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「ラナ。あの──」
一日の授業を全て終え、教室を出てきたラナに控えめに声をかけてきたのは、思った通り、ニックだった。近くにレズリーの姿は見えない。
「待たせてごめんなさい、ニック。あら、レズリーは?」
いつものラナにほっとしたのか、ニックが頬をゆるめた。
「今日は、先に帰ってもらったよ。最近は三人でいることが多かったからね──レズリーには悪いけど、久しぶりにラナと二人で帰りたかったから」
なるほど、リタの予想通りね。ラナは心で冷ややかに呟いた。
(……本当はレズリーと二人になりたいくせに)
決して表情や態度など、表には出さないように細心の注意をはらいながら、胸中で毒づく。
「そうなの? レズリーには悪いけど、嬉しいわ」
にこっ。ラナが微笑むと、ニックは満足そうに「じゃあ、帰ろうか」と笑い返してきた。
(──ごめんね。もうその笑顔には、騙されてあげられないのよ)
言葉とは裏腹に、心は何処までも冷えていた。
他愛ないやり取りが続く。昨日まではかけがえのない時間だったが、今はただ、精神をすり減らすだけの時間になっていた。
(……屋敷まで、結構かかるのね。知らなかったわ)
これまでで一番、学園から屋敷までの道のりを長く感じた。ただただ、苦痛だった。どうせ全部演技で、嘘なんでしょ。ずっとそう思っていたせいだろう。
「送ってくれてありがとう、ニック」
屋敷の門の前で、ラナとニックが向き合う。
「わざわざお礼なんていいんだよ。私が好きでやっていることなんだから。お願いだから、例えどんな理由があったとしても、黙って帰るようなことはもうしないでほしい。君の無事を確認するまで、気が気でなかったからね」
「そうなの?」
思わず素で答えてから、確かに愛情はなくても、大事な金づるを失わないためだと考えたらすんなりと納得することが出来た。
「そうだよ。なにより大切な君だからね」
金づるが抜けているわよ──と言ったら、ニックはどのような顔をするのかしら。と、ラナは胸中で呟いてみた。むろん、ニックに届きはしないけれど。
「それでは、また明日ね」
「あ、ああ。また明日」
ニックが若干戸惑って見せたのは、ラナがお茶に誘わなかったことに対してだろう。ラナはニックが屋敷まで送ってくれたさいに、ニックと離れがたくてたまらないときには、よくお茶に誘っていたから。
(……でも、毎回は誘ってはいなかったはずだから、不自然ではないと思うのだけれど)
変に思われたかしら。わずかに動揺しそうになったが、ニックがそれ以上追及することなく背を向けたので、ほっと胸を撫で下ろした。
手をふりながらラナは、とある考えにはっとした。
一日の授業を全て終え、教室を出てきたラナに控えめに声をかけてきたのは、思った通り、ニックだった。近くにレズリーの姿は見えない。
「待たせてごめんなさい、ニック。あら、レズリーは?」
いつものラナにほっとしたのか、ニックが頬をゆるめた。
「今日は、先に帰ってもらったよ。最近は三人でいることが多かったからね──レズリーには悪いけど、久しぶりにラナと二人で帰りたかったから」
なるほど、リタの予想通りね。ラナは心で冷ややかに呟いた。
(……本当はレズリーと二人になりたいくせに)
決して表情や態度など、表には出さないように細心の注意をはらいながら、胸中で毒づく。
「そうなの? レズリーには悪いけど、嬉しいわ」
にこっ。ラナが微笑むと、ニックは満足そうに「じゃあ、帰ろうか」と笑い返してきた。
(──ごめんね。もうその笑顔には、騙されてあげられないのよ)
言葉とは裏腹に、心は何処までも冷えていた。
他愛ないやり取りが続く。昨日まではかけがえのない時間だったが、今はただ、精神をすり減らすだけの時間になっていた。
(……屋敷まで、結構かかるのね。知らなかったわ)
これまでで一番、学園から屋敷までの道のりを長く感じた。ただただ、苦痛だった。どうせ全部演技で、嘘なんでしょ。ずっとそう思っていたせいだろう。
「送ってくれてありがとう、ニック」
屋敷の門の前で、ラナとニックが向き合う。
「わざわざお礼なんていいんだよ。私が好きでやっていることなんだから。お願いだから、例えどんな理由があったとしても、黙って帰るようなことはもうしないでほしい。君の無事を確認するまで、気が気でなかったからね」
「そうなの?」
思わず素で答えてから、確かに愛情はなくても、大事な金づるを失わないためだと考えたらすんなりと納得することが出来た。
「そうだよ。なにより大切な君だからね」
金づるが抜けているわよ──と言ったら、ニックはどのような顔をするのかしら。と、ラナは胸中で呟いてみた。むろん、ニックに届きはしないけれど。
「それでは、また明日ね」
「あ、ああ。また明日」
ニックが若干戸惑って見せたのは、ラナがお茶に誘わなかったことに対してだろう。ラナはニックが屋敷まで送ってくれたさいに、ニックと離れがたくてたまらないときには、よくお茶に誘っていたから。
(……でも、毎回は誘ってはいなかったはずだから、不自然ではないと思うのだけれど)
変に思われたかしら。わずかに動揺しそうになったが、ニックがそれ以上追及することなく背を向けたので、ほっと胸を撫で下ろした。
手をふりながらラナは、とある考えにはっとした。
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