イケメン二人に溺愛されてますが選べずにいたら両方に食べられてしまいました

うさみち

文字の大きさ
31 / 41

第31話 若菜の異変 side若菜

しおりを挟む

 雅貴のことも、直樹先輩のことも、お茶汲みの時間、避けてしまった。相変わらず、子どもっぽいなって思うけれど。
 ーー私ついに、子どもから大人へと旅立つ時が来たみたいで!
 葵にせっつかれ、26歳にしてついに、大人の恋愛を経験しなくちゃいけない時がきたみたいなの。

 遅いよね?
 だいぶ遅い。
 でもね、わかってるの。
 これまで彼氏がいなかったから、仕方なかったの。

 でも今日の私は一味も二味も違うわ。
 ミッションコンプリートのためにも、今日、下準備に行かなきゃいけないの。


 ーー終業時間の音が鳴る。
 私、行かなくちゃ。


 廊下では、いつもどおり雅貴が待っていてくれた。

「若菜、帰ろうぜ」
「うーーーーーーんとね、ちょっと用事があって。だから先に帰ってて?」

 あからさまにショックを受けた顔をする雅貴。
 私は何も言えず、とりあえず一目散に、逃げた。

 ーー雅貴、ごめんね。でも、雅貴のためでもあるのッ。

 だってだって、今日は仕方ないの。
 新調しなきゃいけないでしょう?



 ーーなんていうか、その……。
 『勝負下着』っていうヤツを……!


 ◇

「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しですか」
「あの……お姉さんに決めてほしくて」
「どんな彼氏さんですか。それか、好きな人?」
「ふっ、ふしだらかと思うんですけど、2人いまして……」

 ギャルっぽい店員さんはクスリと笑う。

「やだー。かわい~。そんなの今時、同時進行なんてアリアリですよ?」

 ーーそっ、そうなんだ……。
 私はそれはそれでショックを受ける。

「あのっ、1人目はとんでもなくSです、と思います」
「へー。お姉さん可愛い♡ もしかしてMですか?」

 ーーひー!こんなこと聞いてくるの?

「そうかも、です」

「じゃあ脱がし易いほうがいいですよねー」
「ぬっ、脱がし易い?」
「そう。ちょっとずつ脱がしてもらうんですよー。そうだなー。フロントホックに、紐パンなんてどうですか?」

 ーーなっ、なんて、ふしだらな! 難易度が高すぎる……。でもこれが今時なの? 時流に乗れば、そういうことなの?

「色は真っ赤にしましょー♡ お客様白いから肌に合うし、食い込む赤い紐パンなんてアリですよね?」
「そ、ソウデスカ」
「やだー♡ 可愛い~♡」

「もう1つは、どうしましょうか。どんな人です?」
「えっと、職場の先輩で……。とにかく大人で……。でも少し、甘えん坊です。と、思いました!」
「黒の透けたネグリジェに、黒のセットアップの下着なんてどうですか? その人の好みがわかってきたらまた買ってもらう感じで」
「それで、お願いします!」

 ◇

 私はそそくさとお店を後にした。
 本当に本当に恥ずかしい。生まれて初めて、『勝負下着』なるものを買ってしまった……!

 そ、それで、どうするの若菜。
 誘うのよ? 自分から。
 シラフでいけるの?
 ーーううん、無理。
 お酒を買いましょう!
 飲んだ勢いでホラ! お風呂なんかに誘ったりしてッ!
 ーーちょっ、アンタ誰よ。アンタは私の内なる若菜でしょ?
 違うわ。今まで抑えられていた、アナタのM気質を兼ね備えた若菜よ。
 ーーそっそんな!

 自問自答をする私。
 もうだめだ。
 頭の中が、パンク寸前。
 ドM(?)な私の心の声が、うるさいよー!

 とりあえず6本組の缶ビールを1ケース買い、左手には勝負下着の入った紙袋を……違った。商売上手なお姉さんに、エプロンまで買わされたんだった。なんだかメイドちっくな色っぽいエプロン。

 ーー喜んで……くれるかなぁ。

 私は実は、缶ビール350mlの他に2回りくらい小さなお酒も買ってある。
 これは、帰宅前に飲もうと思って。
 で、帰り道にある自販機のゴミ箱に缶を捨てて帰って証拠隠滅、と。

 ーーだってだって! 仕方ないよね?
 あの店員さん、

「裸エプロンにももってこいですよ」

 なんて言うんだもん。
 しないよ? しないけどさぁ。
 エプロン1つ着るのだって、勇気がいるの。

 私は梅酒をクイッと飲み干し、自動販売機の空き缶入れに捨てさせてもらう。

 実は私、お酒が得意じゃなくて。
 だからこそ飲めば、勢いで行ける……はず!
 ……と思わないと、やってやれないよー!
 わーん! 葵のスパルター!

 ◇

「ただいまですー」
「若菜ちゃん、駅から歩いてきたの? 迎えに行ったのに!」
「えへへ。いいんです。ちょっと考え事もしたかったので」

 ーーうん。いい感じに、ふわすわする。
 なんだか気持ちいい。
 そうだ。家事を手伝わなきゃ!

「私も着替えたら家事手伝いますね! ごめんなさい、なにもしなくて」
「いーのいーの。できる人がするってことで」
「そうだよ、若菜。とりあえず着替えてこいよ」
「雅貴も、今日はごめんね。……うん、着替えてくる」

 ーー私はいそいそと、計画どおりにエプロンを着てみる。部屋着ということで、Tシャツに、太腿が顕になるショート丈のパンツに、ちょっといやらしいメイドさん風エプロン。

 ええい! 若菜! 女は度胸よッ!

 ◇

「これから家事を頑張ろうと思って、エプロン買ってみたんです。どうですかー?」
「可愛いよ、若菜」
「うん、よく似合ってる」
「えへへ。そうですか? 嬉しいなぁ」

 私はその場でくるんと回ってみせた。
 自分でわかる。
 私、完全に酔ってる。
 普通、くるりと回ったりする?
 しないしない。
 ナルシストな変態だよ~。露出狂だよー。
 でも、お酒のせいでちっとも自制が効かない。

「そうだ! ビール買ってきたんですよ。良かったら夕飯にいかがですか?」
「重たかったでしょ。本当、今度から俺を呼んで? 車で迎えにいくから」
「ありがとうございます。今度からそうしますね」

 ふふふ、と笑う内なる私。
 ーーちょっと何笑ってるのよ! これ以上飲んだら相当やばいよっ!
 ダメよ、若菜。アナタは今日蛹から蝶になるんでしょう?
 ーーそれは、そうなんだけど……。

 ーーああ、ダメ。ふわんふわんする。

「若菜、なんかあったろ? どうした?」
「うっ、ううん、何でも……ないよ」

 ーーさすが雅貴。雅貴に隠し事はできないね。

「ほんとに大丈夫だよ。ありがとうね、雅貴」
「……なら、いいんだけど……」

 ◇

「わあ、美味しそう。焼き魚にお味噌汁。十穀米にサラダ。最高にヘルシーですね♡」
「お気に召して何よりだよ、若菜ちゃん。遠慮せずに食べてね」
「はいっ」
「じゃあ、若菜が買ってきてくれた缶ビールも飲みますか」

 私はその言葉でピシッと固まった。

 ーーこんなにふわんふわんなのに、まだ飲めるかな? ちょっと心配かも。

 ーープシッ!

 缶ビールを開けて、乾杯だ!

「「「かんぱーいっ!」」」

 ーーゴクッゴクッゴクッ! ケホケホ……!
 うう。苦しい。一気飲みなんて、普段しないから。

「大丈夫? 変なところ入っちゃったかな?」
「若菜、ペース早すぎ。どうした?」

 それでも私は、1本飲み干さん勢いでゴクゴクと飲み続けた。そうしたら、雅貴にビールを取り上げられてしまった。

「コラ! 若菜~?」
「わ、私、酔いたくて……。今日は酔いたい気分なんです。あの……あの……。お風呂を出たら、どちらかに、構ってもらいたくて。その……いろいろと……」

「「じゃあ、俺と」」

 ーーええっ? どっちと?
 でもそんなことよりも。
 身体が、とてつもなくあついよ。

「早くお風呂に入りたい、かも……」

 動揺する雅貴たち。
 そっか、お風呂掃除しなくちゃだよね。

「私、お風呂掃除しながら入っちゃってもいいですか?」
「それはいいけど、若菜相当酔ってるだろ。俺が風呂掃除するから、若菜はシャワーだけな。それか、転倒したら危ないから一緒に入るか?」

 ーーい、一緒に!?
 顔がぼうっと熱くなる。
 全身から火が吹き出しそうだよ。
 何も考えられない。かも。

 ーーでもこれはチャンスよ! 若菜。
 やると決めたでしょう?

「うん。入るう」
「若菜ちゃん……」

 不安そうな先輩の声。
 大丈夫ですよ?

「入るぅ。みんなでーー」

「「み、みんな!?」」
「うん」

 ーーあれ? 私なにか、変なこと言った?
 あ、だめだ。視界が回る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

処理中です...