8 / 25
8
デイナと一緒に自室にいたセシリーは、ノックの音に、扉に目を向けた。思わずデイナと目線を合わせてから「はい。何でしょう」と、扉越しに語りかけてみた。
「きみは、セシリー嬢か?」
あまり耳馴染みのない声音に、セシリーが首を傾げる。
「? はい、そうですが……あなたは?」
「……ああ、そうだな。すまない。わたしは──」
サイラスが名乗る前に、階段を駆けあがってきたカミラが「サイラス殿下!」と、名を叫んだ。
(……え? サ、サイラス殿下?)
慌てて扉を開けるセシリー。目の前には確かに、昨日会ったばかりのサイラスがいた。
「サイラス殿下……? えと、何か……?」
嫌な予感しかしないセシリーが声をすぼめ、後ろに控えるデイナが、サイラスに鋭い視線を向ける。
また皮肉でも言いにきたのか。そんな考えが脳裏を過ったのだが──。
「……近付くな」
サイラスが右のてのひらを付きだして止めたのは、セシリーではなく、カミラだった。
「わたしはセシリー嬢と、二人で話しがしたい。邪魔をするな」
カミラが目を見開く。状況を掴めないセシリーとデイナは、ただ目を丸くしていた。
「……あの。サイラス殿下は、お姉様に会いに来られたのですよね?」
セシリーが訊ねると、サイラスは頭をふった。
「いいや。きみに会いにきた。このことは予め、きみの姉にもきちんと伝えていたはずなんだがな」
昨日と同じ。青白い顔をしたサイラスが、セシリーに向き直る。
「……頼む。部屋に入れてくれないか? 早くきみと二人になりたい」
カミラが「なっ……!」と目をむく。
甘い言葉にも聞こえるそれを口にしたサイラスを、セシリーがじっと見つめる。
(……何だろう。この切羽詰まった感じ。今にも倒れそうな……)
いまここで頼みを受け入れてしまえば、カミラの機嫌を損ねてしまう。それは明らかだ。だが、相手は第一王子。逆らうことなどできない。それはカミラとて、承知しているはずだろう。
──それに何より。
理由はわからないが、こんなに憔悴しきっている相手を放っておくなんてこと、セシリーにはできなかった。
セシリーはすっと身体を横に向け「どうぞ」と右手を部屋に向けた。サイラスが安堵するように息を吐き「ありがとう」と感謝の言葉を述べながら、部屋に入る。
「……セシリーお嬢様」
心配気なデイナに「大丈夫よ。あなたは早く、自分のお部屋に戻って」と微笑みかけ、絶句するカミラをちらっと見てから、セシリーは部屋の扉を閉めた。
「きみは、セシリー嬢か?」
あまり耳馴染みのない声音に、セシリーが首を傾げる。
「? はい、そうですが……あなたは?」
「……ああ、そうだな。すまない。わたしは──」
サイラスが名乗る前に、階段を駆けあがってきたカミラが「サイラス殿下!」と、名を叫んだ。
(……え? サ、サイラス殿下?)
慌てて扉を開けるセシリー。目の前には確かに、昨日会ったばかりのサイラスがいた。
「サイラス殿下……? えと、何か……?」
嫌な予感しかしないセシリーが声をすぼめ、後ろに控えるデイナが、サイラスに鋭い視線を向ける。
また皮肉でも言いにきたのか。そんな考えが脳裏を過ったのだが──。
「……近付くな」
サイラスが右のてのひらを付きだして止めたのは、セシリーではなく、カミラだった。
「わたしはセシリー嬢と、二人で話しがしたい。邪魔をするな」
カミラが目を見開く。状況を掴めないセシリーとデイナは、ただ目を丸くしていた。
「……あの。サイラス殿下は、お姉様に会いに来られたのですよね?」
セシリーが訊ねると、サイラスは頭をふった。
「いいや。きみに会いにきた。このことは予め、きみの姉にもきちんと伝えていたはずなんだがな」
昨日と同じ。青白い顔をしたサイラスが、セシリーに向き直る。
「……頼む。部屋に入れてくれないか? 早くきみと二人になりたい」
カミラが「なっ……!」と目をむく。
甘い言葉にも聞こえるそれを口にしたサイラスを、セシリーがじっと見つめる。
(……何だろう。この切羽詰まった感じ。今にも倒れそうな……)
いまここで頼みを受け入れてしまえば、カミラの機嫌を損ねてしまう。それは明らかだ。だが、相手は第一王子。逆らうことなどできない。それはカミラとて、承知しているはずだろう。
──それに何より。
理由はわからないが、こんなに憔悴しきっている相手を放っておくなんてこと、セシリーにはできなかった。
セシリーはすっと身体を横に向け「どうぞ」と右手を部屋に向けた。サイラスが安堵するように息を吐き「ありがとう」と感謝の言葉を述べながら、部屋に入る。
「……セシリーお嬢様」
心配気なデイナに「大丈夫よ。あなたは早く、自分のお部屋に戻って」と微笑みかけ、絶句するカミラをちらっと見てから、セシリーは部屋の扉を閉めた。
あなたにおすすめの小説
婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。
将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。
レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。
【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
夏灯みかん
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください
みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。
自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。
主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが………
切ない話を書きたくて書きました。
ハッピーエンドです。
お義姉様ばかりずるいと義妹に婚約者を取られましたが、隣国で幸せに暮らしているのでどうぞご自由に。なので今更帰って来いと言われても困ります。
神崎 ルナ
恋愛
フラン・サンシェルジュ侯爵令嬢は、義妹のローズに『お義姉様だけずるい』と何度も持ち物を取り上げられてきた。
ついにはアール王子との婚約も奪われてしまう。
フランは隣国へと出奔し、生計を立てることに。
一方その頃、アール王子達は――。
『おい、何でこんな簡単な書類整理ができないんだ?』
『お義姉様にできたことなら私にだってできますわ。もうしばらくお待ち下さい』
仕事をフランに押し付けていたため、書類が山のように溜まる王子の執務室では毎日のように言い合いがされていた。
『やはり、フランでないとダメだ』
ローズとの婚約はそのままに、フランをタダ働きさせるつもりのアール王子がフランを探しに行くが既にフランは隣国で新しい生活を手に入れていた。
その頃サンシェルジュ侯爵邸ではーー。
「見つけたぞっ!!」
「なっ、お前はっ!?」
冒険者風の男がローズと継母に迫っていた。
お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?
朱音ゆうひ@4月1日新刊発売!
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。
何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!
と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど?
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています