わたしの愛しい人を傷付けた、愛する婚約者様へ。わたしはあなたを絶対に許しません。

ふまさ

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「平民になる? 警察ヤードにつき出す? そんなことで貴様の罪が償えると思うなよ」

 ノヴァック侯爵の足の下で「……ノ、ノヴァック侯爵……?」と、スペンサーがガタガタと震える。

「高位貴族の怒りを買った者の末路がどんなものになるか、楽しみにしているんだな」

 にやりと、ノヴァック侯爵が口角をあげる。

 エルシーはカミラと顔を見合わせると、薄く笑い、日記をぱたんと閉じた。





「お嬢様、お茶が入りましたよ」

「ありがとう、カミラ」

 エルシーは読んでいた本を閉じ、テーブルに置いた。カミラがいれてくれた紅茶に口をつけ、焼き菓子を手に取る。


 あれから、ひと月が経った。エルシーの記憶は、いまだに戻ってはいない。

「カミラがいてくれて、本当に良かったわ」

 ふいにもらされた言葉に、カミラは「突然、どうされたのですか?」と首を傾げた。

「あの日記だけじゃ、確信が持てなかったかもしれないもの」

 ああ。
 カミラは、エルシーが日記を見つけたときのことを思い出し、小さく笑った。

 日記の内容を疑う──というより、信じたくないエルシーが、こんなの嘘よね、とカミラに必死に訊ねてきた。そんなエルシーに、カミラは覚悟を決め、訴えたのだ。

『……いいえ。それは、全て本当のことです。私は直接、お嬢様からお話しをうかがいましたから、間違いありません』

『そ、んな……』

『もうほとんどのものが薄くなりましたが、お嬢様の身体には、複数のアザがありましたよね……? それは全て、あの男にやられたものです』

 エルシーが愕然とする。記憶喪失となってからのスペンサーは、優しい表の顔しか見せていないのだから、信じられないのも当然だろう。

『でも……わたしのまわりはみんな優しい人たちばかりだから……きっと、前のわたしがドジだったからだと、思って……』

 ショックを受けるエルシーに、それでもカミラは続けた。今しかない。そう思ったから。

『……私は、お嬢様が記憶喪失となる怪我を負ったのは、事故だとは思っておりません。原因は、あの男だと思っております……ただ、これに関しては何の証拠もありませんが……』

 うつ向き、スカートを握る手を震わすカミラ。悔しそうに、奥歯をぎりっと噛み締めている。

 エルシーは無意識に、日記をぎゅっと握り締めていた。ここに書かれていたのは、スペンサーのことだけではない。家族や学友。そしてカミラに対する信頼、愛情なども綴られていた。

 誰を信ずるべきか。

 それは、過去の自分が教えてくれていた。
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