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第20話 遅くなった、若菜の告白

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 先輩は若菜にではなく、俺に聞いてきた。一応、彼氏(仮)の俺に。

 若菜を、1日貸してほしいって。デートしたいって。

 本来であれば、許せるはずがない。
 (仮)とはいえ、俺は彼氏なわけで。
 
 ……だけど、2人の恋愛を横恋慕したのは、俺。

「条件があります」
「雅貴……」
「……」

 不安そうな若菜の声。
 俺のメンタルを心配してのことだろう。
 先輩は、意外にも堂々としてる。
 まるで俺が、条件を出すことを初めから知っていたかのように。

「それで、条件って?」
「……俺も、連れてってください」
「3人でデートするってこと?」
「時間制にしませんか? 先輩には申し訳ないですけど、俺も快く譲れる状況じゃあないんで」

 先輩はふうっと息を吹く。

「言いたいことは、わかるよ。俺のほうが余裕ないけどね」
「そんなことあるわけないじゃないですか……」

 ーーと言って俺はハッとする。また墓穴掘っちまった。

「ねぇ、いい加減気になるから聞いておきたいんだけれど」

 と言って、先輩は若菜の方をジッと見る。
 ちゃんと背筋を正して、座り直して。

「若菜ちゃんが鈴木と付き合う前、好きだった男って、誰?」
「え……」

 若菜は俺をチラリと見た。
 助けて欲しそうな顔をしている。
 でも、俺は敢えて助けない。
 ずっとずっと好きだったんだろ?
 自分で言ったほうがいい、そう思ったからだ。

 俺の視線を見て、若菜も察したようだった。

「あの……。私……直樹先輩がずっと好きでした。ずっとずっと、ずっと前から」

 ーーズキン、と俺の心臓が痛む。
 自分で墓穴掘ってタイミング作ったとはいえ、本人若菜の口から聞くのとでは、ワケが違う。

「……そっか……。でも今は、鈴木が好きなんだよね?」
「はい。ずるいけど、雅貴好きです」

 ーー雅貴か……。
 俺は少し自嘲気味に笑う。
 だよな。ポッと出の俺が、長年好きだった先輩に肩を並べられただけで快挙といえばそうだけど。
 墓穴、掘らなきゃよかったとも考えた。けれど、いずれはバレること。
 だったら、俺のいる前でバレて良かった。
 そう、思うことにした。俺のいないところで若菜が先輩に告白するとか、想像しただけで吐き気がするから。

「じゃあ、俺にもまだチャンスはあるってことかな?」
「……」

 若菜は、答えない。

「本当、佐々木の言うとおり早く告白すれば良かったよ。いい歳して緊張なんかしてないで。時間を巻き戻せるなら、巻き戻したいよ。……ふ、なんて言ってもしょうがないけどね。
 でも、好きな人が営業課長とかじゃなかっただけマシかな」
「ふふふっ」
「あー。やめてください先輩。想像したくもないっす」

 先輩の人柄に惹かれるところは、こういうところだ。シリアスな展開も、方向転換で場面を逆転させるところ。何度会社の会議でお世話になったことか。恋敵ライバルでもあるけれど、尊敬もしてる。俺にとっても、大事な先輩。

 ……だけど。

「3時間ずつのデートでどうですか。条件として、人目のあるところでデートすること。これは、お互い若菜に手は出さないようにって意味ですね。
 俺が求めるのは、それだけです。」
「乗った」

「あの……」
「「あ! ごめん」」

 若菜抜きでどんどん話を進めてしまった俺たち。一番重要なのは、若菜の意思なのに。

「いいんですか? そんなに……私ばっかりいい思いして。こんなに優柔不断で、迷惑かけてるのに」
「いいんだよ。若菜ちゃん。言っとくけど、これは俺が望んでいることだ。むしろ、付き合わせてごめん。……俺が手を出さずに2人を見守れたならよかったんだけどさ。……ごめん。俺、本気なんだ」
「直樹先輩……」

 俺だってそうだ。
 俺たちが佐々木先輩と吉野先輩が付き合うだのデートするだの勘違いしていなければ、始まっていなかった恋愛だったんだから。
 俺は元々、ただの親友枠で、圏外だった。
 でも今は同じ土俵にいる。

 ーーたとえ尊敬する先輩でも、俺だってこのチャンスは逃したくない。

「それで若菜ちゃんは、どこに行きたい? どこでも連れてってあげるよ?」
「私、ネズミの国ランドに行きたいです!」

 ネズミの国ランドとは、通称、夢の国。
 女の子だけでない、男にも熱狂的なファンが多いテーマパークだ。

 先輩はポチポチッとスマホをいじる。

「良かった。明日ちょうど空いてる。日曜日なのに珍しいな。チケット、とっちゃうね」
「あの……お金払います!」
「俺も……! いくらですか?」

 先輩はクスリと笑う。

「今回のところはいいよ、後輩くんたち。俺こう見えて営業成績トップで稼いでるから。俺の、オゴリってことで。まぁ、自分から提案したことだしね。若菜ちゃんにも感謝してるし、鈴木にも。……チャンスをくれて、ありがとう」
「「ありがとうございます」」

 俺も若菜も、ペコリと頭を下げる。
 俺が横目で見た若菜は、顔が少し赤くなっていた。おそらく熱によるものじゃあないと思う。
 若菜はこういった、先輩の男らしさや大人の余裕に惚れているんだ。お金を払ってくれたから、とかそういうんじゃなくて、漢の器のデカさに惹かれているんだと思う。

 ーー負けられねぇ。
 俺はギュッと拳を握る。
 今まで若菜の親友枠だった俺に欠けているもの。それは多分、大人の包容力だ。
 もっと磨いていかねぇと、多分俺は今回のデートでフラれて終わる。そうなれば、若菜の性格上、もう親友でもいられなくなるだろう。
 なんとか、頑張られねえと。

「明日は気合い入れて行こうってことで、若菜ちゃんちに6時に迎えに来るけど平気? 俺が車出すからさ」
「ありがとうございます、大丈夫です」
「鈴木は?」
「俺も乗せてもらえるんすか?」
「ふはっ! 当たり前だろ? なんで一人だけ乗せないとかイジワルしなきゃいけないんだよ。行き帰りは3人行動な」
「お世話になります」
「どういたしまして」

 若菜をふと見ると、ふるふる震えていた。
 ーーそうだった。若菜は無類の夢の国大好き女子だった。

「デートとかはおいておいて、私、明日が楽しみです! 何持って行こう……。カチューシャ持って行こうかな。あと、タフィーのぬいぐるみと……」

 ーーわたわたしていて、喜んでいる若菜が可愛い……。

 先輩もきっと同じだろう。
 微笑ましい笑顔で若菜を見守っていた。

「あっ、私カチューシャ3個あるので、お2人もつけますか?」
「「や、いいかな……」」
「え~! 絶対可愛いのに~! はっ! こんなこと言ったらまるでカチューシャつけたら私も可愛いみたいな話になっちゃいますよね⁉︎  今の、ナシで!」
「可愛いよ、若菜」 「若菜ちゃん可愛すぎるよ」
「ええっ! やめてくださいっ」

 若菜はコホンと咳払いする。

「とりあえず、明日は頑張りましょうね! タフィーとその仲間たちのショーは絶対見なきゃですよっ! お2人に私が夢の国の魅力をプレゼンしますから」
「あはははっ、若菜ちゃんがエスコートしてくれるの?」
「俺、エスコートしたかったんだけど」

「ああ、そうか……そういった問題が発生するんですね」
「「あははははは」」
「ちょっとー、笑わないでくださいよッ」

 異色の3人デート。
 明日は一体、どうなることやら。

 ーーだけど。
 俺と吉野先輩の目は、自然と合った。

 ーー負けられない。
 

 チャンスがあったら、エスコートできるように。
 今日も俺は、明日のデートコースについて、◯ーグル先生に師事することになりそうだ。


 
 
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