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 国王に、みんなに聖女として認められたデリア。やっとはじまる。イケメンにもてはやされる日々が、帰ってくる。

 身分の差に悩むことは、もうないの。ウキウキしながら、クライブに近付く。

 本当は、ずっと我慢してたんでしょ?
 あたしと愛し合いたくて、仕方なかったんでしょ?

 一緒に王宮へ行こうと誘ったのに、まだあの悪役令嬢に遠慮しているのか、断られてしまった。

「……あの女、生きてる意味ある?」

 男に媚びるしか脳のない、虐める根性すらない根暗。邪魔だな。死んでくれないかな。でも相手は、分不相応にも、公爵令嬢。

(あたしが悪役令嬢にしてあげるしかなさそうね)

 痛いの、やなんだけどなあ。
 
 ため息をつき、デリアは歩き出した



 いつそのときが来てもいいように、ナイフを忍ばせる。ゲームでは、嫉妬に狂ったフェリシアが、ヒロインをナイフで傷つけ、それを知ったクライブは怒りの限界にきて、フェリシアに婚約破棄を宣言する。

 どうにもそれが期待できない悪役令嬢に代わり、あたしがしっかりしないと。デリアは覚悟を決める。

(王宮に招待されてる今日とか、もしかしたら絶好のチャンスじゃない?)

 豪華な馬車内で、黙考する。国王は聖女であるデリアを信じきっているし、デレてもいる。

(聖女で容姿も整っているとなれば、当然のことだけど)

 クライブの父親だけあって、国王も顔はいい。だから悪い気はしないが、やはり欲しいのは、相応しいのは、クライブ。



 テッドの屋敷の応接室とは比べものにならないほどの煌びやかな応接室で、国王とお茶を楽しむ。さりげなくフェリシアのことを聞き、必要な情報を国王から引き出す。この手のことは、佳奈だったときから得意としていたことだった。

 国王が臣下に呼ばれ、お茶会がお開きとなる。まだフェリシアが王宮内のどこにいるのか聞き出せていなかったデリアは、王宮内を見学したいのですが、と上目遣いでお願いしてみた。国王が、それは、という困った顔をしたので、では素敵な中庭だけでも、と付け加えると、それならと了承してくれた。

(学園でやる方がいいかなあ。でも、あの女、あんまり一人にならないんだよね)

 案内役の兵士の後ろで、デリアが視線を前後左右に動かす。

 冷静さを装おうとはしていたが、早くフェリシアを本物の悪役令嬢にしてやりたくて、デリアの瞳孔は開きっぱなしだった。

「……あ」

 小さな声に、兵士がどうしましたと振り向く。デリアは、トイレに行きたいのですが、とにっこり笑った。

 
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