幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ

文字の大きさ
2 / 34

2

しおりを挟む
「……あの。奥様。シンディー様のことなんですけど」

「? はい。何でしょう」

 ハーン伯爵家の長男であるランドルと結婚した伯爵家の長女、セシリアは、今日も早くからメイドのアルマと一緒に朝食を作っていた。

 この屋敷には、使用人が二人しかいない。メイドが一人と、馭者の男が一人。屋敷の大きさからして、メイド一人では到底手がまわらず、その労力を補うように、セシリアは当然のようにメイドのアルマと同等量の家事をこなしていた。

 セシリアは使用人相手でも、決して偉ぶったりしない。前に働いていたお屋敷では、屋敷の主に酷い扱いを受けていたアルマは、五つ年下のセシリアのことをとても慕っていた。セシリアも、まるで友人のようにアルマと接してくれていた。だからこそ、黙ってはいられなかった。

 今朝がた。厠へと起きてきた男と廊下ですれ違った。夜遅くに戻ってきたらしいこの屋敷のもう一人の使用人は、眠気眼でアルマにこそっともらした。

『──ついに、シンディー様が妊娠したらしいぞ』

 この屋敷にいる者は、セシリアも含め、ランドルがシンディーのところに頻繁に通いつめていることは承知している。だが、何も言わないだけで、使用人たちは、ランドルの行いには辟易していた。

 これまでも男は、ランドルとシンディーとのことを、アルマにだけは愚痴交じりに全てを話してきた。アルマは、その話しをセシリアに一度だって伝えたことはない。傷付けたくなかったから。

 でも、今回は、あまりにも。

(……それに援助の額を増やすってことは、もしかして……っ)

 アルマは、こぶしを強く握った。

「……シンディー様が、ランドル様の子を、宿したようです」

 セシリアは目を見開いたまま、凍りついた。ランドルがシンディーのところに通っていることは知っていても、男女の関係にあることは、セシリアだけは知らなかったから。

「……そう、ですか」

 セシリアがうつむく。

『シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ』

 脳裏に響く、ランドルの笑み。信じていたのに。でも、頭の何処かで、やっぱりという自分の声が響いた。

 ──本当は、とっくに気付いていた。気付いていながらも、ランドルの言葉を信じたかっただけかもしれない。

 ほら。だって。

 涙一つ、こぼれやしない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

【完結】好きです!あと何回言ったらわたしを好きになってくれますか?

たろ
恋愛
「貴方が好きです」 会うと必ず伝えるわたしの気持ち。 「ごめん、無理」 必ず返って来る答え。 わかっているんだけど、どうしても伝えたい。 だって時間がないの。 タイムリミットまであと数日。 わたしが彼に会えるのは。 両片思いのお話です。 たぶん5話前後で終わると思います。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

【完結】順序を守り過ぎる婚約者から、婚約破棄されました。〜幼馴染と先に婚約してたって……五歳のおままごとで誓った婚約も有効なんですか?〜

よどら文鳥
恋愛
「本当に申し訳ないんだが、私はやはり順序は守らなければいけないと思うんだ。婚約破棄してほしい」  いきなり婚約破棄を告げられました。  実は婚約者の幼馴染と昔、私よりも先に婚約をしていたそうです。  ただ、小さい頃に国外へ行ってしまったらしく、婚約も無くなってしまったのだとか。  しかし、最近になって幼馴染さんは婚約の約束を守るために(?)王都へ帰ってきたそうです。  私との婚約は政略的なもので、愛も特に芽生えませんでした。悔しさもなければ後悔もありません。  婚約者をこれで嫌いになったというわけではありませんから、今後の活躍と幸せを期待するとしましょうか。  しかし、後に先に婚約した内容を聞く機会があって、驚いてしまいました。  どうやら私の元婚約者は、五歳のときにおままごとで結婚を誓った約束を、しっかりと守ろうとしているようです。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

処理中です...