真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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(わたしのお金じゃないのに、勝手なこと、してしまったな)

 でも、お父様ならきっと許してくれる。そんな甘えからの、勝手な行動。

「……甘やかされて育ったお嬢様、か」

 馬車に揺られながら、一人きりの空間で、ミアはその通りねと、ぽつり、呟いた。



 屋敷の前に、一台の馬車が止まっていた。見覚えのあるその馬車に、扉から見えるその姿に、ミアの心が揺れる。まだ走行中の馬車の扉を開け「──お母様!」と叫んだ。

 馭者が気付き、慌てて馬を止める。ミアが馬車から降り、駆け出す。

 ジェンキンス伯爵夫人も同じく、ミアに気付き、馬車から降りてきた。胸に飛び込んできた娘を優しく受け止める。

「駆けつけるのが遅くなってごめんなさい。コーリーに襲われたと手紙にはあったけど、大丈夫なの?」

「……はい、はい」

「本当? 顔をよく見せて?」

 鼻を鳴らし、顔を上げる。ジェンキンス伯爵夫人は、そっとミアの頬を撫でた。

「顔色が悪いわ。そう言えば、エディはどうしたの? 一緒ではないの?」

 ぴくん。肩を揺らしたミアは、数秒後、こう答えた。

「……お別れ、してきました」




「──そう。そんなことがあったのね」

「……はい」

 応接室にて。ここ数日間で起こった出来事をすべて語り終えたミアの目は、腫れていた。隣に座るジェンキンス伯爵夫人が、ミアの手にそっと触れる。

「でもね、ミア。幸せって、人それぞれなのよ。なのに、エディの幸せを、あなたが勝手に決めていいの?」

「……わたしと一緒にいては、幸せになれません」

「決めつけては駄目。エディが記憶を失くしているのなら、なおさらよ」

「……いいえ。記憶を失くしたいまだからこそ、エディは、自分の幸せだけを考えられるようになったのだと思います」

 幼い頃の辛い記憶が蘇ったから、複数の人格があると自覚してしまったからこその、考え。想い。

 それはきっと、簡単には変えられないだろう。

 それでもジェンキンス伯爵夫人は、願ってしまうのだ。

「お母様と一緒にもう一度、エディに会いに行きましょう。ね?」

「……ジェマさんが、許してくれません」

「でも、エディが記憶を取り戻していたら?」

「それは……」

「わかっているのでしょう? もしそうなら、きっとエディは、あなたといることを望んでくれるわ」

「……エディと別れたくないと思うのは、わたしのわがままです」

 ぽろぽろと涙を流し、小さく本音を吐露する娘を、ジェンキンス伯爵夫人は優しく抱き締めた。

「わたしの可愛い子。お願いだから、エディがあなたと別れたいと望まないかぎりは、幸せになることを諦めたりしないで。今回のことは、ただの事故よ。必然なんかじゃないわ」

(……温かい。お母様の匂いだ)

 本当の子どもじゃなかったのに。たくさんの愛情を注いでくれた。それだけで充分なはずなのに、心はどこまでも貪欲に、エディを求める。哀しくて、哀しくて、胸が痛む。自分が望んだことのはずなのに。


『ミア』


 あの大好きな声で、もう一度、名前を呼んでほしい。記憶を取り戻して、ここに帰ってきてほしい。

 ──神様。わたしは、どこまでも身勝手なようです。

 瞼の裏に、エディの笑顔が過った。

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