すべてはあなたの、望むまま。

ふまさ

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(……何それ。愛しているのは、あたしの顔と身体だけだったってこと?)

 ふざけんじゃないわよ。魔法がとかれたザカリーが、またグチグチと言い訳し、人のせいにする姿を見ながら、ベサニーは胸中で吐き捨てた。

(どこまでふざけてんの? 調子にのるのにも、限度があんのよ。そもそもあんたが第一王子じゃなかったら、相手になんかしなかったわよ。だって──)

 ベサニーは、ぎりっと奥歯を噛んだ。

「──婚約者は醜い豚だと、あたしに散々おっしゃっていたではありませんか」

 怒気を宿らせた双眸で呟くと、ザカリーはぎろっと睨み付けてきた。

「う、嘘をつくな!」

「嘘をついているのはあなたです、ザカリー殿下。ブライズ様を醜い豚呼ばわりしていたことを存じているのは、あたしだけではありません。それはあなたが一番、理解しているはずなのでは?」

 少なくとも、ザカリーの側近、取り巻きたちは、一度は耳にしているはずだ。探せば他にもいるだろう。それほどまでに、ザカリーはブライズのいないところで頻繁に、ブライズを罵り、嘲笑っていた。

「……たかが伯爵令嬢の分際で、第一王子であるぼくを脅迫するつもりか! 不敬罪に問うてやってもいいんだぞ!?」

 ──ああ、ほんと。こいつは。

 ベサニーは苛々しながら、こぶしを握り締めた。怒りで血管が切れそうだった。

「……公爵令嬢が醜い豚だっていうなら、あんたとお似合いよ」

 ベサニーの両親が「止めなさい!」と、青い顔でベサニーの口を手で塞ぐ。ベサニーはそれを力尽くではがし、叫んだ。

「醜い豚は、あんたもでしょう?! おまけに嘘つきで、すぐ人に罪をなすりつける心の醜さ。あんたが王子じゃなかったら、誰もあんたなんか相手にしないわよ!!」

「…………は?」
 
 訳がわからない。と、ザカリーがぽかんとする。

 すると。

「……貴様の浮気相手に同調するのはしゃくだが、その通りだな」

 低音の声に振り返ったザカリーの左頬を、コスキネン公爵が、こぶしで思い切り殴りつけた。蛙が潰れたような声を出しながらザカリーが吹っ飛び、床に転がる。

 ぴくぴくと身体を震わすザカリーに、国王がゆっくりと近付いていく。

「──お前。私が病に伏せるのが望みなのか」

 ザカリーは頭も身体もフラフラする中、違います、誤解です、と必死に訴える。

「そうか。まあ、どちらにせよ。お前はコスキネン公爵を激怒させてしまったのだ。その代償は、あまりに大きい。もう私にも、どうすることもできん」

 見捨てるような、見限ったような発言に、ザカリーはさあっと血の気が引いた。

「ち、父上……? まさか息子のぼくより、あんな怪しげな魔法を信じるというのですか?」

「どうであれ、お前が浮気をしていたことは事実だろう。そもそもが、お前が心から愛してくれているのなら一度の裏切りは許そうという、ブライズ嬢の恩情にすぎん」

「だからぼくは、魔女に心を操られていただけです! 信じてください!」

「それは、これから調べればわかることだ。伯爵令嬢の言うことが本当なら、証人など、すぐに出てくる」

 ザカリーが「そ、それは……」と、視線を泳がせ、あからさまに動揺する。国王と王妃は、あまりにもな息子の本性に、頭痛とめまいがした。これほどまでに愚かで、馬鹿だったとはと、頭を抱える。同時に、こんな奴に王位を継がせていたら、国がどうなっていたか。考えただけで、ぞっとした。




「──さて。これで依頼は達成、ということでよろしいでしょうか?」

 魔女がブライズにたずねると、ブライズは赤い目をしながらも、小さく、こくりと頷いた。

「……ええ。もう、よいです。報酬は、外にいる使用人から受け取ってください……」

 承知いたしました。魔女は頭を垂れると、ザカリーにおもむろに向き直った。

「王子様。妾にしてやってもいいというお言葉、とても嬉しかったです。それでは、ご機嫌よう」

 にっこり微笑むと、魔女は広間を後にした。背後から、伯爵令嬢の叫び声が聞こえてきた。

「ぼくの愛は一つではないって、やっぱりそういう意味だったのね!?」

 それから怒号と、わめき散らす泣き声が広間から響いてきた。


 ──何十年経っても、やはり人の色恋は、面白いわ。


 魔女はくすりと笑うと、軽やかな足取りで報酬を受け取り、西の森の奥深くへと、帰っていった。



              ─おわり─
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