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「リネット嬢? どうして王宮にいるんだ?」
王宮内の廊下にて。キースと共に歩くリネットの姿に、偶然そこを通りかかったヒューゴーが目を丸くした。
「ああ、ヒューゴー。いいところに。リネットはわたしと婚約することになったから、お前はリネットと婚約解消することになる。そのつもりでな」
「──へ?」
「ヒューゴー殿下。父も納得してくれましたので、ご安心ください。これでヒューゴー殿下は自由ですよ」
続けられたリネットの言葉に、ヒューゴーは固まった。今日、二人がデートしたことは知っていたが、あまりに急すぎる展開だったから。
「それから。先ほどのお前の問いだが、リネットはこれから王宮に住むことになった。だからここにいる。納得したか?」
「……は? え?」
「突然こんなことになってすみません、ヒューゴー殿下。ですがわたし、どうしてもあのお屋敷を出たくて……」
リネットが呟くと、ヒューゴーは「そうなの? どうして?」と首をかしげた。キースは呆れたように大きく息を吐いた。
「少しは自分で考えろ。お前だって、ベッカー公爵とアデラがリネットにどんな科白を吐いていたのか、聞いていたはずだろ」
ヒューゴーに鋭い視線を送るキースを、リネットが宥めた。
「もういいのですよ、キース様。それよりヒューゴー殿下……今日はお姉様とデートのはずでしたよね?」
とたん。ヒューゴーはぷいと顔を背けた。子どもかお前は。キースが呟きながら、腕を組む。
「アデラ嬢と、デートに行かなかったそうだな」
「…………」
沈黙するヒューゴー。リネットは、姉の言っていたことは本当だったのだと思った。
「あの、ヒューゴー殿下。姉が何か失礼なことをしたのなら、わたしが謝罪します。申し訳ありません」
頭を下げようとするリネットを、キースが止めた。
「きみがあの姉のために頭を下げる必要などない。それにヒューゴーは、これまできみに散々失礼なことを言ってきたんだ。尚更その必要はない」
「けれど……」
その時。ヒューゴーが「……失礼なことって言うか、ひどいこと言われた」とぽつりともらし、アデラとのやり取りをゆっくり語った。それは、リネットとキースが想像していたものとは違っていた。
(……お姉様が一方的にデートをキャンセルしたのかと思っていたけれど、どうやら違ったようね)
ヒューゴーにデートをキャンセルされたことを知られたくなくて、あんな言い方をしたのか。考えてみれば、実にアデラらしかった。そんな思いを抱きながらも全てを聞き終えたリネットとキースは、何とも言えない顔をした。
「──どっちもどっちだな」
そう吐き捨てたキースに、ヒューゴーが食ってかかる。
「……そりゃ近付くなって言った僕も悪いけど! 男だって苦手なものの一つや二つ、あるものでしょ? ね、リネット嬢!」
リネットが「……ええ、まあ」と目をそらせる。ヒューゴーがずいっと顔を近付けてきたが、すぐにキースに首根っこを掴まれ、遠ざけられた。
「何をするんだよ、兄上!」
「わたしの婚約者に近付きすぎだ──しかし、ヒューゴー。一年見ない間に随分と我が儘になってしまったな。前はここまで酷くはなかったはずなのに」
「そうなのですか?」
「……ああ。まあ、想像はつく。恐らくはわたしがいない間に、母上や侍女たちが甘やかし過ぎたのだろう。わたしがいなければ、それを注意する者もいなかっただろうし──とは言え、もともと充分過ぎるほど甘やかされてはいたが」
ヒューゴーが「そ、そんなことない!」とむきになって否定する。キースは大きくため息をついた。
「リネットのことと共に、それらも父上と母上に進言するとしよう。では、行こうか。リネット」
「はい」
「ま、待って! リネッ──っ」
ぱし。
ヒューゴーが伸ばした手は、キースに止められた。そしてキースは、ヒューゴーの耳元で「──いまさらリネットに近付こうなどとは思うなよ」と、冷たい声音でそっと囁いた。リネットには、むろんその声は届いていない。
さっと顔色を変えるヒューゴー。リネットが頭に疑問符を浮かべるが、キースに「何でもない。行こう」と背を押されたので、そのまま振り返ることなく歩きはじめた。
ヒューゴーはしばらく、その場から動くことが出来なかった。
王宮内の廊下にて。キースと共に歩くリネットの姿に、偶然そこを通りかかったヒューゴーが目を丸くした。
「ああ、ヒューゴー。いいところに。リネットはわたしと婚約することになったから、お前はリネットと婚約解消することになる。そのつもりでな」
「──へ?」
「ヒューゴー殿下。父も納得してくれましたので、ご安心ください。これでヒューゴー殿下は自由ですよ」
続けられたリネットの言葉に、ヒューゴーは固まった。今日、二人がデートしたことは知っていたが、あまりに急すぎる展開だったから。
「それから。先ほどのお前の問いだが、リネットはこれから王宮に住むことになった。だからここにいる。納得したか?」
「……は? え?」
「突然こんなことになってすみません、ヒューゴー殿下。ですがわたし、どうしてもあのお屋敷を出たくて……」
リネットが呟くと、ヒューゴーは「そうなの? どうして?」と首をかしげた。キースは呆れたように大きく息を吐いた。
「少しは自分で考えろ。お前だって、ベッカー公爵とアデラがリネットにどんな科白を吐いていたのか、聞いていたはずだろ」
ヒューゴーに鋭い視線を送るキースを、リネットが宥めた。
「もういいのですよ、キース様。それよりヒューゴー殿下……今日はお姉様とデートのはずでしたよね?」
とたん。ヒューゴーはぷいと顔を背けた。子どもかお前は。キースが呟きながら、腕を組む。
「アデラ嬢と、デートに行かなかったそうだな」
「…………」
沈黙するヒューゴー。リネットは、姉の言っていたことは本当だったのだと思った。
「あの、ヒューゴー殿下。姉が何か失礼なことをしたのなら、わたしが謝罪します。申し訳ありません」
頭を下げようとするリネットを、キースが止めた。
「きみがあの姉のために頭を下げる必要などない。それにヒューゴーは、これまできみに散々失礼なことを言ってきたんだ。尚更その必要はない」
「けれど……」
その時。ヒューゴーが「……失礼なことって言うか、ひどいこと言われた」とぽつりともらし、アデラとのやり取りをゆっくり語った。それは、リネットとキースが想像していたものとは違っていた。
(……お姉様が一方的にデートをキャンセルしたのかと思っていたけれど、どうやら違ったようね)
ヒューゴーにデートをキャンセルされたことを知られたくなくて、あんな言い方をしたのか。考えてみれば、実にアデラらしかった。そんな思いを抱きながらも全てを聞き終えたリネットとキースは、何とも言えない顔をした。
「──どっちもどっちだな」
そう吐き捨てたキースに、ヒューゴーが食ってかかる。
「……そりゃ近付くなって言った僕も悪いけど! 男だって苦手なものの一つや二つ、あるものでしょ? ね、リネット嬢!」
リネットが「……ええ、まあ」と目をそらせる。ヒューゴーがずいっと顔を近付けてきたが、すぐにキースに首根っこを掴まれ、遠ざけられた。
「何をするんだよ、兄上!」
「わたしの婚約者に近付きすぎだ──しかし、ヒューゴー。一年見ない間に随分と我が儘になってしまったな。前はここまで酷くはなかったはずなのに」
「そうなのですか?」
「……ああ。まあ、想像はつく。恐らくはわたしがいない間に、母上や侍女たちが甘やかし過ぎたのだろう。わたしがいなければ、それを注意する者もいなかっただろうし──とは言え、もともと充分過ぎるほど甘やかされてはいたが」
ヒューゴーが「そ、そんなことない!」とむきになって否定する。キースは大きくため息をついた。
「リネットのことと共に、それらも父上と母上に進言するとしよう。では、行こうか。リネット」
「はい」
「ま、待って! リネッ──っ」
ぱし。
ヒューゴーが伸ばした手は、キースに止められた。そしてキースは、ヒューゴーの耳元で「──いまさらリネットに近付こうなどとは思うなよ」と、冷たい声音でそっと囁いた。リネットには、むろんその声は届いていない。
さっと顔色を変えるヒューゴー。リネットが頭に疑問符を浮かべるが、キースに「何でもない。行こう」と背を押されたので、そのまま振り返ることなく歩きはじめた。
ヒューゴーはしばらく、その場から動くことが出来なかった。
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