9 / 20
9
しおりを挟む
「直接聞くのが怖いの?」
黙りこむロッティ。リンジーは大袈裟に「仕方のないお嬢様ね」と、ため息をついた。
「なら、ジェフ様の背中を確認してみたらどうかしら」
「……背中?」
「ええ。あたし、行為の最中によくジェフ様の背中に爪をたててしまう癖があってね。つい二日前に抱いてもらったばかりだから、まだ傷が残っているんじゃないかしら」
リンジーが口元に指先をもっていき、目を細める。ロッティの顔色はもう、真っ青だった。
「それでもまだ信じられなくて、直接訊ねる勇気がないのなら、あたしに手紙をちょうだい。住所は教えておいてあげるから」
「……何をするつもりですか」
「あたしとジェフ様が、デートするところを見せてあげる。それと──口付けするところをね」
ロッティが血の気の引いた顔で、口を僅かに半開きにする。それが可笑しくて、リンジーはまた笑ってしまった。
──数日後。
ロッティから手紙が届いた。あなたと夫の逢瀬を確認したいとの内容だった。リンジーは、ついにやったと涙を滲ませた。ロッティはきっと、逢瀬を確認出来れば、別れるつもりだろう。これが成功すれば、ジェフ様が手に入る。
そうすればきっと、親の呪縛からも逃れられる。リンジーはそう思った。
デートの約束は取り付けた。ジェフがロッティが出かける日にしようと言ったので、リンジーはさっそくロッティに手紙を送った。するとすぐに、ジェフから誘いがきた。
次の休日。ロッティは友達と出かけるそうだから、その日にしようと。
(お嬢様のくせに、行動が早くて助かるわ)
リンジーは有頂天だった。これできっと、何もかもうまくいく。やっとあたしが幸せになる番がきたんだわ。お嬢様は今までずっと幸せの中で生きてきたんだもの。少しの哀しみぐらい、味合わせてあげないとね。
そして、デート当日。
街にある、中央に大きな噴水がある広場まで来ると、リンジーはジェフと向かい合った。
「今日はありがとうございました」
「……ああ。こちらこそ」
「ここでお別れですね」
「……そうだね。一人で大丈夫?」
「まだ明るいし、慣れてますから」
リンジーがわざと明るく微笑むと、ジェフの顔が辛そうに歪むのがわかった。
(ふふ。やっぱり、ジェフ様はあたしが好きなんだわ)
確信を持ったリンジーは、一歩、ジェフに近付いた。この広場の何処かにいる、ロッティに見せつけるために、リンジーはジェフと唇を重ねた。
一瞬の間のあと。
顔を真っ青にしたジェフに、リンジーは押された。ジェフがまわりを見渡す。
不倫がばれることを恐れているのは知っている。でもそれは、ロッティが好きだからじゃない。世間体のためだ。
──だって、ジェフ様が一番好きなのはあたしだもの。
(あたしはジェフ様と一緒なら、どんな困難も乗り越えていけると信じているの。だからジェフ様も、信じて)
「……ジェフ様。あたし、やっぱり」
ぱあん。伸ばした手を、ジェフに払われた。ジェフは見たことない鋭い視線で、リンジーを睨み付けてきた。びくっ。リンジーの肩が震える。
「ジェ、ジェフ様……?」
「──もし誰かに見られていたら、どう責任をとるつもりだ?」
「あ、あの」
ジェフが「情けなど、かけるんじゃなかった」と吐き捨て、背を向ける。リンジーが待ってとすがりつく。ジェフはそれを、乱暴に振り払った。
「幻滅したよ。二度と私に近付かないでくれ」
「待って……待ってください……! あたしにはあの人と違ってジェフ様しかいないの! だからっ」
「だから? だから何をしてもいいのか? 人を裏切っても?」
冷たく言いはなつジェフの姿に、リンジーは絶句した。こんなジェフを見たのは、はじめてだった。
(どうして……そんなに世間体が大事なの? あたしよりも……?)
リンジーが手を伸ばす。行かないで。拒絶しないで。あたしを受け入れて。胸中で叫ぶが、返ってくるのは、ジェフの氷のような視線だけ。
動けない。まわりの声も、何もかも聞こえない。そんな中、静かな、澄んだ水のような声音だけがふいに耳に響いてきた。
「──それをあなたが言うの?」
黙りこむロッティ。リンジーは大袈裟に「仕方のないお嬢様ね」と、ため息をついた。
「なら、ジェフ様の背中を確認してみたらどうかしら」
「……背中?」
「ええ。あたし、行為の最中によくジェフ様の背中に爪をたててしまう癖があってね。つい二日前に抱いてもらったばかりだから、まだ傷が残っているんじゃないかしら」
リンジーが口元に指先をもっていき、目を細める。ロッティの顔色はもう、真っ青だった。
「それでもまだ信じられなくて、直接訊ねる勇気がないのなら、あたしに手紙をちょうだい。住所は教えておいてあげるから」
「……何をするつもりですか」
「あたしとジェフ様が、デートするところを見せてあげる。それと──口付けするところをね」
ロッティが血の気の引いた顔で、口を僅かに半開きにする。それが可笑しくて、リンジーはまた笑ってしまった。
──数日後。
ロッティから手紙が届いた。あなたと夫の逢瀬を確認したいとの内容だった。リンジーは、ついにやったと涙を滲ませた。ロッティはきっと、逢瀬を確認出来れば、別れるつもりだろう。これが成功すれば、ジェフ様が手に入る。
そうすればきっと、親の呪縛からも逃れられる。リンジーはそう思った。
デートの約束は取り付けた。ジェフがロッティが出かける日にしようと言ったので、リンジーはさっそくロッティに手紙を送った。するとすぐに、ジェフから誘いがきた。
次の休日。ロッティは友達と出かけるそうだから、その日にしようと。
(お嬢様のくせに、行動が早くて助かるわ)
リンジーは有頂天だった。これできっと、何もかもうまくいく。やっとあたしが幸せになる番がきたんだわ。お嬢様は今までずっと幸せの中で生きてきたんだもの。少しの哀しみぐらい、味合わせてあげないとね。
そして、デート当日。
街にある、中央に大きな噴水がある広場まで来ると、リンジーはジェフと向かい合った。
「今日はありがとうございました」
「……ああ。こちらこそ」
「ここでお別れですね」
「……そうだね。一人で大丈夫?」
「まだ明るいし、慣れてますから」
リンジーがわざと明るく微笑むと、ジェフの顔が辛そうに歪むのがわかった。
(ふふ。やっぱり、ジェフ様はあたしが好きなんだわ)
確信を持ったリンジーは、一歩、ジェフに近付いた。この広場の何処かにいる、ロッティに見せつけるために、リンジーはジェフと唇を重ねた。
一瞬の間のあと。
顔を真っ青にしたジェフに、リンジーは押された。ジェフがまわりを見渡す。
不倫がばれることを恐れているのは知っている。でもそれは、ロッティが好きだからじゃない。世間体のためだ。
──だって、ジェフ様が一番好きなのはあたしだもの。
(あたしはジェフ様と一緒なら、どんな困難も乗り越えていけると信じているの。だからジェフ様も、信じて)
「……ジェフ様。あたし、やっぱり」
ぱあん。伸ばした手を、ジェフに払われた。ジェフは見たことない鋭い視線で、リンジーを睨み付けてきた。びくっ。リンジーの肩が震える。
「ジェ、ジェフ様……?」
「──もし誰かに見られていたら、どう責任をとるつもりだ?」
「あ、あの」
ジェフが「情けなど、かけるんじゃなかった」と吐き捨て、背を向ける。リンジーが待ってとすがりつく。ジェフはそれを、乱暴に振り払った。
「幻滅したよ。二度と私に近付かないでくれ」
「待って……待ってください……! あたしにはあの人と違ってジェフ様しかいないの! だからっ」
「だから? だから何をしてもいいのか? 人を裏切っても?」
冷たく言いはなつジェフの姿に、リンジーは絶句した。こんなジェフを見たのは、はじめてだった。
(どうして……そんなに世間体が大事なの? あたしよりも……?)
リンジーが手を伸ばす。行かないで。拒絶しないで。あたしを受け入れて。胸中で叫ぶが、返ってくるのは、ジェフの氷のような視線だけ。
動けない。まわりの声も、何もかも聞こえない。そんな中、静かな、澄んだ水のような声音だけがふいに耳に響いてきた。
「──それをあなたが言うの?」
667
あなたにおすすめの小説
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました
よどら文鳥
恋愛
ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。
ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。
ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。
更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。
再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。
ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。
後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。
ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる