あなたがわたしを捨てた理由。

ふまさ

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 アーリンは強く拳を握ると、覚悟を決めたように階段を駆け上がり、驚くクラレンスの横をすり抜け、屋上へと戻った。

「アーリン……?!」

 クラレンスが追いかける。アーリンは、柵に手をかけ、そこで止まって、と叫んだ。

「……なにをするつもりだ!」

「わたし、気付いてしまったの。あなたに捨てられたこと、自分で思っていたより、ずっと哀しかったこと。それこそ、死んでしまいたいと無意識に願うぐらい」

「……止めてくれ……お願いだから」

「あなたは、グロリア様を好きになってしまった。感情はコントロールできないから、あなたは悪くない。諦めるしかない。そう思っていた」

「……そうだ。だから、僕のことは忘れて、他の人とっ」

「できるものなら、とっくにやっているわ。言ったでしょう? 感情は、コントロールできないの。わたしはまだ、どうしようもなく、あなたが好き」

「……そんなの、知らない……」

「あなたが、わたしを嫌いになった。他の人を好きになった。それなら、どんなに哀しくても、諦めるしかないのはわかっている。でも、そうでないなら、諦められない」

「…………」

「なにか訳があるのなら、話して。それで納得できたら、わたしは二度と、こんな真似はしない。生涯、あなたに話しかけたりしないと誓うわ」

「……きみは、きっと信じない。いや、他の誰も……」

「なら、わたしはここから飛び降りるわ」

 クラレンスが、苦しそうに顔を歪ませる。

「……それじゃ、脅迫だよ」

「わかっている。これが最低な行為だってことも。これで嫌われたとしても、かまわない」

 クラレンスは俯き、沈黙した。一分。二分。時が静かに過ぎていく。アーリンは、待った。声をかけることもせず、クラレンスが決断してくれるのを。


「──夢を見たんだ。長い、長い夢を」


 やがて吹っ切れたように、アーリンが知っている柔らかい表情で、クラレンスは告げた。

「夢?」

 繰り返すアーリンに、クラレンスは、そうだよ、と答えた。

「あれは、怖いほどにリアルな夢だった。いまでもあれは、本当に夢だったのかと、疑いたくなるほどの臨場感だった」

 クラレンスはゆっくり足を進めると、アーリンを優しく抱き締めた。

「あんなに酷いことばかりしてきたのに、まだ僕を好きでいてくれたんだね。きみは、大馬鹿者だ」

 クラレンスだ。アーリンは震えた。おさまったはずの涙が、別の意味を持ち、溢れてくる。

「……わたしの知ってる、クラレンスだぁ……っ」

 懐かしい匂い、覚えのある体温。もうそれだけで、アーリンの感情は爆発した。

 声を上げて泣くアーリンに、クラレンスが、ごめんね、と謝罪する。その目には、涙が浮かんでいた。

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