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──半年後。
一足先に学園を卒業したアデラだったが、いまだに婚約者どころか、恋人すらいないらしい。恐らくはリネットと張り合っているのか。王族以外の方とお付き合いするつもりはありません、と公言しているらしいが、もはや社交界にもアデラの悪評は広まりきっているので、そもそも貴族から交際を申し込まれることなど、もうないだろう。
アデラの取り巻きも、恋人や婚約者ができたので、学園を卒業してからはアデラと距離をとるようになった。
つまりは、もう誰もアデラを相手にしなくなったのだ。
さんざん人の婚約者や恋人を奪ってきた報いだろう。だがアデラは、まだ気付いていない。社交界に出ても誰も近付いてこないのは、自分が王族以外は相手にしないと公言したからだと思っている。
王族。つまりアデラは、ヒューゴーとなら婚約してもいいと暗に言っているのだが、ヒューゴーはいま、この国にはいない。
甘やかし過ぎたと反省した母親が、キースが行っていた友好国に、お前も何年か留学してきなさいとヒューゴーに命じたためだ。城からあまり出たことがない、箱入り息子のヒューゴーにとって、それは絶望に等しいことだった。絶対に嫌だとごねにごね、泣きまくっていたヒューゴーだが、母親の命には逆らえず。
今は慣れない土地で、母親と侍女のように甘やかしてくれる存在もなく。はじめての荒波に揉まれ、泣きながら毎日を過ごしているらしい。
『リネット。どうすればいいだろうか。ヒューゴー殿下に手紙を送ったが、もうアデラに興味はないし、それどころではないとの返答だった。キース殿下に頼んで、他国の王族の方を紹介してもらうわけにはいかないだろうか。このままでは、我が家の跡継ぎがいなくなってしまう。良い返事を待っているよ』
リネットは王宮にある一室にて。冷めた双眸で父親からの手紙を一読するなり、それをテーブルに置いた。正面に座るキースが苦笑する。
「何通目の手紙だろうね」
「途中で数えるのを止めてしまいましたので……久しぶりに中身を見ましたが、相変わらずのようです」
ため息をつき、紅茶を飲むリネット。窓からは朝の光が柔く差し込んでくる。キースはテーブルに置かれた手紙を手に取り、ざっと読んだ。
「──なるほど。確かに。この前は学園にまで押し掛けてきたようだし、なりふり構わずとなってきたな。リネットはもう、ベッカー公爵家から離籍しているというのに、何ともしつこいことだ」
「でも、キース殿下がつけてくれた護衛の方たちが追い返してくれましたから」
「……本当は、わたしがきみを守りたかったのだけれどね」
「そのお気持ちだけで充分です。キース殿下は、お忙しい方ですから」
キースは「王となるには、思っていたよりもずっと学ぶことがあるようだからな」と苦笑した。
「はい。でも、だからこそ、わたしが支えますよ」
きっぱりと言い切るリネット。頼もしくも、見惚れてしまう。キースは嬉しそうに頬を緩めながら立ち上がり「──では。今日も共に、勉学に励むとしようか」と手を差し出した。はい。リネットが手を重ねる。
こうしてまた、リネットにとって、幸せで、充実した一日がはじまる。
─おわり─
一足先に学園を卒業したアデラだったが、いまだに婚約者どころか、恋人すらいないらしい。恐らくはリネットと張り合っているのか。王族以外の方とお付き合いするつもりはありません、と公言しているらしいが、もはや社交界にもアデラの悪評は広まりきっているので、そもそも貴族から交際を申し込まれることなど、もうないだろう。
アデラの取り巻きも、恋人や婚約者ができたので、学園を卒業してからはアデラと距離をとるようになった。
つまりは、もう誰もアデラを相手にしなくなったのだ。
さんざん人の婚約者や恋人を奪ってきた報いだろう。だがアデラは、まだ気付いていない。社交界に出ても誰も近付いてこないのは、自分が王族以外は相手にしないと公言したからだと思っている。
王族。つまりアデラは、ヒューゴーとなら婚約してもいいと暗に言っているのだが、ヒューゴーはいま、この国にはいない。
甘やかし過ぎたと反省した母親が、キースが行っていた友好国に、お前も何年か留学してきなさいとヒューゴーに命じたためだ。城からあまり出たことがない、箱入り息子のヒューゴーにとって、それは絶望に等しいことだった。絶対に嫌だとごねにごね、泣きまくっていたヒューゴーだが、母親の命には逆らえず。
今は慣れない土地で、母親と侍女のように甘やかしてくれる存在もなく。はじめての荒波に揉まれ、泣きながら毎日を過ごしているらしい。
『リネット。どうすればいいだろうか。ヒューゴー殿下に手紙を送ったが、もうアデラに興味はないし、それどころではないとの返答だった。キース殿下に頼んで、他国の王族の方を紹介してもらうわけにはいかないだろうか。このままでは、我が家の跡継ぎがいなくなってしまう。良い返事を待っているよ』
リネットは王宮にある一室にて。冷めた双眸で父親からの手紙を一読するなり、それをテーブルに置いた。正面に座るキースが苦笑する。
「何通目の手紙だろうね」
「途中で数えるのを止めてしまいましたので……久しぶりに中身を見ましたが、相変わらずのようです」
ため息をつき、紅茶を飲むリネット。窓からは朝の光が柔く差し込んでくる。キースはテーブルに置かれた手紙を手に取り、ざっと読んだ。
「──なるほど。確かに。この前は学園にまで押し掛けてきたようだし、なりふり構わずとなってきたな。リネットはもう、ベッカー公爵家から離籍しているというのに、何ともしつこいことだ」
「でも、キース殿下がつけてくれた護衛の方たちが追い返してくれましたから」
「……本当は、わたしがきみを守りたかったのだけれどね」
「そのお気持ちだけで充分です。キース殿下は、お忙しい方ですから」
キースは「王となるには、思っていたよりもずっと学ぶことがあるようだからな」と苦笑した。
「はい。でも、だからこそ、わたしが支えますよ」
きっぱりと言い切るリネット。頼もしくも、見惚れてしまう。キースは嬉しそうに頬を緩めながら立ち上がり「──では。今日も共に、勉学に励むとしようか」と手を差し出した。はい。リネットが手を重ねる。
こうしてまた、リネットにとって、幸せで、充実した一日がはじまる。
─おわり─
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