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「あたし、ドジで。お屋敷でもヘマばかりで馬鹿にされて育って……入学してからもすぐ、学園の廊下で、なにもないところで転んでしまったんです。そんな自分が情けなくて泣きそうになったとき、優しく声をかけてくれたのがベイジル様でっ」
それは、一人で学園の食堂に向かっていた、昼休みのこと。その日、ベイジルは風邪で学園を休んでいた。
廊下で唐突に話し始めたネリーに、一瞬何事かとぽかんとしていたクラリッサだったが、周りに生徒たちが集まってきたことにはっとし、咄嗟にネリーの腕を掴んだ。人気のないところに移動しましょうと小声で囁くが、理解できないネリーが抵抗する。
「は、離してください! まだお話がっ」
「ええ、ちゃんと聞きます。でもそれは、誰か別の人に聞かれてもいい内容なのですか?」
興奮していてそこまで考えていなかったのか、ネリーは「……いいえ」と、大人しくなり、人気のない空き教室までくると、勢いよく頭を下げた。
「すみません……ベイジル様がお休みだと知って、今日しかないと、朝からずっとクラリッサ様に声をかけるタイミングを見計らっていたんで、周りが見えていませんでした……」
「いいのですよ。それより、どうか続きを聞かせてください」
はやる気持ちをおさえ、先を促す。普通なら怒るか、不審がるかのどちらかだろうが、とにかくクラリッサは、目の前の令嬢がベイジルとどういう関係なのか、早く知りたくて仕方がなかった。
ネリーはそんなクラリッサを疑うことなく、どこまで話したっけ、と呟く。
「え、ええと。それからもベイジル様はドジなあたしをなにかと気にかけてくれて、声をかけてくれて。あの、誕生日プレゼントまで用意してくれてっ」
「そうですか」
それで、と。さらに先を促すクラリッサに、ここではじめてネリーは首を捻った。
「お、怒らないのですか?」
「なぜ? 気にかけ、声をかけ、誕生日プレゼントを渡しただけでしょう? それなら、学友でもします」
余裕があるように映ったのか。ネリーはムッと頬を膨らませた。
「愛してると囁かれ、口付けもしました。ただの学友が、そんなことすると思いますか?」
クラリッサが口元を手で覆う。それはむしろ歓喜からした行動だったのだが、ショックを受けたと勘違いしたネリーは、勝ち誇ったように口角を上げた。
「ベイジル様が本当に愛しているのはあたしなんです。でも、あたしも貴族令嬢ですから、家のためにしたくもない結婚をするのは仕方ないと思っていました。でもベイジル様は、クラリッサ様の束縛が、強過ぎる愛が重いってよく悩んでらして……そしたら、ベイジル様がかわいそうだなって。あたしなら、絶対ベイジル様を幸せにできるのにって」
よくもまあそんなことが言えたものだと、クラリッサは心底軽蔑した。学園に入学してからというもの。男女関係なく、クラリッサが別の誰かと会話するだけで、あからさまに不機嫌になり、無視をするようになったベイジル。それが面倒でありストレスで、クラリッサは他人との会話を避けるようになった。
結果、半年経ついま、学友は一人もつくれていない。
怒りと悔しさを、爪が食い込むほどの強さで握ったこぶしにおさめ、クラリッサはその感情を綺麗に隠し、ネリーに問いかけた。
「──本当に?」
「え?」
「あなたなら、ベイジルを幸せにできるのですか?」
ネリーが「馬鹿にしないでください!」と目を吊り上げた。
「なにを言っても、あなたがベイジル様と別れないのはわかっています。でも、ベイジル様が本当に愛しているのはあなたではなく、あたしだということを知ってほしかった。いいですか。これでもまだ態度を改めないなら、あなたの前からベイジル様が居なくなっちゃう可能性もあるんですよ?!」
はあはあと肩で息をするネリー。
クラリッサは緩みそうになる口元を手でそっと隠し、そうですか、と呟いた。
それは、一人で学園の食堂に向かっていた、昼休みのこと。その日、ベイジルは風邪で学園を休んでいた。
廊下で唐突に話し始めたネリーに、一瞬何事かとぽかんとしていたクラリッサだったが、周りに生徒たちが集まってきたことにはっとし、咄嗟にネリーの腕を掴んだ。人気のないところに移動しましょうと小声で囁くが、理解できないネリーが抵抗する。
「は、離してください! まだお話がっ」
「ええ、ちゃんと聞きます。でもそれは、誰か別の人に聞かれてもいい内容なのですか?」
興奮していてそこまで考えていなかったのか、ネリーは「……いいえ」と、大人しくなり、人気のない空き教室までくると、勢いよく頭を下げた。
「すみません……ベイジル様がお休みだと知って、今日しかないと、朝からずっとクラリッサ様に声をかけるタイミングを見計らっていたんで、周りが見えていませんでした……」
「いいのですよ。それより、どうか続きを聞かせてください」
はやる気持ちをおさえ、先を促す。普通なら怒るか、不審がるかのどちらかだろうが、とにかくクラリッサは、目の前の令嬢がベイジルとどういう関係なのか、早く知りたくて仕方がなかった。
ネリーはそんなクラリッサを疑うことなく、どこまで話したっけ、と呟く。
「え、ええと。それからもベイジル様はドジなあたしをなにかと気にかけてくれて、声をかけてくれて。あの、誕生日プレゼントまで用意してくれてっ」
「そうですか」
それで、と。さらに先を促すクラリッサに、ここではじめてネリーは首を捻った。
「お、怒らないのですか?」
「なぜ? 気にかけ、声をかけ、誕生日プレゼントを渡しただけでしょう? それなら、学友でもします」
余裕があるように映ったのか。ネリーはムッと頬を膨らませた。
「愛してると囁かれ、口付けもしました。ただの学友が、そんなことすると思いますか?」
クラリッサが口元を手で覆う。それはむしろ歓喜からした行動だったのだが、ショックを受けたと勘違いしたネリーは、勝ち誇ったように口角を上げた。
「ベイジル様が本当に愛しているのはあたしなんです。でも、あたしも貴族令嬢ですから、家のためにしたくもない結婚をするのは仕方ないと思っていました。でもベイジル様は、クラリッサ様の束縛が、強過ぎる愛が重いってよく悩んでらして……そしたら、ベイジル様がかわいそうだなって。あたしなら、絶対ベイジル様を幸せにできるのにって」
よくもまあそんなことが言えたものだと、クラリッサは心底軽蔑した。学園に入学してからというもの。男女関係なく、クラリッサが別の誰かと会話するだけで、あからさまに不機嫌になり、無視をするようになったベイジル。それが面倒でありストレスで、クラリッサは他人との会話を避けるようになった。
結果、半年経ついま、学友は一人もつくれていない。
怒りと悔しさを、爪が食い込むほどの強さで握ったこぶしにおさめ、クラリッサはその感情を綺麗に隠し、ネリーに問いかけた。
「──本当に?」
「え?」
「あなたなら、ベイジルを幸せにできるのですか?」
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「なにを言っても、あなたがベイジル様と別れないのはわかっています。でも、ベイジル様が本当に愛しているのはあなたではなく、あたしだということを知ってほしかった。いいですか。これでもまだ態度を改めないなら、あなたの前からベイジル様が居なくなっちゃう可能性もあるんですよ?!」
はあはあと肩で息をするネリー。
クラリッサは緩みそうになる口元を手でそっと隠し、そうですか、と呟いた。
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