溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

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 ぱあんっ。

 かわいた音に、フィオナはハッとした。まさか。まさか。いまの音は。

「フローラになろうとしないフィオナには、何の価値もないんだ。ぼくの前で馬鹿なことを言わないでくれ」

 氷のように冷えた声音。身体が凍りついたように動けなくなるフィオナ。

 だけど。

「……いいえ、いいえ。例え何度あなたに打たれようとも、あたしは何度でも言います。あなたはとてもひどい人です。最低だわ!」

 ジェマの震えながらの必死の叫びに、我に返った。その勢いのまま、音楽室の扉を勢いよく開けた。

「──ジェマ!!」

 左頬を赤くしたジェマが「……フィオナ……?」と、目を丸くする。フィオナは言葉を詰まらせながら駆け寄ると、ジェマを抱き締めた。

「ああ、ジェマ……ジェマっ。ごめんね。痛かったでしょう。怖かったでしょう……っ」

 ごめんね。ごめんね。
 繰り返すフィオナに、ジェマはじわっと涙を浮かべた。

「……フィオナぁ……っ」
 
 背中にまわされたジェマの腕が、震えているのが伝わってきた。とても怖かったに違いないのに。ジェマはフィオナのために、立ち向かってくれた。そんなことをしてくれる人なんて、誰もいなかった。

 いままで。ただの一人も。

 じわっと胸があたたかくなる。それと同時に、背後に立つ人物に、はじめての感情を抱きはじめていた。

「ねえ、フィオナ。打ったのは、悪いことをしたと思う。けど、聞いて。その子はぼくたちの幸せを壊そうとしている。きみはもう、そんな子と一緒にいては駄目だ」

「……わたしたちの幸せ?」

「そうだよ、フィオナ。ほら、その子から早く離れて? その子はきみにとって、害でしかない」

 フィオナはミックに背を向けながら「あなたたちの幸せ、の間違いじゃないの?」と、小さく呟いた。

「…………え?」

 耳を疑うような間抜けな声を出すミックに向き直り、フィオナはにっこり微笑んだ。

「今日は、ジェマと一緒に帰るわね」

「ど、どうして? 駄目だよ!」

「だって、ジェマはわたしの大切な親友だもの。親友には、婚約者であるあなたとの仲を祝福してもらいたいの。そのためにも、これからジェマと話し合って、あなたの良さをたくさん知ってもらいたいなと思って」

 その科白に、ミックはホッと息をついた。

「あ、ああ。そうだね。どうやら誤解があるようだから……きみ。打ったりして、悪かったね」

 ミックがジェマに謝罪する。けれどジェマが答えるより前に、フィオナはジェマを背に隠した。

「今夜は遅くなるかもしれないから、そう、お父様たちに伝えておいてもらえると助かるのだけれど」

「もちろん、いいよ。まかせてくれ」

 ありがとう。言いながら、フィオナはジェマの手を取り、その場をさっさとあとにした。


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