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 よほどその行為に熱中していたのだろう。扉のすぐそばで、トマスがアラーナの名を叫んだときには気付かなかったのか、ソファーで絡み合う男女は、扉が開いてはじめて動きを止めた。

 ソファーに横になる女性に覆い被さるようにしていたエイベルが、アラーナの顔を認識するなり、不快そうに舌打ちした。

「…………っ」

 申し訳なさそうにするわけでも、気まずそうにするわけでもなく、エイベルはまず、苛立ちを向けてきた。それに、アラーナは少なからずショックを受けていた。

 ──でも。

「あ……何だ、お姉様でしたの」

 乱れた衣服はそのままに、ソファーから上半身を起こしたのは、確かに、アラーナの実妹の、アヴリルだった。

「アヴリル……」

 目を見開くアラーナに、アヴリルは、ぷっと吹き出した。

「え、その顔は何ですか? まさか、あたしたちの関係、本当に気付いていなかったのですか?」

「そういうな、アヴリル。これでも一応、隠していたのだからな。まあ、逆にこれでスッキリしたとも言えるがな」

 服を整えたエイベルが、アラーナに近付いてきた。

「見たとおり、ぼくが愛しているのはアヴリルだ。けれどお前も、薄々は感じていたのだろう? 二人で出かけたことは数えるほどだったし、これまでぼくは、お前に指一本触れてこなかったのだからな」

 アラーナは俯き、スカートの裾を強く握った。

「……ならばどうして、わたしと婚約なさったのですか。妹を選べば良かったではないですか」

 第一王子の婚約者候補の中には、アヴリルもいた。けれどエイベルが選んだのは、アラーナだった。あれがどれほど嬉しかったか。

 ──なのに。

「聞きたいか」

 エイベルは鼻で笑い、語りはじめた。

「お前を選んだのには、二つの理由がある。王妃の仕事は、はたで見ているよりもよほど大変なんだ。子どものころから母上を見ていたぼくは、それを痛いほど理解していた。そんな役目を、愛しい人にさせたいと思う男がいるか? その点、お前の趣味は勉学と聞いていたからな」

 そうそう。アヴリルが笑う。

「二つ目はな。子どもだ」

 アラーナが「子ども……?」と繰り返すと、エイベルは、そうだ、と答えた。

「ぼくはお前と子作りするつもりはない。ぼくが欲しいのは、アヴリルとの子だ。お前とアヴリルは姉妹だから、きっと見た目でばれることはないだろう?」

 エイベルが言わんとすることに、アラーナだけでなく、傍にいたトマスでさえ、声をなくしていた。

「……エイベル様とアヴリルの子を、エイベル様とわたしの子とするということですか」

「そうだ。我ながら、良い案だろう? アヴリルが王妃教育など受けていたら、こうして毎日会うことが出来なかっただろうし、お前がぼくの仕事をせっせと手伝ってくれているから、こうして時間がとれる。お前には、感謝しているぞ」


 何の悪びれもなく、エイベルは、アラーナの肩をぽんぽんと叩いた。
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