あなたがわたしを捨てた理由。

ふまさ

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 怒鳴られたアーリンは、びくりと身体を震わせたあと、哀しげに笑った。

「……ずいぶん、口が悪くなりましたね」

「心配しなくても、きみにだけだ」

「……そうですか。そこまで、嫌われてしまいましたか」

 では、失礼します。
 小さく呟くと、アーリンは屋上を後にした。階段をゆっくりとくだる。一歩。一歩。けれど、ぴたっと足を止めた。

「…………っっ」

 抑えていた感情が、崩壊したように一気に溢れてきた。冷たい表情、吐き捨てられた言葉。はっきりとした、拒絶。

 未練があるから、嫌われる。わかっている。でも、どうしようもないのだ。

「……なんで、好きでいることぐらい、許してくれないの……っ」

 ぽたぽたと、涙が階段に落ちる。

 ──ああ、そうか。

 アーリンは、唐突に理解した。

『僕への当てつけか』

「……わたしが、飛び降りると思ったのね」

 そんな考えがあったわけではないけれど。知らずに、頭の隅にはあったのかもしれない。引き寄せられたのは、そのせいだろうか。

「……わたしが死ねば、少しは、哀しんでくれるかしら」

 ふっ。思わず自嘲する。哀しむより、罪悪感に苛まれるだろうと思ったから。

 でもそれで、一生、あなたの中に生き続けらるなら──。


「──いま、なんて言った?」


 上から降ってきた声に、アーリンは涙を拭いながら「……盗み聞き、しないでください」と弱々しく抗議した。

「わかっていますよ。わたしが死んでも、あなたは哀しまない。ただ、罪悪感に苛まれるだけ。そうでしょう?」

 嫌味っぽく言い、振り返る。予想と反し、クラレンスの顔は、真っ青だった。ずきっ。アーリンの胸が痛む。

「……すみません。言い過ぎました。自害なんてしませんから、安心してください」

「……本当、に?」

 俯き、僅かに声を震わせながら、クラレンスが問うてくる。昔の、心配性のクラレンスの面影が、脳裏を過った。


「──わたしが自害すれば、わたしはあなたの中で、ずっと生きれますか?」


 気付けば、声に出していた。はっとしたときにはすでに遅く。クラレンスの顔色は、ますます悪くなっていた。これでは脅迫だと、アーリンはすぐに後悔した。

「……クラレンス……?」

 謝罪を口にしようとしたアーリンが、不思議そうに首を傾げた。クラレンスの目から、涙がぽろりと零れたからだ。

「……なんで、そんなこと」

 掠れた声に「ご、ごめんなさい。わたし……」と、アーリンが慌てて謝罪する。

「……僕が、なんのために」

「え……?」

 しまったとばかりに、クラレンスは自分の口元を手で覆った。これでは、なにか隠してますと言っているようなもので。


 アーリンの目に、僅かな光が灯った。
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