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「クリフ殿下。私の婚約者が迷惑をかけてしまったようで、申し訳ございません。ですがエリノアにも、事情がありまして……」
「事情?」
「はい。昨日、魔物討伐におもむいたさい、賊に襲われそうになりまして……それがよほど怖かったらしく、いまも、私とその賊とが重なったのか、恐怖で逃げ出してしまい」
クリフは、そう、と呟いてから、エリノアを見た。アントンに肩を抱かれたエリノアは俯き、何かを耐えるように歯を食いしばっていた。
「……聖女エリノアは、賊ではなく、婚約者であるはずのきみ自身に怯えているように、わたしの目には見えるけど」
クリフの指摘に、アントンは、ははと軽く笑ってみせた。
「まさか、そんなことは絶対にありえませんよ。エリノアは私の恋人であると同時に、命を預け合う戦友でもあるのです。生半可な絆ではありません」
自信満々に語るアントン。その様子に、エリノアの中の耐えに耐えた糸が、ぷつんと切れた。
「……もう、いいです。あなたの科白は、吐き気がする」
アントンが「は?」と、信じられないものを見るような目をエリノアに向けてきた。エリノアが、真っ向からその視線を受け止める。
「どうせ殺されるのなら、全てをクリフ殿下に打ち合け、それから自害します」
「……な、にを」
「あなたは、わたしの死がお望みなのでしょう?」
アントンが、目を瞠った。エリノアの肩を掴み「馬鹿を言うな!」と叫ぶ。
「私がきみの死を望むはずないだろう?! 被害妄想も大概にしろ!!」
目を血走らせ、アントンがエリノアの肩を激しく前後に揺らす。止めろ、と間に入ったクリフに、アントンは必死に訴えかけた。
「クリフ殿下! エリノアの狂った妄想など、聞かなくてよいです。よく考えてみてください。エリノアを殺して、私になんの得がありますか?!」
「妄想かどうかは、これから確認する。いいから手を離せ。聖女への暴行で、牢にぶちこまれたいのか」
冷静な。けれど確かな圧を感じる年下の王子の言葉に、アントンは苦虫をかみつぶしたような顔をしながらも、エリノアの肩から手を離した。
前後への揺さぶりにめまいを起こしたのか、エリノアはその場にへたり込んでしまった。
「事情?」
「はい。昨日、魔物討伐におもむいたさい、賊に襲われそうになりまして……それがよほど怖かったらしく、いまも、私とその賊とが重なったのか、恐怖で逃げ出してしまい」
クリフは、そう、と呟いてから、エリノアを見た。アントンに肩を抱かれたエリノアは俯き、何かを耐えるように歯を食いしばっていた。
「……聖女エリノアは、賊ではなく、婚約者であるはずのきみ自身に怯えているように、わたしの目には見えるけど」
クリフの指摘に、アントンは、ははと軽く笑ってみせた。
「まさか、そんなことは絶対にありえませんよ。エリノアは私の恋人であると同時に、命を預け合う戦友でもあるのです。生半可な絆ではありません」
自信満々に語るアントン。その様子に、エリノアの中の耐えに耐えた糸が、ぷつんと切れた。
「……もう、いいです。あなたの科白は、吐き気がする」
アントンが「は?」と、信じられないものを見るような目をエリノアに向けてきた。エリノアが、真っ向からその視線を受け止める。
「どうせ殺されるのなら、全てをクリフ殿下に打ち合け、それから自害します」
「……な、にを」
「あなたは、わたしの死がお望みなのでしょう?」
アントンが、目を瞠った。エリノアの肩を掴み「馬鹿を言うな!」と叫ぶ。
「私がきみの死を望むはずないだろう?! 被害妄想も大概にしろ!!」
目を血走らせ、アントンがエリノアの肩を激しく前後に揺らす。止めろ、と間に入ったクリフに、アントンは必死に訴えかけた。
「クリフ殿下! エリノアの狂った妄想など、聞かなくてよいです。よく考えてみてください。エリノアを殺して、私になんの得がありますか?!」
「妄想かどうかは、これから確認する。いいから手を離せ。聖女への暴行で、牢にぶちこまれたいのか」
冷静な。けれど確かな圧を感じる年下の王子の言葉に、アントンは苦虫をかみつぶしたような顔をしながらも、エリノアの肩から手を離した。
前後への揺さぶりにめまいを起こしたのか、エリノアはその場にへたり込んでしまった。
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