聖女の婚約者と妹は、聖女の死を望んでいる。

ふまさ

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「……ひくっ。うう、怖かったよおぉ、お姉ちゃぁん……」

 地面にぺたんと座ったリビーが、しゃくりながら話し続ける。

「……あたし、いきなりアントン様にこんなとこ連れてこられてぇ……魔物と戦えって脅されて……怖くてできないっていったら、ま、魔物に向かってあたしを投げたんだよ……?」

 ひどいよね。ひどいよね。
 繰り返すが、真正面に立っているはずのエリノアは、無言だ。不思議に思ったリビーが面を上げる。

「……お姉ちゃん……?」

 エリノアは、不快に眉をひそめ、リビーを見下ろしていた。なんで。問いかける前に、エリノアは何かに気付いたように、その場から離れていってしまった。呆然としながら目線で追いかける。

「……あれって」

 エリノアが駆け寄っていった青年に、リビーは目を丸くした。やけに品のある、見目の良いあの青年は、いったい。

「……エリノア! 良かった。無事だったのか」

 二人の兵士に連行されてきたアントンが、心底ほっとしたように、エリノアに微笑みかける。リビーのことなど、目に入っていないかのように。

「エリノア、私はこうなってみて、ようやく気付いたんだ。きみの大切さにね。私にはやはり、きみしかいない」

 は?

 リビーの顔が、大きく歪んだ。

「きみのおかしな言動も、すべて許すよ。もちろん、婚約破棄もなしだ。私はきみのすべてを受け入れるよ」

 目線を合わさないよう、顔を伏せていたエリノアだったが、耐えきれなくなったのか、さっとクリフの背後に隠れてしまった。その様子に、アントンがぴくりと片眉を上げた。

「……クリフ殿下。申し訳ありませんが、私とエリノアの会話を邪魔しないでいただけますか?」

 アントンの科白に、リビーは目を輝かせた。

(殿下……ということは、あの人は王子様?)

「貴様は都合のいい解釈ばかりせず、現実を見ろ。エリノアはもう、貴様の顔をまともに見ることもできないほどに、嫌悪しているんだ」

「勝手なことばかり言わないでください、クリフ殿下。あなたに、私とエリノアの何がわかると言うのですか」


「……クリフ殿下ぁ……っっ」

 
 クリフとアントンの会話に割って入ってきたのは、リビーだった。


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