どうやら、我慢する必要はなかったみたいです。

ふまさ

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 ベイジルは怪訝な顔をしていたが、ロペス伯爵のその台詞は、クラリッサの心にストンと落ちた。

 ──ああ、そうだったのね。

 妙に納得ができて、なるほどと感心してしまった。それほどまでに、しっくりときた。

「病気だなんてそんな……それはあまりにも酷い言いようではないでしょうか」

 この期に及んでまだ被害者面をするベイジルに、ロペス伯爵は諦めの深いため息をつき、ネリーを見た。

「そこの子爵家の娘。貴様はクラリッサとは違い、ベイジルを愛していたはず。ベイジルはクラリッサから婚約破棄され、言わば自由の身となる。付き合いたいなら、止めはせん。どうだ?」

 ギョッとしたベイジルが声を上げようとした瞬間、ネリーが悲鳴のように叫んだ。

「ぜ、絶対に嫌です!」

 同意見だったが、ネリーに言われことが意外だったのか、ベイジルは目を見張った。

「だって。こ、こんなに頭のおかしい人だなんて知らなかったから……っ」

「──まあ、仮面を被ったベイジルは、怖いぐらいに良い人を演じきっていましたからね」

 クラリッサの台詞に、実の親すら騙すほどにな、とロペス伯爵が呟き、さらにモンテス伯爵夫妻が続く。

「このような男、野放しにしておくのは危険ではないですか? ねえ、あなた」

「むろんだ」

 ベイジルが、絶望したようにあちこちに視線を彷徨わせる。支配下に置いていたはずの女、二人。絶対的な信頼を勝ち取ってきたと思っていた父親と、モンテス伯爵夫妻。

 なのに、ここにはもう、ベイジルの味方は一人もいなかった。
 
 
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