上 下
32 / 41

第32話 3人で、お風呂?

しおりを挟む

「なぁ、鈴木。若菜ちゃんてこんなに積極的なの? お前、こんな若菜ちゃんに迫られてたのか? 今まで」
「……酒ですよ」
「酒?」
「多分、帰るのが緊張しすぎて、飲みやすくて甘い梅酒あたり飲んだんじゃないかと思います。コイツ、酒飲むと甘えたいモードになって、飲み会はいつもヒヤヒヤでしたよ。周りを牽制するのに」
「お前も、苦労してたんだな。じゃあこれは、いつもの若菜ちゃんじゃないってことか」
「そうです」

 先輩は、ホッとため息をついた。
 嫌だったんだろう。付き合ってから、俺と若菜がこうして過ごしていたんじゃないか、と想像して。

 俺だって嫌だ。
 先輩にこんな淫らな若菜を見せるのは。

「とりあえず、歩けるか? 若菜。とりあえず、一緒に入るかは置いておいて、シャワー浴びた方がいいぞ。いつも、後悔してるだろ? スッキリしてこい」

 若菜は、俯いた。

「……やだよ。私、雅貴と一緒にお風呂入りたい。直樹先輩とも、入りたいよ。ダメ?」

 ーーダメだ。こんなにきゅるんとした状態の若菜を、俺が諭せるはずがない。

「若菜ちゃん、俺は君と一緒にお風呂に入りたいよ? でも後々、後悔するんならやめた方がいい。どうする?」
「バスタオル、巻いて入りたいです。それか、水着を着て」
「水着なら、まぁ、俺はありかな。プールだと思えば。鈴木はどうする?」
「もっ! もちろん入りますよ! 2人きりになんて、させられないから」
「じゃあ俺の水着を貸してやるよ。2着あるからさ」
「ありがとうございます」

 ーー若菜をとりあえず部屋まで連れて行こうと画策する俺。
 若菜の目は、相変わらずトロンとして、肩を貸そうと思ったらくにゃりとくっついてきた。

「雅貴、抱っこ。それか、おんぶ」
「はいはい、おんぶな」

 俺はかがんで、若菜を背に乗せた。

 ーーヤバイ。これは、ヤバイ。
 若菜の身長は150cmしかない。体型は痩せ型で、スタイルの良い格好をしている。
 ……けど、俺の背中に当たるこの柔らかさは……AやBなんかじゃないぞ……?(最低)

「おーい鈴木ー! 変わってくれてもいいんだぞ?」
「いや、大丈夫です」

 ーー先輩になんて、触らせられるかッ!

 俺は邪心と闘いながら、若菜の部屋へ運び、若菜に言われるがまま水着を出した。
 白地に、青のストライプと真ん中の白いリボンが可愛い水着だった。

「1人で着替えられるから~」
「わかった」

 先輩は廊下で笑っていた。

「この間熱出た時もそうだったんだけどさ、頑なに1人で着替えようとするのな。可愛いよ」
「じゃあこの間先輩……」
「下着は見てないよ」

 と言われ、頭をポンポンされる。
 あからさまにホッとする俺。
 ーーもしかして、先輩にからかわれてる?

「着替えできましたぁ」

 若菜に呼ばれ、2人で部屋に入ってみると、恥ずかしそうに身体をもじもじさせる若菜がそこにいた。
 身長にしては大きい胸、痩せた腹とくびれ、スラっとした身体のライン。ほてった顔が更に若菜の可愛さを引き立てている。

「やっば」

 言ったのは、先輩だった。

「ほんと、可愛いよ、若菜ちゃん」
「うん、若菜、可愛いよ」
「えへへ~、嬉しいなぁ」

 と言って、そばにいたうさぎのぬいぐるみをギュウっと抱きしめた。ぬいぐるみの顔が、胸の谷間に少し沈む。

「やっべ」

 今度の声は、俺だ。
 そして、うさぎのぬいぐるみに、ポジション変われと圧をかけているのは。

 ーー風呂の前からこんなんで、俺は最後まで耐えられるんだろうか。

 ◇

 全員着替え、今は風呂場の前の脱衣所だ。
 若菜はもじもじしながら、俺と先輩のズボンの腰回りをちょいっと軽く摘んでいる。

「さ、入ろうか」

 さすが先輩。俺とは経験値が違う。
 風呂場まで手を引きエスコートして、暑さを確かめながら、若菜に掛け湯をする。

「あったかーい」

 みんなで掛け湯をして、浴槽に浸かった。
 浴槽はかなり大きかった。
 というか、先輩の家自体がめちゃくちゃデカイ。
 きっと地主なんだろう、と俺は勝手に思った。

「ねえ……」

 若菜のくぐもった声。
 今俺たちは、若菜を挟むように先輩と向き合って入浴している。若菜はどちらを向くでもなく、まっすぐ前を見ていた。風呂の中で体育座りとか、可愛すぎる。

「ねえ……」
「なぁに? 若菜ちゃん」

 ーーあれこれ考えているうちに、返答が遅れ、先輩に先を越された。

「抱っこしても、いいですか?」
 ーーつまりは、抱きしめてもいいですか? っていうことで……。

「いいよ。おいで?」
 断らない男は、まずいない。

「わーい! ふふふ」
「俺、幸せだよ? 若菜ちゃんがこんなに可愛くて」

 若菜は、先輩の上半身をペタペタと触り始めた。

「先輩って、胸板あつい……どこを見ても、筋肉ついてて、カッコいい」

 と言ってまた、先輩の胸に顔を埋めた。
 抱きしめる先輩。
 先輩は若菜の脇の下に手を入れ、おそらく若菜を先輩の足の上に腰掛けさせた。
 俺もいるっていうのに、顎クイして、キスを始めた。

「んんんっ、あう」

 若菜の可愛い声が、浴室に響く。

「若菜ちゃん、可愛すぎだから」

 傍観することしかできない、俺。
 惨めすぎて涙が出そうだ。
 ーーけど。
 
 先輩が若菜の身体を触ろうとした時、さすがにイラっとして若菜を自分の方へ引き寄せた。

「雅……貴?」

 俺は怒り半分で若菜の頬、耳、首筋にキスをする。そして、唇にも。

「んんっ。はぁ、はぁ……」

 声を出すのを我慢して可愛い若菜。
 でもそろそろ。

「先輩、まだまだ楽しみたいんですけどね。そろそろ出ないと、若菜がのぼせます」
「……マジか」
「マジっす」

 可愛い若菜は俺にくっついたまんまだけど、若菜の力がするりと抜けて、ぽちゃんと顔が湯船についた。

「「よし、出よう」」

 俺たちは若菜に肩を貸してのぼせた身体を丁寧に拭いてやった。

 そしたら、次になんて言ったと思う?
 俺は絶句した。
 俺だけじゃない、先輩もだ。


「ねぇ、今日の下着は、赤と黒、どっちがいい?」



しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...