政略結婚だと思われていたのですね。わかりました。婚約破棄してさしあげます。

ふまさ

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 それからしばらくして。
 ラナは、昨日目撃したことを、包み隠さずリタに語った。ニックとレズリーの声真似までして。

「そこでニックは、レズリーにこう言ったの。『ラナと結婚するのは、お金のためだけだよ。信じて』って」

 リタはずっと、目を見開きっぱなしでラナの話しに耳を傾けている。

「あとは……わたしがニックを好きにならなければとか、位が上だから、わたしはいつもレズリーを見下しているとか──わたしは全てが思い通りにいくと信じて疑ってないとか……そんなことを言っていたわね」

「ちょ、ちょっと待って。ラナ、どうしてそんなに冷静なの?」

 途中から、何故か他人事のように遠い目をしながら淡々と語り出しはじめたラナに、リタが疑問をぶつける。

「冷静に見える?」

「少なくとも、今はそう見えるわ。あれだけニックにべったりで、私に惚気話しばかりしていたラナが──」

「……やめて。馬鹿みたいにニックのてのひらで操られていた自分を思うと、死にたくなる……っ」

 頭を抱え、ラナが「あああああああ」と嘆く。なんだ。我慢していただけか。リタはむしろ、安堵していた。後悔。自分に対する情けなさ。悔しさ。怒りなどあれど、哀しみは伝わってこなかったから。

「……ニックとレズリーに対する情は、もうないのね?」

「ないわ」

 顔を上げ、きっぱりとラナは答えた。

「今日、二人の顔を見て確信したの。あのとき、わたしの中の何かがぷつんと弾けたのは、きっと二人に対する情だわ」

 なんと答えていいかわからず、リタは「……そうなの」とだけ返答する。

「むしろあの二人の顔を見ると、腹が立って仕方がないの。頬をひっぱたいたら駄目かしら。駄目よね」

「どうして? いいと思うけれど。そもそも、どうしておじさまたちに話さないの?」

「お父様たちはニックのこと、とても気に入っているもの。簡単には信じてくれないと思う」

「そうかしら。少なくとも、私はなにも疑ってはいないわ。あなたがそんな嘘をつく理由がないもの」

「……リタはわたしと違って、人を見る目があるから」

 ずん。ラナが落ち込み、肩を落とす。今はどんな慰めも届きそうもない。どうしようか。黙考していたリタは、ふと思った。

「──ニックの親は、このことを承知しているのかしら」

「え?」

「だってニックは、家のためと言ったのでしょう? 公爵家の長女であるラナと婚約するように命じたのは、ニックのご両親である可能性があるわ──どちらにせよ、ニックとレズリーの関係のことは知らないと思うけどね。そんな危ない橋を渡らせる理由がないもの」

「……そう、そうね。確かに」

 その可能性に思い至らなかったラナの顔色が青ざめていく。政略結婚は、貴族間では決して珍しいことではない。でも、わたしたちは違うと思っていた。愛していたから。愛されていると信じて疑っていなかったから。家なんて、爵位なんて関係ない。そう思っていた。なのに。

 ニックの両親も、そうなのだろうか。脳裏に、ニックの両親の優しい顔がよぎる。笑顔も、言葉も。全ては、お金のためだったのかもしれない。

 そう思うと、よけいにやりきれない気持ちになった。深く、深く落ち込みそうなったが、ラナは無理やり自分を奮い立たせ、顔をあげた。

 
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