大好きだったあなたはもう、嫌悪と恐怖の対象でしかありません。

ふまさ

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「──いま声をあげたということは、シュルツ伯爵家を辞めたいと解釈していいんだな?」

 ランゲ公爵があらためて訊ねると、ジャスパー付きの侍女は戸惑いながらもこくんとうなずいた。

「その理由は?」

 侍女はぎゅっとスカートを握り、顔をあげようとしない。しばらくして。小さく「ジャ、ジャスパー様に……」と言いかけたところで、口をふさがれたままのジャスパーが唸った。

 びくっ。傍目にもわかるほど、侍女の身体が揺れた。マリーはこの侍女と、ほとんど接したことがなかった。マリーがくればいつも、ジャスパーが下がらせてしまっていたからだ。二人きりになりたいから。そんなことを言っていたが、真相はきっと違うのだろう。今ならその理由がわかる気がした。

「大丈夫だ。あいつに手出しはさせない。だから話してくれないか?」

 ランゲ公爵の言葉にも、すっかり怯えてしまった侍女は、口を閉ざしてしまった。何か声をかけなければ。そう思ったマリーの背から、ルイスが戸惑いながらも叫んだ。

「ラ、ランゲ公爵様とマリー様は、ぼくがジャスパーお兄様にいじわるされたこと、信じてくれたよ!」

 侍女はようやく「ルイス様……?」と顔をあげた。

「それでね! ぼくをランゲ公爵家の養子にしてくれるって言ってくれたんだよ! だから信じていいんだよ!」

 必死の呼び掛けに、侍女はぐっと唇を引き結んだ。震えながらも姿勢を正し「……失礼します」と、服を脱ぎはじめた。まわりが焦りながら止めようとするが、ランゲ公爵はそれを手で制した。

「…………っ!」

 シュルツ伯爵の手を振り払い、侍女に飛びかかる勢いだったジャスパー。だが、ランゲ公爵に命じられた、ランゲ公爵の護衛の男により呆気なく取り押さえられた。両腕をうしろに捻られ、呻いている。

 下着を残し、侍女が服をストンと床に落とした。あらわになった肌には、痛々しいほどに無数の傷や痣があった。

 ジャスパーを除いたその場にいる全員が絶句する。見た目にはわからない、服で隠れるところだけを狙いすましたようにつけられた傷や痣。古いものや、新しいものがある。

 誰がやったのか。答えなど聞かなくても、大半の者は理解していた。つい先ほど、振り絞るように侍女の口から出された名前。何より、見たことがないほどに取り乱した様子を見せたその人物に、全員が視線を集めた。

 ──けれど。
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