──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ

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 貴族社会は狭く、噂はあっという間に広がるものだ。

 オーレリアが学園に入学したときにはすでに、ヴェッター伯爵家が借金を背負っていることが周知されていた。家を立て直すため、恋愛結婚はあきらめ、どんな条件であろうと、お金を援助してくれる人が相手ならば、家のために受け入れよう。そう覚悟していたオーレリアに話しかけてきくれたのが、パットだった。


「その、何だか弱みにつけこむようで申し訳ないのだけれど……」

 パットは、愛する人がいると語った。けれど相手は平民で、でも定期的に会いたくて。それでもよければ、考えてみてくれないかと。

 はじめて会話してみたが、見た目も話し方も温厚で、オーレリアは好印象を抱いた。だから、迷いながらもオーレリアはこう答えた。

「……それは、構いません。でも、あの……ご存知の通りヴェッター家はお金に困っていて、ですね……援助はしてくださるのでしょうか……?」

 とたん、パットは目を輝かせた。

「え、本当? この条件でも、ぼくとお付き合いしてくれるの?」

「……えと、はい」

「そっか、ありがとう。援助のことは、ぼくの判断で約束はできないから、父上に相談してから返事をするよ。少し時間をもらえるかな?」

 今度はオーレリアが「! よ、よろしくお願いします」と目を輝かせ、頭をさげた。


 両親の承諾をもらうため、クーヘン伯爵の領地に直接赴いたパットが次に学園に顔を出したのは、それから十日間も経ってからのことだった。

「オーレリア嬢!」

 何の音沙汰もなかったある朝。学園の廊下を歩いていたオーレリアを呼び止める声があった。振り返るとそこには笑顔のパットがいた。

「パット様……」

 正直、何かあったのではないかと不安だったオーレリアは、静かに安堵していた。そんなオーレリアに近付いてきたパットは、さっそくだけれど、と口火を切った。

「父上が、ぼくが言った条件を呑んだうえでぼくと結婚してくれるなら、喜んで援助すると約束してくれたよ」

 オーレリアは「ほ、本当ですか?!」と興奮気味に声をあげた。

「もちろん。それでね。善は急げとばかりに、きみの両親──ヴェッター伯爵にあいさつに行きたいと言っていて」

「! わ、わかりました。さっそく、両親に手紙を書いて、早馬で送るとします」

「そうしてくれると助かるよ」


 そうして、怖いぐらいにトントン拍子で話しは進んだ。互いに利害が一致していたから。パットも、オーレリアたちも、そう思っていた。けれど今思えば、クーヘン伯爵たちは、相当焦っていたのだと思う。

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