度は明らかに――」
鏑木はその後、何者かに足の裏をさらさらと触られ続け、ついには声を上げて笑ってしまったということであった。本来であれば霊的な現象で、いわゆる怖い話のはずなのだが、よくある"首を絞められた"とかではなく、されているのがこちょこちょということなので、少し滑稽に思ってしまう。
「そこから何十分も、足の裏をくすぐられ続けました。怖くって、それと同時に、あんまり笑うとお隣さんに迷惑がかかるなんて思って我慢していたのですが、もう最後の方は、ただ笑うしかありませんでした」
どうやら鏑木は真面目に話しているのだが、どうも玲菜の理解が追いつかない。
「えっと、それはやはり霊といった類のものなのでしょうか……?」
「そうだと思います。誰もいないんですから。夢だったのかなと、最初は思うようにしたんですけれど、次の日の朝もあの感覚が残っていて――」
鏑木は、やはり少し恥ずかしそうに話しているのだが、嘘を言っているようには思えなかった。玲菜は、振り払えない手にくすぐられることを想像して、少しだけ、ほんの少しだけ身震いした。玲奈は、自分が特別くすぐりに弱いと思ったことは無かったが、強いわけでもないと、なんとなく自覚している。
「次の日は、足の裏から移動して――」
鏑木の話は続く。
「えっと――鏑木さん、」
玲菜が話しかけると、ハッとしたような顔をして、紅茶をずず、と口に含んだ。
「まずは、あの部屋での出来事を、できる限り詳しく教えてくれますか。オーナーさんからの話によると、入居された方は、すぐに退去されてしまうとか……」
玲奈は至って真面目に訊いたつもりであったが、どうやらワクワクした感情が手振り身振りに顕れていたようで、鏑木はふふ、と笑った。
「変わった探偵さんですね」
結果オーライである。緊張が完全に解けて、微笑みついでに鏑木はするりと話し始めた。
**
「オーナーさんから聞きましたが、これから潜入捜査されるとか……。何かの役に立てばいいんですけれど、少し変なお話しなので、恥ずかしくて、その、同じ女性でよかったです。あと、他に人がいたら喋りにくいですから」
鏑木は部屋の中を見渡し、スカートの皺を伸ばした。
「--先月のはじめ、あの部屋に入居したんです。社会人になってから実家暮らしだったので、一人立ちのつもりで。なんだか相場より家賃が安かったのですが、ほら、素敵なマンションでしょう」
確かに依頼のあったマンションは、所謂ワンルームマンションにしてはしっかりとした造りで、外観も素晴らしかった。
「入居初日に半分ほどの荷解きを終えて、あとは寝るだけだったのですが」
-1日目-
「探偵さん、その……」
鏑木はなぜか言い淀んで、頬のあたりをぽりぽりと掻きながら、目を伏せながら続けた。
「くすぐり、ってされたことありますか」
玲菜は、まったく想定外の質問に、目をまるくして固まった。
「え、くすぐり……ですか?」
「ええ、身体をこちょこちょとする、あの、あれです」
鏑木は決まりが悪そうに目を逸らし、今度は天井あたりを見つめている。
「えっと……どうでしょう、学生のときに、友達にされたことはあると思いますけど……」
「私はちょっと苦手なんです。どうしても笑ってしまうから、恥ずかしいし、苦しいので」
はあ、という素っ頓狂な相槌を打ってしまい、ううん、と一つ咳払いをした。
「ベッドに入ってスマホを充電して、さあ寝ようというときに、何かが足の裏に触れたんです」
「何か虫がいたとか、そういうお話ですか?」
「私も最初はそう思いました。蜘蛛でも出たかしらなんて。でも、違うことにすぐ気づきました。明らかに、人の指のような感じだったんです。足の指から踵まで、すっと撫ぜるような感触――」
玲奈は、少しぞくりとした。鏑木は続ける。
「びっくりして声を上げて、急いで電気をつけました。でも、誰もいない。気のせいかと思ってまた布団を被ったら、今度は明らかに――」
鏑木はその後、何者かに足の裏をさらさらと触られ続け、ついには声を上げて笑ってしまったということであった。本来であれば霊的な現象で、いわゆる怖い話のはずなのだが、よくある"首を絞められた"とかではなく、されているのがこちょこちょということなので、少し滑稽に思ってしまう。
「そこから何十分も、足の裏をくすぐられ続けました。怖くって、それと同時に、あんまり笑うとお隣さんに迷惑がかかるなんて思って我慢していたのですが、もう最後の方は、ただ笑うしかありませんでした」
どうやら鏑木は真面目に話しているのだが、どうも玲菜の理解が追いつかない。
「えっと、それはやはり霊といった類のものなのでしょうか……?」
「そうだと思います。誰もいないんですから。夢だったのかなと、最初は思うようにしたんですけれど、次の日の朝もあの感覚が残っていて――」
鏑木は、やはり少し恥ずかしそうに話しているのだが、嘘を言っているようには思えなかった。玲菜は、振り払えない手にくすぐられることを想像して、少しだけ、ほんの少しだけ身震いした。玲奈は、自分が特別くすぐりに弱いと思ったことは無かったが、強いわけでもないと、なんとなく自覚している。
「次の日は、足の裏から移動して――」
鏑木の話は続く。
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